3 ミラベル


「お前が……暗殺者の正体?」


 青色のショートヘアに水色の瞳。

 怜悧な顔立ちの美少女だ。


「ほどけない──」


 彼女はなおもロープを振りほどこうともがいていた。


「無駄だ」


 +10000の強化を施した捕縛ロープは竜や魔族だって解けはしない……たぶん。

 少なくとも人間の力では無理だろう。


「……確かに、無理」


 やがて、彼女はおとなしくなった。

 さすがに諦めたらしい。


「依頼主はバリオスか?」

「暗殺者が依頼主のことを話すと思うか」


 彼女が言った。

 ゾッとするほど冷たい声音。


「私には暗殺者としての誇りがある。たとえどんな目に遭っても依頼主のことは漏らさない」

「じゃあ、お前はとりあえず憲兵に引き渡すよ。そこで裁きを──」

「待って捕まるのは困る。嫌だ絶対嫌」


 唐突にコロッと態度が変わる暗殺者。


「えっ」

「話す話すなんでも話すから助けてお願い」

「いきなり方針転換しすぎだろ」


 ついさっき暗殺者の誇りがどうとか言ってたじゃないか……。


「誰だって自分の身が一番可愛いもの人間だもの」


 彼女は平然と言った。


「私の名前はミラベル。依頼主の名前を話せばいい? 他にも何か話せばいい? 好みの男性のタイプでもスリーサイズでも何でも話すから聞いて聞いて」

「お、おう……」


 いきなりの変わりっぷりに、俺の方が戸惑ってしまう。


「とりあえず、依頼主の名前を教えてくれ」

「スリーサイズはいいの?」

「依頼主の名前を教えてくれればいい」

「スリーサイズは?」

「やけにこだわるな、スリーサイズに……」

「私、意外と脱いだらすごい」

「そういう裏情報っぽいのはいいから……」


 俺は思わずジト目になった。


「依頼主の名前は──バリオス。『王獣の牙』のギルドマスター。報酬は金貨5000枚」


 ミラベルが言った。

 やっぱり、この間の副ギルドマスターたちの言葉は本当だったんだ。


「バリオスが、俺を殺そうとした……」


 ため息がもれる。


 いくら加護アイテムで暗殺を簡単に防げるとはいえ、彼がやったことを放置するわけにはいかない。


「それを証言できるか?」

「証言?」

「バリオスには法の裁きを受けさせないといけないだろ」


 これで決着をつける。


『王獣の牙』とのかかわりも、俺自身の気持ちにも。

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