僕の考えた最強のヒーロー
A君とB君とC君とD君は仲良しの4人組である。小学3年生の彼らは意外にも下校の時間が好きだった。4人でくだらない話をするのが好きだったからである。今日はどうやら昨日テレビで見たアメコミ映画の話をして、そこから最強のヒーローは誰かという話をして、自分だったらどんな能力のヒーローを考えるかという話になったらしかった。
「俺はやっぱり火が一番強いと思うな。絶対消えない火で灰になるまで燃やし尽くせば最強なんじゃないかと思うな」A君は自信満々に言った。水をかけても消えないの?と誰かが言った。「消えないよ、水なんか蒸発させちゃうくらいの火だもん」とA君は言った。なるほど、単純だがなかなか強そうな能力だ。しかし、火というものは酸素がなければ燃えないだろうし、酸素を取り上げられるような能力にはどうすることもできないのではないかと私は思う。すると、B君は「それなら、僕の考えた能力の方が強いと思うな」と言った。
「僕の考える能力は引力を操る能力だ。絶対に消えない火も強力な引力で極限まで小さくしてしまえば相手にならないね。それに、光すらも飲み込む強力な引力でブラックホールだって作れる。そうすれば、大抵のものは飲み込めてしまうから、最強だと思うな」A君はブラックホールという言葉を出されると、なんだか凄い気がして、何も言い返すことができなかった。なるほど、ブラックホールを作り出すというのはかなり強い。しかし、すべて飲み込んでしまうわけだし、制御するのは難しそうだと私は思う。すると、今度はC君が「それなら、俺の考えた能力の方が全然強いな」と言った。
「俺の考える最強の能力は分子を操る能力だ。分子を自由に結合させたり、分裂させたりする。分子の運動を停止させてしまえば、どんな人間だって生きることができない。B君の言う引力を操る能力も、分子を固定させたり、動かしたりすることを言うのだろうけど、その分子を操る能力には勝てっこないよ」何が何だかわからないが多分負けなのだろうとB君は思ったから、何も言わなかった。なるほど、分子を操る能力はものすごく強い。こんなことされたら勝てないのではないかと私は思う。すると、最後に残ったD君が「ぼくの考える能力には勝てないよ」と言った。
「ぼくの考えた能力は絶対的な主体であるということだ。絶対的な主体ということは、逆説的にそれ以外はすべて客体ということになる。それに、絶対的な主体だから客体にもならない。攻撃を食らったり、動作の対象にはならないんだ。絶対的主体が無いと存在することはできないから、分子を操る能力を持つヒーローも……
ここまで書いて何だかくだらないなと私は思ってしまった。頭の中の小学生に最強のヒーロー論議をさせるほどくだらないことはない。君たちがいくら必死に最強の能力を考えても、あくまでも創作物だから、筆者には勝てっこないのだ。どうだ、思い知ったか。ワハハ。
しかし、D君の言う絶対的主体とは、創作物だからこうして客体として対象にとることができたわけだけど、本当の絶対的主体は認知することもできないわけだし、もしかすると本当に最強なのかもしれない。けれど、こうして最強の能力論議に持ち出した瞬間に絶対的主体ではなくなってしまうわけだから、その意味が途端になくなるというジレンマがあるのだな、と思ったりもする。あっ。
我々の創作や想像にも限界があるようである。
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