第6話 春日井の発見
浅川刑事は、境田町を離れて、次に向かったのは、被害者の奥さんである治子を訪ねて、被害者の家を訪れた。
――なるべくなら、娘の遥香ちゃんがいない方がいいかも知れないな――
と感じたのは、娘が両親を避けていて、両親ともを嫌っているということが分かったからだ。
先ほども、母親に知られないように、タイミングを見計らって殺害現場をわざわざ訪れたくらいだから、当然のことだろう。
そして奥さんとの会話の中で、娘の話が出るのは仕方がないが、感情的な話にはこちらからはできないと思っていた。もっとも、相手がしてくる分には問題ない。いや、却って好都合だというものだと考えていた。
「何度もすみません、K警察の浅川です」
治子は普通に迎えてくれた。夫の死からまだ少ししか経っていないのに、彼女は実に冷静だった。いや、もっというと最初から冷静だったと言ってもいい。
「いつ殺されても覚悟はできている」
とでも言わんばかりの様子に、担当刑事が浅川でなくても、皆感じているかも知れないと思うのだった。
「どういうことでしょうか?」
と、まるで落ち着いているというよりも他人事に聞こえるので、いかにも、
「招かれざるべき客」
と言ったところであろうか。
「最近、ご主人は何かに怯えていたり、不安に感じているようなことありましたか?」
と訊かれて、
「別に何も感じませんでしたが」
と平然と答えた。
それを聞いて。
――さっきのゆりなといい、この奥さんといい、どうして失踪したり亡くなった旦那の話されると、こんなに他人事のようになってしまうんだ?
という疑問が湧いてきた。
確かに、自分の中でショックがあって、整理できていない頭の中で、刑事が捜査のためとは言いながら、落ち着いていない自分の頭をさらに引っ掻き回そうとするのだから、苛立ったとしても、それは無理もないことに違いない。
さらに、相手が警察ということで、肉親の苦しみを踏みにじっても、事件解決を最優先に考えている人たちだと思われているとすれば、彼女たちの冷静で他人事のように見える態度も幾分か理解できる。そこに捜査員と、事件当時者の人との隔たりがあり、警察というものを、民間の人たちがなかなか信頼してくれない証拠なのかも知れない。
考えてみれば、警察組織というのは、完全な縦社会である。あくまでも公務員なので、一般の企業の人とは違うのだ。さらに、
「警察というのは、何かなければ動いてくれない」
ということを世間では皆熟知している。
特に、苛めであったり、DVなどの暴力、さらにはストーカー被害などは、事件が起こってからでなければ、警察は介入しようとはしないのだ。いくら、訴えても精神論だけでは権力を使うわけにはいかないということである。
「警察も暇じゃない」
と言ってしまえばそれまでだが、何か起こる前の訴えを全部聞いていれば、警察の人間は何人いても足りるわけはないということにもなるのだった。
だから、民間人は警察を信用しない。結局、本当に何かあって動いたとしても、最初に訴えた時に何もしてくれなかったくせに、
「何を今さら」
である。
少し何かを考えていた風の奥さんであったが、思いついたかのように、
「そういえば」
と口にして、
「何か気になることでも?」
「ええ、この間、娘が学校から帰ってきて、今度学校で献血車が来るんだけど、自分も献血してみようかな? と言っていたんです。その時、主人が急に読んでいた新聞をくしゃくしゃにするかのようにガサっと掴むようにして、後ろを振り向いたんです。その時の驚いた顔が印象的だったんですが、すぐに、冷静さを取り戻したので、何もなかったんですが、娘もそのことに気づいたようで、その後、何とも言えない苦虫を噛み潰したような嫌な顔をしたんです。その視線が主人に向かっていたんです」
「ほう、献血ですか。いいことじゃないですか・それなのに、ご主人が急にうろたえて、しかもそのうろたえたご主人を娘さんが嫌な目で見たんですね?」
と言って、浅川刑事は確認を促す形になった。
その話を訊いて、少し不思議に思ったので、奥さんは家族の血液型を知っているのか聞いてみた。
「奥さんは、旦那さんの血液型をご存じですか?」
と訊かれて、
「いいえ、意識したことはありませんね」
というので、
