第41話 源実朝暗殺事件考(3) 現時点での私的総括

色々とこの事件に関する可能性を述べてみましたが、私自身の現時点での理解としては、以下の様になります。


事件の主体は三浦義村。公暁はこの一件については、参加どころか直接的な関与も疑わしい気が。

動機は元々将来への不安があった中、実朝と義時が儀式の為無防備になるという「千載一遇の好機」が訪れた為。

目的は「政権中枢の空白」に乗じての自家の発言力と勢力の拡大。状況によっては事件に「無関係」な公暁を次期将軍に押し立て、更なる飛躍をも視野に。

ただ実際の展開としては、実朝は首尾よく討てたものの、肝心の義時が「何故か」その場に不在だった為、失敗。

義時不在に気づいた時点で失敗時の計画「公暁に全責任を被せて手仕舞い」へと移行。現場での盛んな「公暁アピール」がその端緒。

その後公暁に「将軍暗殺犯が貴方様の名を騙っておりました。一先ず我が屋敷へ密かに避難を」といった感じの急使を送り、慌ててやって来た公暁を抹殺。その際の公式の説明は「吾妻鏡」の通り。

義時側も「義村の作文」のいかがわしさは百も承知ながら、将軍不在の混乱時に京都とも独自のパイプがある三浦氏と揉める事で不測の事態が起こる事を憂慮し、この事実上の「手打ち案」を受け入れる。結果それが「史実」となり記録として残った…


無論「証拠」がある様な話ではありませんが、当時の状況や人間関係、「吾妻鏡」の記述や公暁の支離滅裂に見える行動を考え合わせると、私としてはこんな感じではないかなあと思っております。



公暁が実朝を仇だと思い、また殺せば自分が将軍になれるなどと本気で考えていたのならば、己が功をアピールする為にも討つ時には素顔を曝すのが自然では無いか。

そもそもそんな考えなら暗殺現場から逃げる必要すら無く、実朝の首を穂先に下げて意気揚々と石段を下りていき「暴君実朝は頼家が一子・公暁が討ち果たした! 我こそが真の将軍ぞ!」とでも嘯いて、激高した御家人達に切り刻まれました、といった話の方が阿呆なりに余程筋は通っているのではないか。

何はともあれ、殺して逃げて潜伏してから味方を募るという「吾妻鏡」の描く公暁の行動は、いかがわしい記述で名高い比企能員の乱のそれにも負けていないと思うのですが… はてさて。

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