第10章 天の遺産

1 昼下がり


 その後、俺はラスと別れ、町中を歩いていた。


 向かっているのは、ヴィクターさんがいるという宿。

天の遺産レリクス』とか『星の心臓』というものは気になるけど、今すぐ探し出せるような代物じゃない。

 ほとんどノーヒントだからな……。


 まずはヴィクターさんに会いに行くことにしたのだ。


「あの、ここにヴィクターさんという方が宿泊していると思うのですが。俺、ヴィクターさんの知人で――」

「ああ、最初に泊まりに来て以来、ここには戻ってきてませんよ」


 俺の言葉に、宿屋の主人が言った。


「……一回も戻ってきてないんですか」

「ええ」


 にこやかに答える主人とは裏腹に、俺の中では不安感が膨れ上がる。

 まさか――。


「……いや、絶対道に迷ってるよな、ヴィクターさん」


 放っておいたら、二度とこの宿屋にはたどり着けない気がする。


「そもそも、その旧友にだって会えたのかな。その人のところにもたどり着けないんじゃ……?」


 あれだけの方向音痴なんだ、きっとそうだろう。




 俺は宿を出て、ふたたび通りに戻った。


「うーん、どうしたもんか……」

「あれ、どうしたんですか、レインさん?」

「あ、レインさん。こんにちは~」


 女性の二人組に声をかけられた。

 黒髪ストレートロングの清楚な美少女と、赤いショートヘアに愛嬌のある美少女である。


「ニーナとメアリ……?」


 ギルドの窓口嬢コンビだった。


「えへへ、私たち午後からお休みなんです」

「月に一回以上は有給休暇を取るように義務付けられてますからね」


 二人が説明する。


 おお、ホワイトな環境なんだな、『青の水晶』って。


「あ、そうだ。よかったら一緒に食事でもどうですか?」


 と、メアリ。


「ニーナも喜びますよ、きっと」

「ち、ちょっと、メアリちゃん……」

「ニーナは引っ込み思案なところがあるからね。あたしがサポートしてあげる」

「もう……」


 ニーナは照れたような顔をしつつ、メアリにそっと耳打ちする。


「……ありがと」

「どういたしまして」


 ……うん、二人だけでこっそり話してるつもりっぽいんだが、残念ながら聞こえてるぞ。


「じゃあ、三人でどこかに行くか」


 俺も小腹が空いてきたところだ。




 俺たちは近くのカフェに移動した。


「レインさんはどうしてここに?」


 ニーナがたずねた。


「クエストのためじゃないですよね?」

「ああ、ちょっと人に会いに来たんだ」


 俺が答えると、ニーナは表情をこわばらせた。


「人に……会いに……?」

「ああ、この間出会ったヴィクターって人にな」

「……なんだ、女の人に会うのかと思いました。よかった」


 ぽつりとつぶやくニーナ。


 うん、それも聞こえてる……。

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