3 銅の剣+10000


 俺は隣町にやって来た。


 さっそく冒険者ギルドに立ち寄る。

『王獣の牙』よりもかなり小規模らしく、小さな建物だった。


「冒険者登録をお願いしたいのですが」

「ようこそ冒険者ギルド『青の水晶』へ! えっ、ぼ、冒険者登録……? 私たちのところに……?」


 受付嬢が呆然とした顔になる。

 俺より二つ三つ年下――十七、八歳くらいの若い受付嬢だ。


 黒髪を長く伸ばした清楚な美少女だった。


「はい、お願いします」

「マスター、事件です! 新規に登録される方がいらっしゃいました!」

「えっ、嘘!? また『えっ、ここって「王獣の牙」じゃないの? 別のギルド? じゃあ、いらね』って出て行っちゃうパターンじゃないの!?」


 カウンターの奥から三十歳前後くらいの女性が現れた。

 彼女がここのギルドマスターらしい。

 こちらは赤い髪を肩のところで切りそろえ、気が強そうな印象を与える美女だ。


「いえ、俺は『王獣の牙』から来たので……ただ、そこは脱退して、新たにこちらのギルドでお世話になれたら、と」


 俺は妙に慌てている受付嬢ニーナとギルドマスターにそう説明した。


「じゃあ、間違いないですね。やったー!」

「ついに……ついにうちにも新規加入者が……! ああ、神よ……!」


 なんで二人ともそんなに感動してるんだ……?


「とりあえず当座の生活資金を稼ぎたくて、何か仕事があれば紹介してもらえると嬉しいです」

「では、まず当ギルドのシステムからご案内しますね。こちらへどうぞ。あ、私は受付をしておりますニーナといいます」

「俺はレイン・ガーランド。よろしくお願いします」

「じゃあ、あたしは奥で仕事してるね。後は二人でごゆっくり~」


 ギルドマスターはにっこり笑って引っこんでいった。


 で、ニーナがこのギルドのことを教えてくれた。

 仕事の仲介料や報酬の受け取り方、俺の冒険者登録や各種の申請書類などを一通り──。

 と、


「えっ、ここって『王獣の牙』じゃねーの?」

「んなわけねーじゃん。こんなボロギルド」


 突然、柄の悪い冒険者二人が入ってきた。

 がんっ、と手近の机を蹴り飛ばす。


「ひっ」


 ニーナがおびえたように体をすくめた。


『王獣の牙』には滅多に来なかったが、ああいう手合いは中小の冒険者ギルドには割と来る。

 単に素行が悪かったり、別のギルドからの嫌がらせであったり、恐喝のたぐいであったり、理由は色々あるが……。


「やめろ」


 俺はそいつらに歩み寄った。


 今のような態度を見過ごすことはできなかった。

 これから、俺はこのギルド──『青の水晶』に所属する予定なんだから。


「なんだ、てめぇ」

「俺たちに文句がありそうだな、ええ?」

「用があるなら受付に言えばいいだろう。備品を乱暴に扱うのはやめるんだ」


 俺は彼らに言った。

 こういう連中にひるんでは駄目だ。

 毅然と対処しなければ──。


「ギルドマスターを出せ」

「この前、ここで仲介してもらった仕事がひどいもんだったからよ。迷惑料をもらいに来たんだ」

「迷惑料? ただの恐喝にしか見えないが?」


 静かに告げる俺。


「はあ? お前、もしかしてケンカ売ってる?」

「表に出ろ。俺たちの怖さを分からせてやるぜぇ」


 ……絵にかいたような悪党だな。




 俺は彼らとともに建物の外に出た。


「さて、どうするか」


 俺は付与魔術師である。

『魔術師』というクラスではあるが、俺が習得しているのは『付与魔術』だけだった。


 攻撃魔法や防御魔法、あるいは呪術、召喚術など他の系統の魔法はまったく使えない。

 いちおう一通り学んだんだけど、素質がなくて全然身に付けられなかったのだ。


 そして、身体能力の方は最低に近い。

 付与魔術を除けば、魔法も剣もまるで才能がない底辺冒険者──。


 それが今の俺だ。


 はっきり言って、正面からのケンカで彼らに勝てるはずもなかった。


「ただし──」


 俺は腰の剣を抜いた。


「へっ、そんな安物の剣しか持ってないのかよ!」

「見た目も雑魚なら、武器も雑魚ってわけだ!」


 嘲笑する二人。

 俺は銅の剣を軽く振るった。




 ぐごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!




 ……なんで剣を振っただけで、こんな轟音が鳴るんだ?


「えっ……!?」


 見下ろすと大地が──裂けていた。

 さらに周辺の空間が歪んでいる。


「大地を、さらに空間をも切り裂く剣……!?」


 これが『銅の剣+10000』の威力か──!

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