第四十三狐 本当のとっておき

 互いに奥義と魔法の連発が数分。流石に魔力も残りが乏しい。魔法はあと低威力のものを数発ぐらいで、今はエンチャントの効果はまだ続いているが、攻撃に使うか補助に使うかをよく考える必要がある。それは、相手も同じだろう。だから……


「もうこれ一本で終わらせる」


「そうですか……、精々頑張って足掻いて下さいな」


 衝突。甲高い金属音が鳴る。己の技量で戦う。


「はぁ! 【重斬撃】」


「氷河【那羅無冷】」


 マナの放つ重たい斬撃を凍らせ砕く。そのまま砕けた氷塊を蹴り飛ばした。


「【連断】」


 双剣での連撃で氷塊を全て細切れにし、突進を仕掛けてくる。


「【牙突】」


「火炎【飛車】」


 後ろに飛んで距離をとり、宙返りで円を描き黎桜を振るう。


「ッ!……」


 マナは刃が当たるところのギリギリで足を踏み止め、剣で黎桜をいなした。


「氷河【弧月】」


 出来た隙を見逃さないように、畳み掛ける。弧を描いた斬撃を何度も打ち出す。


「【魔法喰らい】」


 剣を構え、斬撃を打ち消そうとするが、氷の斬撃を消せず、抑えながらも後ずさりしていった。


「……」


「……」


 拮抗している実力に、熱くなる観客の声。私としては、マナは限界だと思っていた。


 そう……、思っていたのだ……。


 マナは剣を地面に突き刺した。


「《古の力よ 遥か先の神に交えて》」


 7つの巨大な魔法陣の展開。


「《火は 業火となりて 燃え上がる》」


 1つ目が炎のように赤く染まる。


「《水 深海の底から 湧き上がった》」


 2つ目の魔法陣が美しい海の青色となる。


「《土地が 大地を揺るがし 震え》」


 3つ目は大地の土を模倣する茶色へ。


「《雷は 荒れ果て 怒り狂った》」


 4つ目には、雷の黄色へと。


「《氷 全てを凍らせ 凍てつくし》」


 5つ目の魔法陣に、氷の結晶のような透き通る水色に。


「《風は 嵐を巻き起こし 刃となりて》」


 6つ目に優しい色の緑が染まりあげる。


「《光は 悪に裁きを 輝きを得た》」


 最後の魔法陣の光が強く輝いた。


「《我 太陽になりて 全てを照らすものなり》」


 彼女の足元に七色の光が灯った。


「《神格奥義【天神・日面双嵐星】》」


 彼女にまた、魔力の鎧が纏われる。しかし、先程とは比にならない程の密度で魔力が練ってあった。


 私は、彼女と同じ位の量の魔力があると思っていた。でも違う。今を見ればはっきりわかった。そもそものはなし、私の【氷結世界】は持続的に大量に魔力を消耗する奥義に対し、マナの【サンライトオーバーレイ】は単発の奥義魔法だ。その上、もしかしたらあの妹は、数年前から使えるようになったのかもしれない。奥義の使用魔力を減らせる方法を知っているのかもしれない。それに、神格奥義? 私の知らないものを持ってくるのは、流石にやばい。絶賛ピンチだ。


 ヤケクソだぁ! もう、やってやる!


「……、終焉【龍星天下】」


 私はなけなしの魔力で強化を施し、立ち向かう。


○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○


時間はほんの少し時間遡り……


マナ視点

(何故、あの姉は立ち向かってくる!)


 何度も、奥義や魔法の連発で魔力も無い筈なのに、戦いを続ける姉の姿にマナは焦りを感じていた。


「もうこれ一本で終わらせる」


「そうですか……、精々頑張って足掻いて下さいな」


 私は姉を煽るが向こうは、反応をまともに示さない。無表情気味といえど、多少の焦りがあることがあった。


「はぁ! 【重斬撃】」


「氷河【那羅無冷】」


 彼女の剣には、いまだエンチャントが付与されている。炎と氷。真反対とも言える、二つが何故同時に使えるかは、分からない


「【連断】」


 飛んでくる氷を細切れにして対処。


「【牙突】」


 一気に勝負を決める為に、突進による突きを放つ。


「火炎【飛車】」


 しかし、当たるかと思うところで避けられ、目線の先に炎の剣が迫るが当たる寸前で避ける。


「氷河【弧月】」


 出来てしまった隙を、見逃してくれるはずもなく、追い打ちで斬撃を飛ばして来た。


「【魔法喰らい】」


 私は、手に力を込めて双剣で三日月の形の斬撃を気合で打ち消していく。


「……」


「……」


 一つ分かったことがあった。姉は、私の剣技だけに注意を向けていたことだ。それはおそらく、私にもう魔力が無いと思っているから、ならこの戦いで勝つ為に魔法を使うべきだった。



「《古の力よ 遥か先の神に交えて》」


 しかし、単純なものや奥義といった一度見せたものだと見切られて終わる。


「《火は 業火となりて 燃え上がる》」


 だから尚更この魔法を使うしかなかった。


「《水 深海の底から 湧き上がった》」


 例え、今まで使うことに成功したことがなくとも。


「《土地が 大地を揺るがし 震え》」


 ここ一年ずっとこの魔法を練習と復習を繰り返した。


「《雷は 荒れ果て 怒り狂った》」


 できるかどうかじゃない……。


「《氷 全てを凍らせ 凍てつくし》」


 やってやるんだ……!


「《風は 嵐を巻き起こし 刃となりて》」


 集中途切れさせない……。絶対に……。


「《光は 悪に裁きを 輝きを得た》」


 最後の魔法陣の光が強く輝いた。


「《我 太陽になりて 全てを照らすものなり》」


 詠唱が終わった。あとは唱えるだけ……。


「《神格奥義【天神・日面双嵐星】》」


 初めて成功した魔法に、私は全能感が溢れた感じがした。


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