「じゃあ、娘さんと奥さんの血液型は?」
と訊くと、奥さんは訝しそうに、
「娘はAB型で、私はB型ですね」
と答えた。
――なるほど、細かいことをあまり気にしないと言われるB型らしいな。それに頭のよさそうな娘さんもAB型というのは頷ける――
と、浅川刑事は感じた。
それにしても、父親が何を気にしたのか分からなかった。だが、ある種のざわめきのようなものが心の中を支配していると感じた浅川は、これがある種のこの犯罪を構成させる何かであるかのように感じられた。
もし、浅川が感じている予感が当たっているとすれば、母親がまったく分かっていないのもおかしな気がした。本当に意識がないのか、それとも、相当な楽天家なのか分からないが、この性格も娘が母親をいまいち信用できないところなのではないかと思うのだった。
お嬢様で育てられたというところにも、何か理由があるのかも知れない。肝心なところを締めなければいけないのに、そこを簡単にスルーしてしまうところがあり、スルーしてくれる方がありがたいと思っている相手にすら、簡単にスルーされることを訝しく感じさせるほどであれば、かなりのものと言えるのではないだろうか。
――一種の世間知らずであることが、この事件の奥に潜んでいるとすれば――
と考えると、やり切れない気持ちにもなるというものだ。
献血の話を訊いて驚いた父親に対しての嫌悪と、苦虫を噛み潰したような表情から、娘は何が言いたかったのだろう。
目を向けるとすれば母親だったはずなのに、母親には目を向けることをしない。娘としては母親に対してあきらめの境地があるのだろうか。そうでもなければ、最初に我々の前に一人で姿を表したりはしないだろう。よほど母親の過保護に嫌気がさしているか、それとも頼りないと思っているか、そのあたりに原因があるのではないだろうか。
「ちなみにですが、お母さんから見て。お嬢さんはどういう娘さんに感じられますか?」
と浅川刑事は訊ねてきた。
「娘ですか? そうですね、結構いろいろ気を遣ってくれる娘ですね。家でも家事をよく手伝ってくれますし、私が勉強があるでしょうと言っても、気分転換になるからと言って、ニコニコしながら手伝ってくれるんです。一緒に買い物に行ったりもするし、最近の親子関係としては、仲がいい方だと思っていますよ」
と言っていた。
その言葉を真正面から受け取っていいのかどうか、少し思案してみた。しかし、その屈託のない表情に、ウソはないように思えるので、やはりその気持ちに間違いはないと思えたのだ。だが、母親が思っているほど娘は母親のことを慕っているのだろうか? そのあたりは疑問が残った。
「じゃあ、旦那さんはどうでしょう?」
と訊かれると、少し考え込んで。
「死んだ人のことをあれこれいうのは忍びないんですが、亭主としてはあまりいい人ではなかったと思います。会社で嫌なことがあったら、すぐに家族に当たったりするし、いつも難しそうな顔をして、家族に対しても、自分は孤独なんだとでも言いたいような孤独感を前面に押し出しているように思えるんです」
と嫌悪感を爆発させているようだった。
それは思い出すのも嫌というほどのもので、それ以上を聴くのは忍びないかと思っていると、さらに彼女は続けた。
「私は確かにお嬢様で育ったということに負い目のようなものを感じています。結婚して最初の頃は、そんな私を、それはしょうがないことだと言って許してくれていたんですが、急に私に対して八つ当たりのようなことをしてくるようになったんです。そのやり方も、私の性格や内面と比較して、まるで、お前のこういうところと同じなんだよなんて言い方をするんですよよ。そんな言われ方をしたのでは、私の方も何も言えなくなるじゃないですか。本当のことであれば、言い訳になってしまう。ウソであっても、口を開くと認めたかのように思われる。その感覚が嫌だったんですよ」
と言った。
「そのお気持ちは分かるような気がします。確かに、人によっては、自分が今からしようと思っていることを先に言われたり、されたりすると、どうしようもなく苛立ってしまうことがありますよね。きっとそれと同じ感覚なんじゃないでしょうか?」
と浅川刑事がいうと、
