探偵はこの中にいる
柏木 維音
序幕
北海道
僕が住んでいる町の名前だ。
人口は4000人程、名産品はチーズと馬。馬と言っても馬肉ではなく競走馬の方だ。有名な競走馬を何頭も送り出しているらしいけど、競馬に全く興味が無いのでどんな馬がいたのかは知らなかった。町の中にはコンビニが1軒、スーパーが2軒、食事処が3、4軒にガソリンスタンド、水道工事、電気工事等々……暮らしに必要そうな会社が1軒づつ、娯楽施設は古びたボウリング場が1軒のみと、絵に描いたような田舎町である。
町の両隣には製紙業やホッキ貝、某野球選手で有名な苫小牧市と、北海道の空の玄関口である新千歳空港で有名な千歳市があり、さらに足を延ばせば札幌や登別にも行くことが出来るので位置的には悪くないように思えるのだけど……問題は距離だ。隣の市と言っても苫小牧や千歳へ行くには最低でも車で30分は掛かるのだ。小学生が気軽に自転車で遊びに行ける距離ではない。
だから隣の市へ行けるのは休みの日に親に連れて行ってもらう時ぐらいなので、僕は12年間という今までの人生のほとんどをこの町で慎ましく過ごしてきたという訳なのだが、特にここでの暮らしに不満は無かった。中、高校生達の多くは早くこんな田舎町出ていきたいと口々に言っているみたいだけど、小学生は学校・公園・友達の家があれば退屈することは無く、毎日楽しく過ごしていたんだ。
そんな人生の中でも小学6年生の1年間は色んなことがあって特に楽しかったなと、廊下を歩きつつふと思った。
3月の第3週の月曜日、今日は卒業式だった。
式はついさっき終わり、時刻は正午になろうとしている。大体のクラスメイト達は仲の良い友達グループや地区ごとに別れこの後食事に行くようだった。僕もこの後和食レストラン『
自分の教室だった部屋に入ると、不思議な感覚が湧いてきた。つい数時間前までは慣れ親しんだ『自分の教室』だったのに、卒業式を終えた今、ここは全く知らない別の部屋であるかのように感じるのだ。そんな不思議な感覚を窓際の1番後ろの席に座ってゆっくりと味わうことにした。ずっと憧れていたのだけど、とうとう最後まで席替えのくじ引きで当てることが出来なかった席である。
楽しかった小学校生活最後の1年間。それは、ゴールデンウィーク明けに起きたとある事件が始まりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます