中編

 ねーこねこ!

 ねーこねこ!


 そんな声と共に大量の猫兵が画面を覆いつくすCMで有名な『ねこねこ大戦争』。


 可愛くデフォルメされた猫兵ちゃんたちをプレイヤーが操作して陣取り合戦するVRゲームなんやけど、前からすっごく気になっとったんよ。やって、猫兵ちゃんがめっちゃかわいいんやもん!


 もちろんそれだけやないよ。

 5人チームで戦うみたいやからサークルのみんなと遊んだらちょうどええし、日本の地形を忠実に再現したオープンワールドみたいやから余計楽しみ!


 このゲームの事知らんかった八金先輩にどんなゲームなんか説明したら「え、それめっちゃおもろそうやん! やろやろ」って言ってくれてん。


 そんなわけでうちのサークルは『ねこねこ大戦争』を人数分買ってプレイしてみることになったんよね。


 早速サークルのみんなとプレイするんやけど、まずはチュートリアルからやった。


 内政や外交、猫兵育成にスパイまで!

 できることはめっちゃあって、確かにこれは一人でできる分量ちゃうよねって思ったなー。


 みんながチュートリアル終わらせてとりあえずやってみよってことになったんやけど、どの役割をやるかで八金先輩が物申した。


「ウチが大将やるけどええ?」

「ええよ」「いいけど」


 みたいな感じで、それに関してはよかったんやけど。


「ほな、はーちゃんが内政、ひーちゃんが外交で、ふーちゃんはスパイ頼むで。得意そうやし」


 そう言って2回生の先輩たち、はひふ組に指示を出す。


「いやちょっと待って! そんな勝手に決めんといてよ……」

「あたしもスパイやりたいのになぁ。外交より楽しそうやし」

「スパイ……ふふふ、うちに任せとき」


 そんな感じでみんな反発(ひとり反応違うけど)しだしちゃった。

 ちょっとマズい空気だよねこれ……。

 どうしよ……。


「いや、やって得意な人がやったほうがええに決まってるやん。みんな何が得意かとか知ってるし。これでよくない?」

「やだね」「いや」「……」


 ああああ……。

 もっと空気怪しなってきたで……。

 なんとかせんと!


「えっと、ちょっといいかな? はーちゃんはなんで内政するの嫌なん?」


 そう聞いてみる。


「いや、勝手に決められるんが嫌なだけで、別に内政が嫌ってわけちゃうんよ。でもさー、やっぱ自分で決めたくない?」


 確かに。


「うんうん。そうだよね。『これしかやっちゃあかん!』なんて言われたらヤになっちゃうもんね」

「そうそれ!」


 はーちゃんと意見が一致して共感の輪ができあがる。

 でもそれは八金先輩をのけ者にしてるような感じで、先輩はますます顔をしかめていた。


「……じゃあどうすりゃええん?」


 先輩がそう訊いてくる。

 きっと先輩はただ単にはーちゃんの気持ちがよくわかってへんのだけやと思う。先輩、そういうところ鈍感やから、私が架け橋にならんと。


「先に『何やりたいん?』って聞いたりしたらええと思うんよ。どう?」

「えー、でもそれ時間かかるくない?」

「そーやけど、みんな納得してくれた方がはよう進むんちゃうかなって」

「んー、みんな『はい』って従ってくれた方が早いと思うんやけど……」


 あれれ……?

 思ったんと反応がちゃう……。

 確かに言われてみたらそうやけど……。


 私はこの考え方でいいってすっかり信じ切っとったけど、そんな考え方を示されて、一概には言えんのやって初めて気付いた。でもでも、やっぱり今回の場合はちゃんとみんなが何したいのかって気持ちを大切にしたほうがええと思うんやけどなぁ。うーん。でもうまく反論できひん……。


「えっと、はい……」


 先輩の圧力に屈して、まさしく「はい」と答えてしもうた。

 せっかくええ感じに仲良くなれてきた思ったのに。私とは全然価値観がちゃうくて歯がゆくなる。いや、価値観が結構違うなってのはわかってたんやけど、あんだけうまくいってたから、全部とんとん拍子に行くもんやと思ってたし……。うーん。


 そういうわけで私たちは納得のいかないままこのゲームを始めることに。ちなみに私は八金先輩の補佐役に抜擢された。


 開始地点は私たちの大学がある京都府を選択。

 他の都道府県にも私たちと同じようにプレイヤーがいて、戦国時代みたいに戦って天下統一を目指すゲームなんやけど、実際に戦うのはたくさんの猫兵。それも色んな種類があって剣で戦う猫兵やったり、魔法で戦う猫兵やったり結構ファンタジーな要素も混じってる。それからVRやから、ほんまに戦場にいるみたいな臨場感も味わえる。やっぱりVRといえばこれだよね!


 とにかくそんな世界で私たちは連携しながら国作りを進めていった。先輩の言う通り、みんな得意なことをやってるからか内政だったりスパイだったり、どの役割もうまく事が進んでいって、隣国との戦いも「にゃーにゃー!」と言わせながら勝利をもぎ取っていった。

 

 そんなことを繰り返していたら、あっという間に西日本を制覇してしまった。


 すごい、とは思うけど、もしかしたら他の部員はこういうのに慣れっこで、私がしたことは余計やったかもしれんよねって思うようになってきてしもうた。やって先輩の言う通りにしたらこんな感じにうまくいって、不満はいくつかあっても結果良いことになるんやったら別に私がしたことは邪魔やったかもしれんくて、迷惑やったんかな、なんて。そう思うと少し自信を無くしてしまう。


 ほんまに私は必要なんやろうか……?




