第十一狐 懐かしい記憶

 私はゴブリン討伐をした後、前世の幼い頃を思い出していた。


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 それは、私『レナ・グライシス』になる前の名『葉山日香』の記憶。


「お父さん!」


 私がまだ5歳の頃、その頃の私は無邪気な性格で、家族から可愛がられていた。


「おうっ!日香、今日もやるぞ!」


 私の一家は、道場を開いていて、代々剣を扱う流派、『永劫龍星流』を受け継いできた。それはもちろん私もであり、毎日厳しい指導の中、家族の為にと想えば苦にはならなかった。


「飛車! 那羅無冷!」


 父さんから教わったことを何一つ見捨てない、そうして3年に渡り私は『永劫龍星流』のほとんどを習得した。しかし、ある日のこと。父さんが倒れた。病院からの説明では、父さんは不治の病にかかり、入院せざる負えなかった。その後は道場は閉じ、その中でも私は父さんとまた剣を打ち合える様になることを願って、ずっと、木刀を振っていた。


 しかし、父さんが入院してから約二年半、父さんが亡くなった。その日、私はずっと泣いていた。初めて泣いた。目が真っ赤になるまで泣き続けた。


 次の日、私はその時から木刀を持つことはなかった。生活は、学校の女子高生と同じように送っていた。家族からは心配な目で見られていた。友達からは、突然変わったことに変な目で見られた。それでも、私は木刀を持つことはなかった。私は父さんが目の前で亡くなったのを忘れたかったから。その後は、大人になって、実家を出て、仕事に付き、若くも24歳で亡くなった。


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 正直、大人になってから完全に忘れ去られた記憶。それは、ゴブリンとの戦いで握った、切れ味の悪い剣によって思い出されたものであった。


「忘れちゃいけないことなのに……、私は忘れたがっていた。私はホントにバカだな……」


 右目から一つの雫が出た気がした。


「でも、それは過去! 今はここにあるから、今を向き合わないと。」


 思い出に向き合った私は、右目の雫を腕で拭い、倒したゴブリンの左耳を剣で切る。切った耳を布製の袋に入れ、私はリフレシアに戻るのだった。

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