地球最後の日、とあるガソリンスタンドにて
よく晴れた夏のある日。青い空に白い入道雲がもくもくと浮かんでいた。海辺には小さなガソリンスタンドがあって、ギラギラとした夏の太陽が照りつけていた。小さなガソリンスタンドの前は国道だったが、車通りは少ないため、従業員は暇そうに外に置いてある椅子に座って海を眺めていた。と、赤いオープンカーがウィンカーを出し、ガソリンスタンドへ入ってきた。彼は慌てて立ち上がり、「いらっしゃいませ」と言った。オープンカーにはサングラスをかけた50代くらいの男性が乗っていて、小さく手を挙げて挨拶をした。
「こんにちは、ハイオク満タンで」「満タンですね?」「はい。お願いします」ドライバーはサングラスを外すと言った。「今日は空が青くて、雲もソフトクリームみたいですね」「そうですね、何だか美味しそうに見えますね」「太陽も暖かくて気持ちがいいですね」「本当ですね」従業員はそう言いながら、ガソリンを給油し始めた。太陽の光が穏やかな海の波に反射している。陽の光はキラキラと七色に光った。彼は眩しそうに目を細めながら「海がきれいですね。宝石みたいです」と言った。「本当ですね。きれいだ」
ガソリンスタンドの前は車通りだけでなく、人通りも少なかった。そして、海にも真っ白な砂浜があるが、そこにも誰もいなかった。だから、まるで従業員とドライバーの二人しかこの世界にはいないかのようだった。波は打ち寄せては、海に帰っていった。そんな涼しげな波の音が微かに聞こえる。従業員は首にかけたタオルで暑そうに額の汗をぬぐった。
「車の窓拭きましょうか?」「そうですね。それじゃあ、お願いします」従業員は布巾を手に取ると、バケツの水に浸した。ドライバーはその様子を目で追い、ぼんやりと眺めていた。従業員は、布巾をギュッと捻るように絞ると、窓を拭き始めた。
「こんなに暑いと、きっとビールが美味しいですよ」従業員は窓を拭きながら言った。「そうですね。でも、どうだろう。私はサイダーの方が美味しいと思うんです」浜辺で砕ける波を見つめながらドライバーは言った。「ビールは大人にならなきゃ飲めないけれど、サイダーはいつでも飲める。それなのに、何だか大人が飲むと懐かしいような、寂しいような気がするんです。こんな暑い日には特に」従業員は窓を拭く手を止めると、「ああ、いいですね、それ」と言った。
「コーラならありますけど、どうです?飲みますか?」突然、思い出したかのように従業員は言った。「ぜひ、いくらですか?」ドライバーは財布を取り出して聞いた。しかし、従業員は「いえいえ、お代は結構です」と笑った。「さすがにそれでは申し訳ない」とドライバーは言うのだが、従業員は店の奥の方へ消えていくと「いえいえ、気持ちですから。ほら、ぜひ」と笑ってコーラを渡した。
瓶に入ったコーラはとても冷えていて、表面には細かい水滴がついていた。「冷えてますね」とドライバーが言うと、「そうでしょ。さあ、どうぞ」と従業員は栓抜きを渡した。「甘くて、炭酸がはじけて、とても美味しいですね」「本当ですね」「全くいい景色ですね」「全くです」「美しいなあ」「そうですね」
二人はコーラを飲み終えると、ドライバーはお代を払って、礼を言った。コーラの料金も払おうとしたのだが、従業員が決して受け取ろうとしないので、ドライバーは気持ちだから、とチップを払った。
青い空。白い雲。黄色い太陽。青い海。虹色の日光。白い波。白い砂浜。小さなガソリンスタンド。どこまでも続く国道。そして、赤いオープンカー。
「どこまで行くつもりですか?」
「行けるところまで行ってみます」
「そうですか。それでは、お元気で」
「ええ、お元気で」
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