「ええ、まさにその通りなんです。こちらを反論できないところに追いやって、その出鼻をくじく。戦争であれば、これほど効果的な攻撃はないんでしょうが、これを人間関係の中でやってしまうと、お互いにしこりが残るのも当然と言えるのではないでしょうか? そう思うと、本当にやり切れない気持ちになります」
と言われて、次第にもし彼女の言っていることが全面的に信用してもいいのであれば、これほど辛いことはないかも知れない。
奥さんの元々の天真爛漫さといういい部分が、完全に打ち消されているようだ。そんな奥さんが、変わってしまったということで嫌いになったのだとすれば、自分がどんな酷い態度を示しているかということに気づかないまま、旦那としての威厳を示そうなどと思っていれば、奥さんはいい迷惑であり、気の毒である。話を訊いている限りでは、浅川刑事は、全面的に奥さんの味方であった。
だが、この感情が積もり積もって殺意に変わるということもないとは言えない。
今までに何度となく、そういう悲劇を見てきたではないか。特に夫婦間という密接な関係であればあるほど、余計にそう感じるのではないだろうか。
外からは見えない聖域が、実際に聖域ではなくなってしまった時、そこに残るのは悲劇なのかも知れないと、浅川は感じていた。
「奥さんの気持ちはよく分かります。どうしても家庭という狭い範囲で、しかも密室のように隔絶された世界であれば、気持ちが繋がっている間はいいのだが、どちらかの気持ちが離れてしまうと、置き去りにされた方はそれが怒りに変わってしまう。もし、相手が戻ってくれば、それは飛んで火にいる夏の虫であり、一方的な攻撃の対象として、それ以降は悲劇でしかなくなってしまうんでしょうね」
と、浅川刑事は言った。
「私がどこまで悲劇のヒロインなのか分かりませんが、きっと世の中には私と同じような思いをしている人は決して少なくないと思うんです。本当はそういう人たちとお話もしてみたいし、いろいろ意見も聞いてみたい。でも、きっと私のようなお嬢様育ちにはできることではないんでしょうね。だから自分は我慢するしかないと思っていましたが。最近は少し考えも変わってきました」
と奥さんがいうと、
「どういう意味で?」
「やはり娘が成長してくると、娘のことも考えてしまうんですよ。。旦那は私の主人であるのと同時に、娘の父親でもありますからね。娘が父親と私のことをどのように感じているかということも大きな問題になると思います。だから私は絶えず娘のことを気にしているつもりだし、最近娘が私に時々嫌な顔をすることがあるんですが、その理由が今は分からないので、どうしていいか分からず、、少し途方に暮れていたそんな時、今回の主人が殺されたという事件。私にはまだ頭が混乱していて、何をどう考えればいいのか困っているところです」
と治子は答えた。
「お嬢さんも、思春期ですので、多感な時期で、そんな時というのは、何を考えているのか自分でも分からない時期だと思うんです。そういう意味で、今回の不幸な事件はありましたけど、お母さんとしては頑張りどころなんじゃないでしょうか? お嬢さんも不安に感じているでしょうから、娘さんの気持ちになって考えてあげることをお勧めしたいと思います」
と浅川刑事は答えた。
「その通りだと思います」
という治子だったが、その目にはうっすらと涙が浮かんでいるような気がしていた。
きっと彼女は、娘が一人で自分たちに会いにわざわざ犯行現場を訪れたということを知らないだろう。娘が一人で来たということは当然母親には知られたくないことだろうから、娘の話は漠然としかできないと思っていた。だが話をしているうちに、扉が開いて、
「ただいま」
という言葉とともに娘の遥香が帰ってきた。
さすがに遥香も一瞬驚いたようだが、殺人事件の捜査なので、母親のところに刑事が来ても当たり前といえば当たり前だ。もっとも、母親は自分が目の前にいる男性を刑事だと知っているとは思っていないだろうがである。
「お邪魔しています」
と浅川がいうと、母親がすぐに、
「こちら、刑事さん、今回のお父さんの件で捜査してくださっているの」
と言った。
「ああ、そうなの。私も一緒にいた方がいいのかしら?」
というと、浅川刑事が、
「それはどちらでも構いませんよ」
というと、母親が今度は考える暇もなく即答した。
「いいですよ。一緒にお伺いしましょうか?」
