第8話 司馬遷への恨み言

司馬遷と言えば、「史記」を著し、後の正史の基本となる紀伝体を確立した偉大な歴史家として、その業績を否定する方はまずいないかと思います。

ただ、個人的には… 大いなる敬意と共に、それと同量くらいの負の感情を持っていたりもします。

それはより端的に言えば、「興味の無い事を省略するな!」という心からの恨み言です。



私は以前、酔狂と衝動の赴くままに、春秋~戦国期の諸国についてまとめたデータベースを作ろうと、根本史料として「春秋左氏伝」と「史記」(特に「世家」)を利用して君主の事績等を整理してみた事があるのですが、春秋期の斉・晋・楚や戦国七雄らの列強国に比べ、司馬遷の数多の小国に対する記述の、まあ適当で興味なさげな事と言ったら!

歴代君主の名前をざっとでも羅列してくれるのはまだましな部類で、少なからぬ国が「弱小国で、詳述するにたる事績がない」「小国で列叙するに足りず、ここでは論及しない」「滅ぼされたものは枚挙に暇がないので、本書の伝記には著録しない」…といった風に理由を付けられ、省略という洗礼を浴びておりますので。

…秦の本紀の様に「○○を攻めた」「××を抜いた」「△△を取った」という具合に、軍事行動を細大漏らさず書こうという熱い想いの、せめて半分でも向けて欲しかったなあと、何度思った事やら。


中国古代史家の宮崎市定氏が「司馬遷は政治より軍事を、小国より大国の事績を、地味より面白い話を好んだ」といった趣旨の事をどこかで書かれていたかと思いますが、まさにそんな彼の嗜好の成果を、省略という形で何度となく喰らわされた衝撃と遺恨は、今なお私の中で燻り続けております…

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