2 +10000に耐える武器


「とりあえず、ポイントをどこかに移さないといけないんだ。よかったらリリィの剣に移させてくれ」

「えっ、そんな──」

「今の俺のレベルだと他人の武器に移せるポイントの上限は300だ。だから、君の剣を『+300』まで強化できる」

「で、では、お言葉に甘えて」


 リリィは鞘に入ったままの剣を差し出した。


「これは──魔法の剣か?」

「はい、とあるダンジョンの最下層にいたフロアボスを倒して手に入れました。無銘ですが『魔力刃』と『自己修復』の二つの力が備わっています」

「なるほど……そいつは強力そうだ」


 魔法技術によって作られた剣には、特殊効果が付与されたものがある。

 リリィの剣もその類だ。


『魔力刃』というのは魔法を切り裂くことができる効果。

『自己修復』はその名の通り、剣に傷ができても自動的に修復してしまう効果である。


 俺の付与魔術は対象の武器・防具にもともと備わっている効果を強化することができる。

 今回は『魔力刃』と『自己修復』にそれぞれ+150ずつの『強化ポイント』を込めることにした。


「はい、完成だ」


 強化を終えると、俺はリリィに剣を渡した。


 手持ちの強化ポイントを300移したため、俺の銅の剣(の残骸)は+9700に戻っている。


「ありがとうございます、レイン様! 剣から──力を感じます!」


 リリィは感激した様子だ。


「俺のレベルがもっと上がれば、『強化ポイント』をもっとたくさん込められるかもしれないけど、今はそれが限界だ。悪いな」

「い、いえ、これだけで十分すぎます!」


 リリィが首を左右に振った。


「あたしに何かお礼をさせてください。ぜひ!」

「礼って言われてもな……」


 お金を請求するとか?

 うーん、ピンと来ない。


「前のギルドではこんなの全部タダでやってたし……」

「こ、これを無料で!?」


 リリィはショックを受けた様子だった。


「……『王獣の牙』のやり方は少々問題がありそうですね」


 険しい表情になってつぶやく。


「レイン様に何かお礼を──あ、そうだ! 新しい剣を手に入れるというのはどうでしょう?」

「えっ」

「レイン様の剣は先ほど折れてしまったでしょう? それに──あの剣には、もっと強大な力が込められていました」

「ああ、俺が所有する武器や防具に関しては『+30000』まで強化できるんだ」

「ならば、その強化に耐えられるだけの武器と防具が必要では? 並の装備ではレイン様の術に耐えられないでしょう。先ほどの剣のように──」

「うーん……俺の剣に込めている強化ポイントは、一撃でドラゴンを倒すレベルなんだ。その威力の攻撃を放っても耐えられる剣は、そうそうないんじゃないかな?」


 それこそ聖剣とか伝説級の剣でもなければ──。


「あ、剣の耐久力自体を強化するというのはどうです?」

「それは以前に試してみたけど、無理だったんだ。俺の付与魔術で強化できる要素は、武器なら『基本攻撃力』かその武器に込められている特殊効果だけ。耐久力は強化対象じゃなかった」

「そうですか……では、やはり耐久力自体が高い剣を探すしかありませんね」


 言って、リリィがハッとした顔になる。


「あたし、一つ心当たりがあるんですが」

「心当たり?」

「レイン様にふさわしい武器──」


 リリィは笑顔でぴんと人差し指を立て、


「伝説の剣、ですね」




「でも伝説の剣を探すって言われてもな……」

「探す必要はありません」


 困惑する俺に、リリィがにっこりと言った。


「心当たりがある、と言ったでしょう? 剣の場所はあたしが知っています」

「えっ」

「ご興味がおありなら、あたしが案内します。それをもって、今回のお礼にできれば……と」

「伝説の剣か……」


 俺の強化ポイントを込めるためには、やっぱりそういうレベルの剣が必要かもしれないな。

 よし、行ってみるか──。


「じゃあ、案内してもらってもいいか」

「もちろんです、レイン様」


 リリィが満面の笑みを浮かべた。


「ともに、よき旅を」

「ああ、よろしく。リリィ」


 ──というわけで。

 半ば勢いだが、俺は剣探しの旅に出ることになった。

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