とても不幸な宇宙人
本当についていないことだと思うのだが、地球を征服するために偵察に来たとある宇宙人が地球に降り立つ前に死んでしまった。理由は、彼の乗ってきたUFOが故障してしまい、地面に激突して爆発し、そのまま死んでしまったからである。
宇宙人が目覚めると、目の前にぼんやりとした山のように巨大な黒い影が立っていた。何やらその黒い影が話しているらしいのだが、いかんせん死んでしまったために翻訳機を使うことができず、何とか地球の言語を理解し、何とか片言の地球の言語で会話を試みたのだった。
「さて、貴様が今までどれだけの罪を犯したのか、調べさせてもらおうか。どれでどれ......」巨大な影が何やら喋り始めたのだが、宇宙人にはさっぱり意味がわからなかった。「ん?貴様、罪を全く犯していないではないか。どういうことだ?」意味はよくわからないが、黒い影が何やらつづけた。
「なるほど、罪を犯していない以上、地獄に行くわけにはいかないからな」「地獄送りにすることなどはできない。貴様は天国行きだな」と黒い影は大声で言った。「よかったではないか。今時、貴様のように清らかな心を持った人間はなかなかいないぞ」「この地球に生まれて、様々な誘惑に晒されるなかで、罪を一切犯さないとは大したものだ」黒い影は今度は優しい声で言った。
宇宙人は「地球」と「生まれ」という言葉を知っていた。それで、やっと黒い影が何やら重大な勘違いしているらしいことを気付いた。宇宙人は必死になって首を横に振り、「地球生まれではない」と伝えようとした。すると、黒い影は「関心、関心。今時ここまで謙虚な人間はそういないぞ」と言った。宇宙人は意味がよくわからなかったが、たぶん伝わっていないであろうことを気付いていた。それで必死になって首をブンブンと横に振るのだが、黒い影はより一層嬉しそうな声で「本当に気に入ったぞ。貴様は絶対に天国に送ってやろう」と言った。
「全くすばらしい精神だ。感動したぞ。地獄は最悪な場所だからな」「人々は地獄とよく言うが、実際の地獄は人々がイメージするような場所ではなくてな」「鬼が働いていたり、針山の地獄や血の池の地獄があるなんてものではなく、そこには無しかないのだ」「これこそ、真の意味で地獄であろう」難しい言葉ばかりで全くもって理解ができていなかったが、宇宙人は何やらどこか別の場所に転送されることになることだけは感じ取っていたのだった。
「手続きはこれで終わりだ。さあ、天国へ行ってこい。良かったではないか」黒い影は笑いながら言った。「そうだ。貴様のことは気に入ったからな。せっかくの機会だ。地獄の秘密について教えてやろう。地獄というがその正体は、実は宇宙なのだ」「何もない宇宙に放ってしまう。退屈で何もない、地球から離れて宇宙に放り出されるのだ。人間にとってこれほどの地獄はないからな」「しかし、まあ貴様のような清らかな心を持った人には関係のないことだがな」そうして黒い影は優しい声で笑った。
そうして、宇宙人は何を言っているのかさっぱり意味がよくわからないまま、天国へと転送されたのだった。
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