というと、遥香の方も、
「はい、構いません」
と答えた。
どうやら、二人とも、隠しておくようなことはもうないと思っているようだった。
「では、お父さんは殺害されたのですが、誰かに恨みを買っていたなどという覚えはありませんか?」
と訊かれて、
「さあ、よく分かりませんね。仕事のことを家庭に持ち込む人ではなかったので、そこは何とも言えません」
と治子がいうと、
「だから、時々理由も分からず急に怒り出すことがあったりするのよ。何も言わないんだったら、堪えてくれればいいのに、結局堪えることができずに、家庭で爆発するのよ。却って悪いわ」
と遥香は言った。
母親は少しでもいい方に印象付けようとしているようだが、娘の方は、
「正直に言って、何が悪い」
というハッキリさせたいタイプであることが、垣間見えてきた。
そんな遥香を母親は恐る恐る見つめている。
「この子は何を言い出すか分からない爆弾みたいなところがある」
と感じているのかも知れない。
だが、浅川の方からすれば、
「娘が母親の証言を補足してくれている」
ということで、母親思いに見えてくる。
事情が変わればまったく違った目で見えるはずのこの母子、似ているようで似ていないところも垣間見えるのだが、それは意識して反発しあっているからではないかと浅川は感じた。
「刑事さんは生きている時の父を知らないから、こうやっていろいろな人に話を訊いていると思うんですけど、うちの父は正直、相手によって態度を変える人だと思っています。だからよほど気を付けておかないと見失いますよ」
と遥香が言った。
「じゃあ、君はちゃんと父親の性格が分かっているというんだね?」
「私は、そんな父が嫌いなの。そして、父もハッキリとモノをいう私のことが嫌い。それはハッキリと言われたことがあるから言ってるんだけどね」
と遥香がいうと、それを聞いた瞬間、治子の顔を見た浅川だったが、治子が何とも言えない困ったような表情になったことを浅川は見逃さなかった。
「なるほど、お互いに、どうして自分の気持ちが分かってくれないかというような感覚なんだね?」
と訊くと、遥香は黙って頷いていた。
その時の治子から苛立ちが感じられた。まるで自分がのけ者にされたかのようなイメージであった。遥香が黙って頷くという素振りを見せた時、治子は今までにほぼ間違いなく嫉妬心が湧いているような気がした。自分が取り残されるのを嫌がるのは、きっとお嬢様育ちのせいではないだろうか。
それにしても、この子はやっぱり何と頭のいい子であろうか?
頭がいいというのは、勉強ができる、あるいは物覚えがいいという頭の良さではない。自分で把握しておかなければいけないものをしっかりと捉えているということだ。つまりは、
「物事を見る視点を、見失っていない」
ということであろう。
なるほど、AB型らしい。
AB型には天才肌が多いというが、さすがAB型と言ったところだろうか。ちなみに浅川刑事もAB型である。
そういえば、自分の血液型というのを、皆はいつ頃知るというのだろう? 浅川は小学生の頃に知った。気が付けば知っていたと言ってもいいだあろう。だが、中学になっても知らないやつもいて、そういうやつは何か血液が必要な時にならないと知ることはないような気がした。
例えば交通事故に遭って、自分に輸血な必要な時、手術などで必要な時である。血液型として、中には自分の血液型を勘違いしている人も中にはいる。
「俺、ずっとO型だと思っていたけど、実はA型だったことが判明したんだ」
というやつの話を訊いたことがあるが、本当だろうか? ウケ狙いの作り話ではないかとさえ思えるそのことに、ビックリしてしまうのだった。
また、これが他人の血液型ともなれば、まったく分からなくて当然である。ここでいう他人というのは、血縁関係という意味以外でだが、例えば配偶者。これは知り合うのが基本、大人になってからなので、これも何かない限り、相手の血液型をいちいち聞いたりしないだろう。治子が夫の直哉の血液型を知らなかったとしても無理はない。だが、母親が子供の血液型を知らないということ、これはおかしな話であり、子供を産む際には、絶対に母親と子供の血液型は確認されるはずだ。
分娩も最悪の場合、輸血を必要とされることもあるかも知れないということである。
