それで、T氏はどうなった?
机があった。机の上はひどく散らかっていた。机の上には、数冊の本と、ばら撒かれたトランプと、飲みかけのウィスキーボトルと、リボルバーと、カタパルトがあった。カタパルトは、T氏の右手に持ったスペードの3で建設されたものだった。T氏は勢いよく吸い込むと、飛び立った。
T氏の乗る戦闘機はプロペラ機である。側面には、トランプのスペードの3がプリントされていた。T氏は雲の中を抜け、瞬く星々の間を縫うようにして飛んだ。沈みかけた太陽が赤く染めた空を飛び、太陽を追い越すと、太陽はT氏のあとから昇った。突如、空一面をカラフルな雲が多い、色鮮やかな雨を降らした。雨に濡れた戦闘機は、絵の具のパレットのように彩られた。
やがて、雲はどこかへ消えた。雨が上がり、虹が出た。T氏は虹の上に着地することにした。しかし、着地した瞬間、戦闘機と虹の色が混ざり合い、戦闘機の制御が利かなくなってしまった。上下の境はなくなり、色がチカチカと反転しだした。T氏は慌てて、近くにあった操縦マニュアルを手に取った。どのページをめくっても、大きな字で「ぶっ飛ばせ」と書いてあるだけだった。整備マニュアルを手に取った。「ぶっ飛べ」。最後に聖書を手に取った。「祈れ」と書いてあった。T氏は祈った。
突然、戦闘機は砂漠のなかに不時着した。砂煙を上げながら、徐々にスピードを落としていき、滑るようにして止まった。しかし、ほっとするのも束の間、今度はズブズブと戦闘機は沈み始めた。急いで脱出しようとするも、シートベルトが触手のように絡みついてきたため、そのまま戦闘機もろとも沈んでしまった。戦闘機は奈落の底へと落ちていった。
しばらくすると、戦闘機は底に着いた。傷一つ付くことなく着地した。外は暗く、何も見えなかったが、T氏は興味本位で、外に出た。すると、突如明るくなったかと思うと、目の前に巨大なトランプでできた城が現れた。T氏が近づいていくと、門が開かれた。城の中には、ジャックとクイーンとキングがそれぞれ4人ずつ、計12人いた。彼らはトランプからそのまま出てきたような風貌で、上下に顔があったから、正確には24人いたと言った方が適切かもしれない。
城の玉座には4人(8人)のキングがいた。彼らは声をそろえてT氏に言った。「我々の王国は脅威に晒されています。突然どこからともなく現れた魔人によって、城が襲われたのです。幸いにも、この城はトランプでできた頑丈な城なので、我々は無事ですが、次に襲われたときはわかりません」そう言い終わるや否や、城が大きく揺れた。思わずT氏は膝をついた。すると、もう一度大きく城が揺れたかと思うと、一瞬にしてトランプの城は崩れてしまった。土煙が大きく舞った。その向こうに不気味な巨大な影が見えた。
土煙が完全に収まると、そこにはウィスキーのボトルでできた巨大な魔人がいた。若干透き通った体の中に揺れる液体はウィスキーだろう。二つの大きな赤い目が、ギロリとT氏を睨んだ。T氏は立ち上がった。T氏の右手にはリボルバーがあった。魔人の頭に狙いを定めると、引き金を引いた。魔人は少し身体をのけ反らした。続けて、もう3発、連続して撃ちこんだ。しかし、身体をのけ反らせるだけで、効いているようには見えなかった。そこで今度は体に一発撃ち込んだ。すると、体に穴が開き、中からウィスキーが流れ出た。魔人は苦しそうに悲鳴を上げた。
T氏はもう一発、魔人の体に撃ち込んだ。今度は勢いよくウィスキーが飛び出し、T氏の顔にかかった。魔人はおぞましい声で呻いた。T氏は顔にかかったウィスキーを飲み込んだ。魔人の体の中にあったウィスキーが空になると、魔人は後ろにばたりと倒れ、粉々に割れて飛び散った。
突然、T氏の胃が痛み始めた。体の内側から魔人のおぞましい雄叫びが聞こえた。T氏はリボルバーを口にくわえると、胃の奥に向かって発砲した。魔人は絞り出すような叫びをあげると、それっきり静かになった。静寂が訪れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます