6 A級昇格クエスト開始


 ご……ごごご……ごぉぉぉっ……!


 周囲の空間が鳴動している。


「これは──中級魔族が出てくるのか?」

「俺が確認する──【探知】」


 マーガレットが目を閉じ、呪文を唱えた。


 彼女はどうやら魔法剣士らしい。

【探知】はその名の通り、周囲の状況を探知する呪文だ。

 こういったクエストでは主に索敵のために使うことがほとんどである。


「異空間の──『魔界』との通路が開きかけてる! あと数分で出てくるぞ、魔族が!」


 マーガレットが叫んだ。


 俺たちはいっせいに気を引き締める。


 魔族は不定期に『魔界』からこの世界に現れる。

 出現周期も、目的も、いっさいが謎。


 ただ現れた魔族は人を襲い、大きな被害をもたらす。

 そのために冒険者や国の騎士、魔法使いたちがこれを討伐していた。


 魔族が出現する前兆として、特殊な魔力波長が現れるため、これを利用して事前に魔族の出現を予知。

 出現予測地点に討伐者を向かわせる──というのが、冒険者ギルドでの魔族討伐クエストの仕組みである。


 そして、数分後。


 マーガレットが探知した通り、空間が大きく歪んで巨大な怪物が現れた。


 ヤギを思わせる頭に黒い巨体。

 コウモリに似た翼と尾。

 いかにも悪魔といった外見だった。


 こいつが中級魔族──。


「じゃあ、片付けるか」


 俺は腰の剣を抜いた。


 竜をかたどった柄とまっすぐに伸びた美しい刀身。

 伝説級の剣、『燐光竜帝剣レファイド』だ。


「おっと、俺が先に行くぜ!」


 飛び出したのはツインテールの少女剣士──マーガレットだ。

 俺は剣を抜いた姿勢のまま、慌てて動きを止めた。


「攻撃に巻きこんでしまう! 下がってくれ、マーガレット」


 この剣は+10000の強化ポイントを注ぎこんでいる。


 俺の一振りで衝撃波が発生し、空間をも割り割く。

 直接刃が触れなくても、攻撃の軌道上にいるだけで一緒に吹っ飛ばしてしまうのだ。


「はっ、あんた一人で魔族を片づけたら、俺は昇格できないだろ!」


 マーガレットは退く気配がない。

 困ったもんだ。


「ピンチになったら、すぐ割り込むからな! 少しでも危ないと思ったら、すぐ逃げてくれ!」


 俺は彼女に念押しした。

 どのみち、言葉で言って退くような性格には見えなかった。


「へへ、俺だってリリィ先輩から直々に剣の手ほどきを受けたんだぜ。あの天才騎士から──だから、あの人に恥ずかしい戦いぶりはできねぇ!」


 マーガレットが剣を振るう。

 その剣速は一振りごとに加速していく。

 よく見ると、刀身がキラキラと光っていた。


「あれは──」

「刀身に【加速アクセル】の魔法をかけてんのさ! だから、俺の斬撃は振るたびに速くなる!」

「なるほど……」」


 まるで俺の強化だ。


「よ、よし、俺たちも!」

「ええ、加勢するわよ!」


 他の冒険者たちも剣や弓矢を構え、いっせいに加勢を始めた。


「人間どもがぁっ!」


 が、中級魔族もさすがに強い。

 衝撃波を放ち、マーガレットたちをまとめて吹っ飛ばした。


「一人残らず、殺す!」


 魔族は巨大な剣を取り出し、叫ぶ。


「させるか!」


 俺はすかさず『燐光竜帝剣レファイド』を構えた。


 すぐに片づけてやる──。

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