第18話 「英雄未満」源三位 ~説話編~

摂津源氏の棟梁・源頼政、通称源三位。


官位面では武家源氏として史上初めて従三位にまで登った方として、政治史上では以仁王を擁して平家打倒に立ち上がり、治承・寿永の乱の幕を開けた老将として、説話の世界では天皇を悩ます鵺を退治した武人として、歌の世界では「源三位頼政集」という歌集を残した武家歌人として、それなりに名の通ったお方かと思います。

ただ、行動それ自体は「英雄的」と言えるのに、少し裏を覗くとなんとも言えない凡人臭さを漂わせている、個人的にはそういった印象が拭えない方でもあります。



そしてそんな私の印象を決定づけたものはと言えば… もうかなり昔でどの本だったかも思い出せないのですが、原典から引用されていた鵺退治前の頼政の描写になります。

それは親交ある貴族の推挙によって「帝を悩ませる鵺を退治すべし」との勅命を受けた頼政が、弓矢を前に「帝の御前でもし鵺を狙ったこの一矢を外したら、面目の上からその場で自害するしかあるまい」と悲壮な決意を固める場面だったのですが、そこでおもむろに2本の矢を用意するのがポイント。

1本は当然鵺を射貫く為のものですが、さてもう1本は何の為に用意したかと言えば… 矢を外して面目を失い自害する際は、自分をこんな立場に追い込んだ推薦者の貴族を道連れに射殺してやろう、というもう一つの決意の為という。


無論説話は説話に過ぎないと言えばそうなのですが、それでも私に「英雄になり切れない凡人らしさこそが源三位」という決定的な印象を与えたという意味でも、忘れがたいエピソードではあります。


なお、この「源三位ぶり」は説話世界だけでなく、歴史の方たる「平家打倒の為の決起」でも如何なく発揮されることになるのですが… それは次にでも。


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