第4話 ~兆候~

 

  sideA:yu-ki fukuzawa

 翌朝目覚めると、俺の体は…案の定、昨日と同じように女のままだった。

「…かわんなかったか」

「…そうみたいね」

 とりあえず、連休でよかった。

 俺はそう思うことにする。

 朝顔を合わせた祐巳と、落胆するようなことはあっても。

「…今日は私、買い物に行って来るね。

 祐麒もどう?」

「そうだね、行ってみようか」

 

 町に出ると、昨日と同じように人出は多い。

「…あの、祐巳?」

 それより気になるのは。

「何?」

「あの…何で腕組んでるの?」

「…だってフツーじゃ…あ」

 俺はなんとなく察することが出来た。

 コレが、『女同士の普通のこと』なのかもしれない、と。

「祐麒は男の子、なんだったよね」

 これはよくない兆候だ。

 祐巳ですら、俺が男だったって事、忘れかけてる。

 そんなことを思いながら、俺は服を見ながらワクワクしている自分に気づく。

 もしかすると、これが女にとっての「ショッピング」なのかな、とか思いつつ。

「あ、もしかして、祐巳さん?

 ごきげんよう」

「あ、祐巳ちゃん、ごきげんよう」

「あら、由乃さんに令さま、ごきげんよう」

「えと、こちらは…?」

「あ、妹の祐麒です。

 いつも姉がお世話になってます」

「いえいえ、こちらこそ」

 どうやら祐巳が最近知り合ったという、島津由乃さんと支倉令さんのようだ。

「大丈夫なの、由乃さん?」

「ええ、もうすっかり。

 今はこうして令ちゃんとお買い物も出来るようになったのよ?」

 後で祐巳に聞いた話だと、由乃さんは最近大きな手術受けたらしい。

「じゃぁ、私たちは行くね。

 また明日…祐麒さんも、ごきげんよう?」

「うん、また明日、ごきげんよう」

「ごきげんよう」

 そういって俺は自然と、ごきげんようと声に出していた。

「…祐麒」

 由乃さんたちが去っていってすぐ。

 祐巳が俺を呼ぶ。

「何?」

「アンタ、もしかして気づいてないの?」

 祐巳は驚いたように俺を見る。

「…何か俺、へんなこと言った?」

「…気づいてないのか…。

 アンタ今、すごく自然に由乃さんたちに言ってたよ?

 『妹の祐麒です』って」

「…」

 言われて俺もはっとする。

「…アンタもしかして」

 そして祐巳は、少しあきれたように言った。

「…このまま、女で居るほうがいいの?」

 

  sideB:ryu-shi shiratori

「ほウ、コれはマた…タマなシさん、見事ニ女性デスね?」

「そうなんです~このタマナシはいつも迷惑かけるです~」

「…ひどいよぉ…って、今は本当にタマナシなのか…」

 ところ変わってここは、都内某所の女子高。

 ボク、白鳥隆士は梢ちゃんの提案で、オカ研の部長さんに助けを求めてみることにした。

「よロしいデしょウ…早速サバトを始めマしょウ…」

 そういって、オカルト研究部部室に入る。

 

「サぁ…この祭壇に仰向ケに寝てクだサイ…クックック」

「ああ…えと…お願いします…」

 不気味に笑う(いつものことだけど)部長さんにボクは一応気を使う。

「ブツブツ…」

 そしてボクの脇に立つとなにやら呪文のようなものを唱える部長さん。

 その脇では、珠実ちゃんも祈っているようだ。

「…フっ、おわリまシタ…さぁタマなシさん…」

「あ、うん…あれ?」

 起き上がると何か違和感を感じた…いや、そうじゃないことはすぐにわかった。

 『違和感がなくなったんだ』と。

「ふゥ…こレで大丈夫デしょウ…」

 そういって部長さんは、にっこり微笑む。

「あ、ありがとう、部長さん…」

 

 その帰り道。

「…珠実ちゃん」

「何ですか~?」

 いつもと変わりない彼女に、問いかける。

「…どうして今回、協力してくれたの?

 ボクが女の子のほうが…梢ちゃんを取り返しやすかったんじゃないの?」

 『あの』告白を聞かされたボクとしては、今回のことに積極的で、苦手なはずのオカ研部長さんに状況すら説明してくれた彼女の行動が不思議でならなかった。

「はぁ…フニャチンとかタマなしとか、その程度かと思いましたが…白鳥さん、意外と疑り深いんですね」

 彼女は逆に微笑んでいた。

「…確かに、白鳥さんが女性なら、スタートラインを同じに出来るでしょう。

 でも…」

 まぁ、いつもどおりといえばいつもどおりに。

 そして、満面の笑みでボクに向かって一言伝えた。

「私が、梢ちゃんの笑顔を奪うようなマネをするわけないじゃないですか」

 そんな珠実ちゃんを見てボクは思った。

 彼女の梢ちゃんへの思いは、ボクとほとんど変わらないんだ、と。

 

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