第2章 付与魔術師と聖騎士

1 聖騎士リリィとの出会い


「お初にお目にかかります。あたしは『星帝せいていの盾』所属の冒険者、リリィ・フラムベルと申します。こちらにレイン・ガーランド様がいらっしゃると聞き、お訪ねしました」


 美しい少女騎士が俺たちに一礼する。


 名乗られるまでもなく、彼女のことは知っていた。


 史上最年少でS級冒険者に認定された、聖騎士リリィ。

 その実力は大陸中に響き渡っている。


 七歳のときに低級ドラゴン五体を討伐。

 十二歳では中級ドラゴンを打ち倒し、屈服させて乗騎にする。

 そして十七歳になった今では、上級のドラゴンをも単独で撃破するほどの実力者。


 大陸最強ギルドの一つ『星帝の盾』のエースと呼ばれる、若き天才騎士だった。


「レインは俺だけど……」

「あなたがレイン様でしたか。実は剣の強化をお願いしたく……」

「強化?」

「突然押しかけて、厚かましい願いかとは存じます。ですが、あたしは強くなりたいんです。最近、ちょっと壁に突き当たっているので、それを打開するきっかけをつかみたいんです」


 リリィは必死な様子だった。


「いいぞ」


 別に断る理由はない。


「あたしにできることなら何でもいたします。ですから、何卒ご一考を──えっ」

「そんなに必死で頼みこまなくても、強化するよ。そこまで大変な術でもないし」


 俺はにっこりと言った。


『強化ポイント』は目減りしてしまうから、またモンスター退治とかで補充しないとな。

 ドラゴン級の相手ならすぐに取り戻せるだろう。


「ありがとうございます……! ですが、無償でしていただくわけには参りません」


 リリィが言った。


「あたしに何かお礼をさせてください、レイン様。強化は、その報酬としていただくということで」

「別にいいんだけどなぁ」

「優れた仕事には対価が必要です」


 と、リリィ。


「あたしは以前、あなたが所属していたギルド『王獣の牙』の冒険者と一緒にクエストをしたことがあります。彼女の持つ武器にかかっている付与魔術は一級でした。今でもよく覚えています……平凡な剣が、強化された切れ味によって竜の鱗を切り裂くところを」

「そっか、『王獣の牙』と……」

「半日ほど前にそちらを訪れたのですが、あなたはいませんでした。それで足跡をたどり、ここまで来たのです」


 リリィが言った。


「『王獣の牙』では、あなたは休暇をもらっているということでしたが、その後調べてみると、どうもこちらに移籍したような情報が入ってきまして……」

「ああ、その、前のギルドを追放されてしまったんだ」


 俺は苦笑交じりに説明した。


「追放!? レイン様をですか!?」


 リリィが目を丸くして驚く。


「これだけの腕のある付与魔術師を、追放なんて……」

「まあ、その……いろいろと行き違いがあったというか」


 口を濁す俺。

 実際には、もう用済みだという感じで容赦なく捨てられたんだけど。

 初対面の相手にそこまで説明するのもなんだし、たとえ事実でも、俺の方から一方的に相手を悪く言う感じになっちゃうのもな……。


「……詮索するつもりはありませんでした。申し訳ありません」

「い、いや、いいんだ。謝らないでくれ」


 思った以上にシュンとしてしまった彼女に、俺は慌てて言った。

 リリィからすれば『悪いことを聞いてしまった』と思って、罪悪感を覚えたんだろうか。


 見た目は勝気そうだけど、優しい性格みたいだ。




 ──ぱきんっ。




 ふいに俺が腰に下げている剣から甲高い音がした。


「えっ、あれ……?」


 鞘から銅の剣を抜く。


 刀身が真っ二つに折れていた。

 +10000の強化をしている剣が折れるなんて──。


「……寿命が来てますね、その剣。安価な銅剣のようですから」


 剣を見て、リリィが言った。


「そっか。強化で攻撃力が上がっても、耐久力まで圧倒的に上がるわけじゃないもんな」


 空間を切り裂くほどの一撃を二度も放ったのだ。

 刀身が持たなくても仕方がない。


「むしろ、よく二発も撃てたな……一発で折れなかっただけでもすごい」


 妙に感心してしまった。


 ちなみに強化ポイントに関しては、剣が折れても消えてなくなることはない。

 とはいえ、このまま保持しておくことはできないから、また別の何かに移さないといけない。


「うーん……どうしようかな」

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