第三十九狐 諦めていたあの日

 闘技場の舞台に歩を進める私は、前の自分を思い返していた。


あの日からのはじまりを


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 私には、妹がいる。妹は魔法が多種多様の属性を使えて、頭もよくて、運動もできた。それに加え、顔もお母様譲りで美しかった。

 それに対し、私は顔が他人から見たら良いほうだが、妹には顔も才も魔法も何もかも劣っていた。


 使用人からは、蔑んだような目で見られ、妹からは罵倒され続けた。

そんな悲しい生活の中、あの日の夜に私は誘拐された。

目が覚めたときには、口を塞がれていて声が出せなく、身体が思うように動かなかった。

景色は王都とは全く違うもので、私は何もかも諦めた。生きていたいけれど、何もしたくない。その気持ちで、遠くの研究所に連れてこられた。


「連れて来たぞ。新しい実験体だ」


「そうか、では報酬の……………


 あの後の会話は、今でも覚えていない。


○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○


 あの日から数ヶ月。私は毎日、暗くて狭い牢屋の中で生活していた。食事はとらせてくれるが、それ以外は何もできない。手足は手錠で繋がれていて自由に動けない。体中は常に痛みを感じ、無気力感に襲われていた。


「くふふ、今日も頼むぞ」


「……ぁぁ……もぅ……や……だ……」


 私はいつも、死んだような目で小さく呟いた。研究者が来たと思ったら、奴に何かを打たれて身体中に激痛が走り、気を失う。


 その日々に嫌気が指していた。


○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○


 どのくらい経っただろうか、半年? 一年? 分からない。私はある日突然牢屋から出された。


「おい。ついてこい」


 無言で頷く。死んだような目で、おぼつかない足取りで、身体中を痛めながら、奴の後を歩いた。


「止まれ」


 歩むのをやめる。周りに目を向けると、さっきとはうって変わって暗く狭い空間から、明るく広い空間になっていた。あたりには大きな水の入ったガラスのカプセルがあり、中身はこの世のものではないものだったのを思い出すだけで吐き気がする。


「入れ」


 一言。私は、震えながら顔を上へと上げていく。見えたものは、空のカプセルだった。


「ッ!……うっ」


 反射的に逃げようとした。しかし、何年も体を動かしていない上に痛みを伴う身体は、容易く研究者に捕まってカプセルの中へ放り込まれた。


「いや……だ! いや!」


ゴォォォ


 久しぶりにだした感情は激しく、透明の牢で暴れるが、大量に入ってくる水に沈められ、何もできず眠りについた。


○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○


 全てが動き出したあの日。私は何もない空間で目が覚めた。周りを見渡す。


何もない。


 ここが何処かも分からない。あまり使い物にならない魔法は使えるけれど、使ったって何もない空間では無意味であった。


ヴウォン


 後ろに、一つの大きな裂け目が開いた。裂け目には、あの時の研究所が映し出される。カプセルには、私が映っていた。しかし、その姿はみるみる変わっていき、最終的に黒色の髪は変わらず、頭部に大きな耳が生え、背の方から先端が白い毛の髪と同じ色の尻尾が出てきた。


ピキッ


 ガラスにヒビが入った。そのままガラスの牢は壊れ、私の身体が中から出てきた。しかし、私の意識はここにあるから動けないと思っていたのだが、一人でに動きだした。


―――――――――――――――――

あとがき19

 いつも読んで頂きありがとうございます。作者の暗雲です。不定期投稿が続いていますが、1月1日から連続で1週間程、『獣化転生』と『凡人少女』を交互に投稿しようと思います。


 これからも文才のない私の作品を読んで貰えると嬉しいです。

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