 そんな中、東日本を統一した東側と、私たち西側での全面戦争が始まろうとしていた。それも、関ヶ原を舞台に。


 私たちはいつもの通り、つまりテンプレに従って東側との対戦の準備を進めていく。戦いは間近や。

 戦略会議が開かれる。もちろん八金先輩が大将として会議を仕切る。その大将が声を出した。


「さて、この大戦でウチらは勝利を目指すわけやけど、テンプレなんてもんはこの際一切捨てることにする。やってテンプレ通りにやったってそんなんバレバレなわけで、うまくいくとは思えんのよ」

「ふーん、なるほど。それで、テンプレにせーへんのやったらどうするん?」


 はーちゃんがそう訊く。

 ここからは二人の会話になりそう。


「魔法部隊が前に出て、後から剣撃部隊がやってくるようにするんや!」

「え、アホちゃうん?」


 テンプレの並びなら当然ながら遠距離攻撃ができる魔法部隊が後衛に立って、近距離が得意な剣撃部隊が前に出るはずなんやけど。八金先輩はそれを逆にするって言うてる。

 いやいや、流石にそれはおかしいと思うなぁ。


「理由はちゃんとあるんやで」

「一応聞いたる」

「今回の大戦は一筋縄ではいかんのや。どういうことかっていうと、相手が色んな所に罠を仕掛けてくるかもしれへんってことでな。例えばウチらの裏手に回り込んできて魔法部隊がやってくるかもしれへんやんか」

「はぁ」

「それに、そういう並びをしたら、相手からすると『絶対これおかしいぞ……』って罠を警戒する。ウチが今、相手側が罠仕掛けてるんちゃうかなって考えてるのと同じようにや」

「そうかなぁ。真っ向から剣撃部隊にバサバサ斬られて終わりそうやけど」

「そん時はそん時や」

「いや、流石にその策には乗れへんで……」


「面白いとは思うけどね」


 とふーちゃん先輩。確かふーちゃん先輩は魔法部隊を率いてるんやった。


「いや、流石にあかんと思う……」


 とひーちゃん先輩。ひーちゃん先輩は剣撃部隊を率いている。


「私もそれはちょっと良くないんちゃうかなーって思うんやけど。ほら、リスクとリターンが合ってへんような……」


 私がそう苦言を呈すると、


「え、ウチのこと信じてくれへんの……?」


 そう悲しそうに言うもんやから、ちょっとかわいそうやった。

 でも実際今回の作戦はちょっとあかんと思う。

 多数決でも反対派が多いし……。


「先輩、みんなの意見も聞いてみましょ? こうしたほうがいい、みたいなのそれぞれあると思うし……」

「え、いや、ウチが決めたほうが早いし、これでええと思ってるし……」

「でもみんな言うこと聞いてくれへんかもしれませんよ?」

「そんなことないって。みんな今までなんだかんだ聞いてくれたし」


「いや……ちょっとな……」「ほんまにこれやるん……?」


 微かにそんな声が聞こえた。




 にゃー! みゃー!


     にゃー! みゃー!


 東西大戦の時がやってきた。

 結局戦略はあのまままとまらず、剣撃部隊も魔法部隊も前衛に行くよくわからないことになっていた。私は回復部隊だから、その後ろについていって回復を担当する。私が率いる猫兵たちが範囲回復魔法を打ってくれるから、そういう意味では楽だけど……。


 お互いの前衛部隊が近づいてきた。

 相手の前衛部隊は当然ながら剣撃部隊で、魔法部隊は後衛に控えている。


 相手がこちらの物量に気が付いて一度ひるんだけど、魔法部隊に対しては剣撃部隊を当てれば済むわけだからいいという判断がなされたのか、また進行してきた。


 東西の部隊同士がぶつかる。

 序盤こそはそれなりに戦えていたものの、相手の砲撃部隊にまとめて猫兵を薙ぎ払われたりして、段々と苦戦を強いられるようになっていった。


 私が率いる回復部隊も魔法攻撃なんかを受けてもうボロボロ。一回本陣まで戻って部隊を回復させんと!


 そうして本陣にいる八金先輩の下へ命からがら逃げ帰ってきたのだった。






 そうして今に至る。


「ほら、私がみんなの間に立ちますから。安心していいんよ?」

「……うん。そっか。えっとな――」




 先輩の作戦を聞く。


 うんうん。

 なるほどなるほど。


 そうして私は先輩の助けになりたいがためにたくさん思考を巡らした。




「――それで、ウチはこう指示したらええんやな?」

「ですです」

「わかった」


 先輩が深呼吸をして、覚悟をした目になる。


「みんな、よく聞いてくれ。緊急作戦や」


 トランシーバーを持った八金先輩が空気を震わせる。


「え、今更どうにもならんって」


 そんな反応が返ってくる。はーちゃんかな。

 先輩がうろたえる。けどここは私の出番。


「私からもお願いです。この作戦は私も聞いたんやけど結構現実味あると思いますし、何より――楽しいと思うんよ!」


 そんな私のお願いが通じたのかは、その後の反応ですぐわかった。


「んー文香ちゃんのお願いならしょうがねぇなー。楽しいならそれに越したことは無いし」


 先輩は少し驚いたような顔をしつつも先を続ける。


「作戦は、剣撃部隊と魔法部隊がスパイ部隊に合流して相手大将を裏から倒す。ただこれだけや。詳細を話すと――」


 それからは相手の裏から「にゃーにゃー!」と作戦通りに攻撃が通り、見事相手の大将を討ち取ることに成功したんよ!

 もうほんま、みんな大喜び!


 私もちゃんと先輩の役に立てて、とっても嬉しかった。

 先輩に言ったら怒られちゃうやろうけど、戦いに勝てたことよりも嬉しかったんよ。ふふ、先輩、ありがとね。

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