追放されたチート付与魔術師は気ままなセカンドライフを謳歌する。俺は武器だけじゃなく、あらゆるものに『強化ポイント』を付与できるし、俺の意思でいつでも効果を解除できるけど、残った人たち大丈夫?
8 近い将来の降格、そして没落……《追放者SIDE》
8 近い将来の降格、そして没落……《追放者SIDE》
その日、『王獣の牙』のギルドマスター、バリオスはある客の訪問を受けていた。
「こ、これは『星帝の盾』のギルドマスター様。ようこそおいで下さいました」
バリオスは恭しく頭を下げた。
相手もこちらも同じ『ビッグ5』に数えられる冒険者ギルドだ。
だが、ギルドの歴史が数十年は違う。
こちらは数年前から一気に躍進してトップに躍り出た新興ギルド。
対する『星帝の盾』は歴史上最古の冒険者ギルドの一つで、いわば老舗中の老舗である。
必然、相手の方が序列が高いような態度を取ってしまう。
「突然の訪問で申し訳ない。ですが、お耳に入れたい情報がございましてな」
マスターは声を潜めた。
「できれば、人払いをしたうえで……」
「……承知いたしました。では私の執務室までお越しいただけますか」
バリオスは相手のマスターと向かい合っていた。
態度こそ平静を装っているものの、内心では緊張が高まっていた。
(な、なんだ……なぜ『星帝の盾』のマスターが急に訪ねてきた? それもあまり喜ばしい案件ではなさそうな雰囲気だが……)
嫌な予感がした。
「単刀直入に言います。貴ギルドは現在、危うい立場に立たされております」
「危うい立場……と申されますと?」
最近の達成率低下のことだろうか?
ギルド所属の冒険者たちが次々に脱退、あるいはその予定──という情報をつかまれたのだろうか?
最近の成績不振により、早くもいくつかのメインスポンサーから資金提供の打ち切りをほのめかされていることだろうか?
それとも──?
「我々冒険者は力がすべてです」
相手が切り出す。
「モンスターの討伐や護衛、探索、採集などの依頼をしかるべき冒険者に仲介し、高い成功率を達成させる──それができないギルドは淘汰されていくでしょう」
「と、淘汰だと……!」
バリオスが目をむいた。
「今すぐ、ではありません。ですがいずれ……あるいは近い将来、貴ギルドが恐ろしい勢いで没落していったとしても、私は驚かない。すでにその兆しは見えているのではありませんか?」
「ぐっ……」
マスターの目は鋭かった。
「あ、あなたは我がギルドを糾弾しに来たのですかな?」
「糾弾? いえ、私はただあなた方を案じているだけですよ。今や内部崩壊寸前──所属している冒険者たちのことを、ね」
マスターが冷たく言い放つ。
「それを招いた者は断罪されるべきだとも思っています」
「……私のことを仰っているのでしょうか? だとすれば、いかにあなたとはいえ、聞き捨てなりませんな」
「私が申さずともご自身が一番よくお分かりでは? ただ同じ『ビッグ5』のよしみとして忠告に参っただけです。ギルドが崩壊することになったとしても、そこに所属している者たちの中には志を持って冒険者をしている者もいるでしょう。そんな者まで巻き込まれるのは忍びない」
マスターが憂いのこもった息をもらした。
「ギルドマスターであるあなたには善処していただきたい。ご自身が破滅することになったとしても、せめて冒険者たちになるべく被害が出ぬよう……」
言うだけ言って『星帝の盾』のマスターは帰っていった。
「ええい、腹立たしい!」
彼が帰るなり、バリオスは壁を殴りつけた。
ぼこっ、と高級な素材の壁が凹むが、気にする余裕はなかった。
怒りが少しずつ引き、代わりに強烈な不安感が押し寄せてくる。
「お、おかしい……どうなっている……俺はただレインのやつを追放しただけだ」
バリオスは頭をかきむしった。
悪い夢を見ているようだった。
まだ彼を追放して二週間も経っていないのである。
「なんでギルドがここまで落ちぶれていくんだ……? あり得ないだろ……なんでだ……俺は大陸最強ギルドのマスターだぞ……金も名誉も地位も女をより取り見取り……なのに……なのに……っ! く、くそぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
──一週間後、ギルド所属の冒険者の半数近くがいっせいに離脱することになるのを、このときの彼はまだ知らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます