第34話 北条時政は「慧眼」なりや

北条時政という人物はどう評価すべき方なのか。

高評価側では「平家全盛の世に頼朝を婿に迎えた慧眼」「政治的天才」といった激賞も見た事はあるのですが、頼朝死後にのし上がっていく様を見るにつけても、「剛腕」ぶりは感じられど、そこまで人並み優れた才覚の士には見えぬ様な気も。

そんな事を思いながらあらためて頼朝の一件を考えて見ると、さて、あの選択は本当に「慧眼」のなせる技だったのでしょうか。



確かに当時頼朝を婿にするという選択は、平家との軋轢などの様々な問題を生みかねぬ一種の冒険であり、大胆な選択ではあったでしょう。

しかし、関東どころか伊豆を代表する勢力ですらない北条氏のしかも傍流、という当時の時政の立場からすれば、こういう情勢でも無ければまず可能性すら無い「奇貨」であった事もまた、間違い無かったでしょう。

そう考えていくと、伊東祐親が出来ず北条時政が出来たのは、両者の能力もさる事ながらそれ以上に、所有する財産と責任を負う部下の数の違い、といった要素が大きな影響を与えたのではないかと。

頼朝の挙兵への参加にしても、例えるならば「うまくすれば破格の配当も見込めるが、裏社会絡みの為に下手を打てば全財産どころか命すら危うい、ヤバい債権」に手を出す行為と言えますが、失うものが多い者と少ない者、どちらが大勝負に出やすいかと言えば、断然後者でしょうし。

更に言えば、いざとなれば「婿殿の寝首を掻いて投降」といった非常手段も当然脳裏にはあったでしょうし、総合的に考えれば「博打」としての分はそう悪い案件では無かったのではないかとも…


そんな事をつらつら考えていくと、彼は「一角の勝負師」とは言えても、「慧眼」とまで言えるものやら、何とも怪しい気が。

そもそもあの時点で先の先まで見通せた様な慧眼の士であれば、頼朝生前にももっと活躍の場があってしかるべきだったでしょうし、何より最後にああまであっけない失脚を遂げる事も無かったのではと思うのですが、さて。

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