6 『王獣の牙』、すでに末期状態《追放者SIDE》


 バリオスは多額の保釈金を払い、なんとか仮釈放された。

 ただでさえ、ギルドから大量の離脱者が出て、資金も苦しくなってきているというのに、さらに打撃だ。


「くそっ、どいつもこいつも……許さんぞ……!」


 怒りが収まらない。


 思えば、レインを追放した後、ギルドが没落を始めてからはずっと怒りっ放しかもしれない。

 精神の安定を得られない。


 レインが疫病神に思えた。


 奴のせいで自分の人生が転落を始めた──。

 そう考えるだけで腹立たしい。


「くそっ、くそっ、くそぉぉぉぉぉっ……!」




 ギルドに戻ってくると中の建物はポツンとしていた。


「お、おい、誰かいないのか……?」


 驚いて、建物の中を進む。


「誰か……?」


 副ギルドマスターの三人も出てこない。


「なんで、誰も……」


 普段なら賑わっているはずの、クエストの募集板や受付窓口にも誰の姿もない。

 この広い建物に、バリオス一人だけだ。


「そ、そうだ、活動停止がまだ解けてないんだった……!」


 当たり前のことすら忘れていた。

 慣れない投獄生活で、それだけ精神がすり減っていたのだ。


「とりあえずは執務室だ。たまっていた仕事を片付けないとな」


 バリオスは最上階の執務室に向かった。

 執務室の前までたどり着く。


「……ん?」


 違和感があった。

 豪奢な金の縁取りがされている扉なのだが──。


「縁取りが、ない……!?」


 そう、金の縁取り部分がえぐり取られているのだ。


「なんだ、一体……?」


 不審な気持ちが大きくなる。


 嫌な予感が膨れ上がる。

 バリオスは扉を開けて、部屋に入った。


「なっ……!」


 絶句した。

 部屋の中はめちゃくちゃに荒らされ、調度品はすべてなくなっている。


「金目のものが残ってないだと……まさか、冒険者の誰かが持ち去ったのか!?」


 恐らくそうだろう。


 所属冒険者の誰かが──あるいは、複数の人間が執務室内にある金目の物を奪い去ったのだ。

 それを止める者はいなかったのだろう。


 あるいは──誰も、もうここには見向きもしていないのかもしれない。


 見切りをつけているのかもしれない。


 そうでなければ、ギルドマスターの執務室に入って、金目のものを奪うことなど、するはずがない。


「う……おおおおおおお……おお……」


 バリオスはうめきながら、その場に崩れ落ちた。


 彼が心血を注いで築き上げてきた、大陸最強のギルド『王獣の牙』。


 その終焉のときは、すぐそこまで近づいていた──。

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