9 セカンドライフの始まり


 両断されたドラゴンの巨体が横たわっている。


「付与魔術、術式起動。対象モンスターから『強化ポイント』を奪取開始」


 俺は呪言を唱えた。

 撃破したモンスターから『強化ポイント』を吸収する術だ。




『中級ドラゴン×1の撃破を確認』

『残存魔力を「強化ポイント」に変換』

『「強化ポイント」700を奪取しました』

『術者に「強化ポイント」を移譲しました』

『術式を終了します』



 さすがは中級ドラゴンだ、一気に700ポイントも手に入った。


「とりあえず……『銅の剣』に300移して『銅の剣+10000』にしよう。キリがいいからな。残りの数字は『布の服』に移動」


 新たに得た『強化ポイント』を移しておく。

 これで俺の装備は『銅の剣+10000』『布の服+3133』になった。




「レインさん、バーナードさん、ご無事で何よりです!」


 ギルドに戻ると、受付からニーナが飛び出してきた。


「これ、とりあえずドラゴンの鱗を切り出してきたんだ。死体はまだ森の中にあるから、後から解体業者を呼んで、さらに素材を手に入れようと思う」


 と、鱗を数枚取り出す。

 ドラゴン退治の証拠代わりだが、鱗自体にも装飾品や武器防具の素材としての価値がある。


「本当に二人でドラゴンを倒しちゃったんですね……」


 ニーナは驚いた様子で俺とバーナードさんを見ている。


「二人じゃない。こいつ一人だ」


 バーナードさんが笑う。


「俺は足手まといだったよ」

「そんな、バーナードさん……」

「いや、お前は強い。信じられんほどにな。今日からこのギルドのエースはお前だ」


 ニヤリと笑うバーナードさん。


「単独でドラゴンを討伐──しかもたった一撃だったんだ。誰も文句はあるまい」

「ギルド序列一位のあんたが言うなら、文句を言う人はいないよ」


 受付の奥からギルドマスターが出てきた。

 赤い髪を肩のところで切りそろえた三十歳くらいの美女である。


「よう、エルシー。俺はエースの座を返上だ」

「その割に嬉しそうじゃないか」


 ギルドマスターのエルシーさんが苦笑した。


「はは、こいつのとんでもない強さを見たら、無性に楽しくなってな。しかも、こいつはまだまだ強くなる……そんな予感がするんだ」


 バーナードさんが楽しげに語る。


「『青の水晶』を頼むぜ、新入り。もちろん俺や他の連中もがんばるからよ」

「はい、よろしくお願いします」


 俺はバーナードさんに礼をした。


『王獣の牙』とは随分と雰囲気が違うな、と思った。

 たとえば、さっきのバーナードさんの態度だってそうだ。


 もともと、このギルドのナンバーワンは彼だった。

 その座を惜しげもなく俺に譲ってくれたんだ。


 バーナードさんにだってプライドや面子はあるだろう。

 でも、そんなことよりも俺の活躍を喜んでくれた。


 気持ちのいい人だ、と思う。


 ニーナやエルシーさんの雰囲気も温かい。

 最初は、とりあえずの生活費を得ようと深い考えもなしに『青の水晶』に来たんだけど──。


 ここなら『王獣の牙』とは違う冒険者生活を送れるかもしれない。


 本当の仲間として、みんなと一緒にやっていけるかもしれない。


 そんな予感があった。

 だから――、


「ちょっと本格的にがんばってみようかな」




 その後、俺はドラゴン退治の報酬を受け取った。


 金貨にして1000枚。

 一般庶民なら三年くらいは何もしなくても暮らしていける額だ。


「いきなり大金が入ったな……」


 最初は、当座の生活資金を得るつもりだった。


 だけど、武器や防具のチート性能を知り、試しにドラゴン討伐に行ってみたら、あっさり倒すことができた。

 これで生活費には当分困らない。

 だから、しばらく働かなくてもいいわけだけど──。


「ここのギルドでがんばってみようかな、って気持ちが出てきちゃったからな……」

「どうしたんですか、レインさん?」


 ニーナがたずねる。


「いや、次のクエストを受けてみようかと思って」


 俺は思案しながら言った。


「難度の高いクエストを達成すれば、ギルドの実績にもなるんだよな?」

「はい。クエストの達成ランクや達成率は個人の冒険者ランクと冒険者ギルドのランク、それぞれにかかわってきますので」

「俺が難度の高いクエストを次々にこなせば、俺の冒険者ランクだけじゃなく、このギルドのランクも上がっていく……ってことだよな」


 確認していく。

 と、そのときだった。


「すみません、こちらのギルドにレイン・ガーランドという方がいらっしゃると聞いたのですが」


 ギルドに誰かが入ってきた。


 ん?

 振り向くと、そこには一人の少女の姿があった。


 高く結い上げた金髪と、炎を思わせる赤い鎧。

 そして、凛々しい美貌──。


 直接の面識はないが、その容姿は噂で聞いている。


「まさか、S級冒険者のリリィ・フラムベルか……!?」




 かくして。

 この出会いにより、俺のセカンドライフは本格的に動き出す──。







***

『いじめられっ子の俺が【殺人チート】で気に入らない奴らを次々に殺していく話。』

https://kakuyomu.jp/works/16817139556336546394


『無能扱いで実家から追放された俺、実は最強竜王の後継者だった。竜の王子として、あらゆる敵に無双し、便利な竜魔法で辺境の村を快適な楽園に作り変えて楽しいスローライフを送る。』

https://kakuyomu.jp/works/16817330662240489582


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