さて、そんな話を思い浮かべている時、浅川のケイタイが鳴った。
「はい、こちら浅川」
と言って電話に出たが、その電話をかけてきたのは、K警察署の捜査主任である上司に当たる松田警部補だった。
「はい、はい」
と、話をゆっくりと聞いていた浅川刑事だったが、急に、
「なんですって?」
と少し大きな声を挙げた、
「ええ、はい、今は被害者のお宅に伺って、奥さんと娘さんにお話を伺っています……。はい、分かりました。それではまた後で」
と言って電話を切った。
「浅川さん、どうかされたんですか?」
と訊かれて、
「実は、行方不明になっていた、被害者の弟である春日井悟工場長が、死体で発見されたそうです」
「場所は?」
「K市の外れにあるK川河川敷のちょうどガード下になっているところだそうです。もしよかったらご一緒いただけませんか?」
と言われ、
「じゃあ、用意してきます」
ということで、三人で向かうことになった。
「おじさんが殺されたということは、父の殺害事件と関係があるんでしょうか?」
と遥香が聞いてきた。
「遥香ちゃんはどうして殺されたと思ったんだい? 私は死体で発見されたとして言ってないよ」
と突っ込みを入れると、存外に平然として、
「だって、死体で発見されたといえば、他殺だと思うじゃないですか。自殺だったら、自殺死体というと思ったからですね」
と答えた。
確かに理屈には合っている。この子にはカマかけは通用しないということだろうか? それとも、本当に頭がよくて、頭の回転で、ハッとしなかったということであろうか? どちらにしても、この娘から目が離せないのは確かなようだ。
母親の方は気丈に振る舞ってはいるが、その様子は明らかに動揺している。その証拠に足が震えているのが分かった。彼女のような性格であれば、普段は天真爛漫で限界を感じさせないが、いざとなると、天真爛漫さが災いしてか、正直な身体を隠すことができないようだった。
パトカーになど乗るのは初めての二人だろうから、緊張していた。殺人寺家の現場に赴くのだから、当然、パトランプを照らして、サイレンを鳴らして走っている。パトカーと厩舎、消防自動車のような緊急車両は、たとえ赤信号であっても、緊急車両の方が優先である。他の車は、端に寄って、緊急車両をやり過ごさなければいけない。
例えば違法駐車がいて、緊急車両が通れなかった場合、駐車車両を破壊してもいいくらいだ。
強引に緊急車両が駐車車両を押しのけるように走ったとして、傷つけられたということで、違法駐車が警察に訴えて出たりしたら、それこそ、
「飛んで火にいる夏の虫」
である。
自分の車を傷つけられたとして訴えても、逆に、
「お前があんなところに駐車しているから、こちらが強引に行かなければいけなくなったんだ。そのために、緊急車両が傷ついた。その分はお前が払わなければいけないんだ」
ということになる。
当然、相手がパトカーであれば、保険も出ないだろう。何しろ、こちらが青信号で、赤信号のはずの道路を緊急自動車が横切った場合、誤って衝突したとした場合も、こちらが八、緊急自動車が二の割合で、一般車両が悪いということになる。それだけ緊急自動車というのは、緊急性に置いて、道路の上では無敵なのだ。
それでも交差点に入る時は徐行をして、細心の注意を払わなければいけないのは緊急自動車も同じで、いくら犯人を追いかけていると言っても、無謀運転は持っての他である。昭和の時代の刑事ドラマのようなカーチェイスなど、本来であれば、
「あってはならないこと」
なのである。
パトカーで現場に到着すると、捜査員がロープを張って、野次馬を整理していた。
この場所は静かなところで、そんなに人がたくさん集まってくるような場所ではないが。よく見ると、皆さん、みすぼらしい服装をしていて、いわゆる「ホームレス」というところであろうか。
なるほど、このあたりはすすきの穂のようなものが生い茂っているので、何かを隠すにはちょうどいいのかも知れない。それなのに、結構早く見つかったのは、このあたりにはホームレスが多いからなのかも知れない。
「ご苦労様です」
と言って敬礼をしたのは、田島巡査だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます