5 バリオス、捕らえられる2《追放者SIDE》


(なぜだ……なぜ、暗殺のことがバレた!? くそっ、あの暗殺者が裏切ったのか!? くっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!)


 王都に護送される道中、バリオスは怒り続けていた。


 暗殺の情報が漏れるとしたら、それは依頼を受けた暗殺者からだろう。

 奴がしくじったのだ。


 そして、恐らくはレインに暗殺のことを話した。

 自分が依頼主だということも含めて──。


(何がプロの暗殺者だ! 何が秘密厳守だ! 何がプロの誇りだ!)


 ──王都に到着すると、バリオスは王の前に連れて行かれた。


 一冒険者ギルドのマスターとはいえ、『王獣の牙』は大陸最強の五つのギルドの一つ。

 バリオスへの事情聴取には国王自らが立ち会うようだった。


「な、何かの間違いです、王よ! 私は断じて暗殺など企てておりません!」


 王の前に出るなり、バリオスはまくしたてた。


「つまり、お前は今回の暗殺未遂にはなんのかかわりもないと申すのだな」

「その通りです、王よ」

「だが、暗殺者自身からの申し立てがあるのだ。それはどう説明する?」

「で、でっちあげです!」

「その者が嘘を申しておると?」

「左様です!」


 バリオスは必死だった。


 とにかく堂々とした態度を通すことだ。

 怪しまれないようにするのだ。


 暗殺の依頼は酒場の中だったし、書面を交わしたのではなく口頭である。


 はっきりとした証拠は残っていないはず。


 ならば、後は王の心証がバリオスの裁きに大きく影響するだろう。


『こいつは嘘をついていない。無罪に違いない』という心証を、王に抱かせるのだ──。


「複数の者が調べたが、暗殺者本人の自白は信用に足るものだったようだ」


 だが、王の態度は軟化しない。


「さらに──確たる証拠はないが、状況証拠もそろっておる。お前が暗殺者との取引に使った酒場での目撃証言などもな」

「ぐっ……」


 バリオスは唇をかんだ。


 そこまで……押さえられていたのか。


「よって、お前を投獄する。あくまでも己の潔白を訴えるなら、まずは取り調べを受けよ」

「ぐぐぐぐ……」


 投獄──。

 その二文字にバリオスの目の前は真っ暗になった。


 これは何かの間違いだ。

 俺は、大陸最強ギルドの長なのだ。


 それが牢に入れられるなどという屈辱──。


「あり得ない……くそっ、全部……全部、レインのせいだ……全部……全部……全部ぅっ……!」


 バリオスは悔しさと怒りで、いつまでも震えていた。

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