6 暗殺者と冒険者


 その日、『青の水晶』にいくと、青いショートヘアの美少女の姿があった。


「……ミラベル?」

「おはよ」


 振り返ったミラベルは無表情に告げる。

 やっぱり……ミラベルだよな?


「どうして、ここにいるんだ?」


 この間、俺は彼女に暗殺されそうになった。


 強化した加護アイテムを使って彼女を無力化し、依頼主がバリオスであることを突き止めた。

 その後、俺はミラベルを伴い、バリオスのことを証言させた。


 ……それが今から一週間ほど前のことだ。


「今日から同じギルドの仲間」


 平然と告げるミラベル。

 いやいやいや。


「お前、暗殺者の仕事はどうしたんだ?」

「やめた。これからは冒険者」

「やめた、って……そんなあっさりと?」

「末永くよろしく」


 なんか結婚の挨拶みたいだな。


「私は依頼主を裏切ったから、どっちみち暗殺者ギルドにはいられない」


 ミラベルが言った。


「だから暗殺者廃業して、冒険者を始めることにした。切り替え大事」

「そ、そうなんだ……」


 いくらなんでも切り替え早すぎないか?

 何事につけてもドライというか、執着がないというか……。


 俺は半ば呆気に取られてミラベルを見つめる。


「もしかして、俺との一件で暗殺が嫌になった、とか? それで冒険者を目指そうって思ったとか」


 ふと思いついてたずねてみた。


「暗殺は別に好きでも嫌いでもない。生活の手段であり糧」


 ミラベルが淡々と告げる。


「人の命を奪うのになんの感情も抱かない。そう育てられた」

「育てられた……?」

「私は暗殺者の里出身」


 そんな里があるのか……。

 と、


「へえ、新入りさんね」


 俺たちの背後から二十代後半くらいの女剣士がやって来る。


 ギルドの序列三位──つまり、俺やバーナードさんに次ぐ序列の冒険者ブリジットさんだ。

 ランクはC級である。


「よろしくね。あたしはブリジット──」


 彼女が言いかけたとたん、ミラベルの姿が消えた。


「えっ!?」


 まるで瞬間移動のようにブリジットさんの背後に出現している。


「背後に立たれるのは嫌」


 と、ミラベル。


「ちなみに人の背後に立つのは好き。いつでも殺せると思うと安心感がある」

「殺伐としてるな……」

「えへん」

「いや、褒めてないけど」

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