ジャクリーンの叶わぬ恋

 ジャクリーンは、それはそれはいい女性だった。彼女は他の女性を寄せ付けないほどの魅力があった。そんなジャクリーンだが、彼女は今、叶わぬ恋をしているのだった。


 叶わぬ恋である理由は、恋の相手のことを想えば想うほど、ジャクリーンがその想いを伝えることができないことにあった。よくある話かもしれないが、恋とは盲目になりがちである。ジャクリーンもまさにそれで、客観的になって、周りが見えていないのである。それで、彼女のそうした恋に起因した行動が、他のものからすれば煩わしかったりするのである。


 ところで、ジャクリーンが恋焦がれる相手だが、その相手もまた魅力的で、人々を照らす明るさや朗らかさは、誰からも好かれていた。そういうわけで、ジャクリーンには恋敵なるものが多く存在した。だから、彼女がそんなライバルに打ち勝とうと少し強引な手にでることにも、それなりの理由はあるのである。


 もちろんジャクリーンはジャクリーンなりに、自分自身を客観視しているつもりだった。彼女が他のものに迷惑をかけてしまうことだって悪気があってやっているわけではない。だから、彼女は毎日のようにアプローチをかけるわけではないのである。ただ、アプローチをかける時はいつも全力でするから、その時の悪い印象だけが残ってしまうだけなのである。


 ただ、そういった不器用なところもジャクリーンの魅力を構成しているのである。彼女が毎日のようにアプローチをするわけではないのだが、彼女が現れると、もうそれはとびっきりの女性だから、他のものを寄せ付けず、なんなら他のものを巻き込んでしまうところが、彼女の魅力なのである。


 こんなにも魅力的なジャクリーンだが、叶わぬ恋であるのにはもう一つ理由があった。それは、彼女の恋する相手には最愛の相手がもうすでにいるからだった。そして、その最愛の相手はジャクリーンも負けを認めてしまうほどに、美しく彩られた女性なのだった。

 

 その最愛の相手は、いつもジャクリーンが想いを伝えることができずに去ったあとに現れる女性だった。悔しいことに、その女性はとてもおしとやかだから、ジャクリーンの盲目的なアプローチのあとに現れると、どうしてもより一層その女性が魅力的になってしまうのだった。


 もちろん、そんなことはジャクリーンだって気付いていた。自分自身の行動が、結果として引き立てているということに。だから、ジャクリーン自身だって、もっと別のアプローチをするべきだということにも気づいていた。


 しかし、彼女は決して別のアプローチは選ばなかった。その理由こそ、彼女の恋が決して叶わない理由なのだが、ジャクリーンはそれでいいと思っているからだった。つまり、自分の愛する相手が幸せならば、例え別の女にとられようとも、自分自身が引き立て役になろうとも、それでいいと思っているからだった。


 ただ、彼女は想いを伝えたかった。愛する相手がジャクリーンのことを少しでも思ってくれていればそれだけで彼女は報われると思っていたのだった。


 そんなわけで、今年もジャクリーンはアプローチをしかけるのである。他のものをなぎ倒してでも、他のものにどんなに被害が出ようとも、盲目的に直進するのである。思いを馳せる相手に、愛する想いを伝えるために。

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