関西の子がゲームをきっかけに先輩を彼女にしちゃう話
だずん
前編
にゃー!
シャキーン!
ガチャン!
みゃー!
ダン! ダン!
ドドドドドド!
猫兵多すぎやって! なんでこんなにおるん!?
とにかく逃げな!
ばたばたっ!
どたどたっ!
はぁ。はぁ。やっと逃げれたぁ。
何とか先輩の陣まで戻ってこれたけど、先輩どこにおるんやろ? ここら辺にはおらんし……。ちょっと探してみよ。
「やつがねせーんぱーい! どこにおるんですかー!?」
うーん返事ないなぁ。ここらへんにおるはずやのにー。
あれ、でもよう耳澄ましたらなんか聞こえる!
「……ったく、なんでみんな言うこと聞いてくれへんの? 別に今回の作戦悪ないと思うんやけど。もー! 部隊ぐっちゃぐちゃやし戦況は最悪やし、どないせいっちゅーねん!」
あわわわ、まだ怒ってはる……。
さっきはそこまでちゃうかったのに……。
でも逃げるとこもないし、声のする方にそーっと近づこ。
あんまり刺激しーひんように。
そーっと、そーっと。
「そこおんの誰!?」
あ、バレてしもた。
「わたし、わたしです!」
「なんや、
あの八金先輩が私のこと心配してくれるなんて、よっぽど不安やったんやろか?
「はいはい、私は無事ですよ~」
「わかった、わかったから。とりあえずこっち来い」
「はーい」
なんやろ、これからどうやって戦況ひっくり返すかってことでも話したいんやろうか?
そう考えてたら、腕を引っ張られて陣の中に連れ込まれた。
「なぁ、ウチどうしたらええんやろか」
「どうしたんですか先輩? らしくない気ぃする……。いつもやったらこっからでも『一か八か裏手に入り込んで敵将やっつけようぜ!』みたいな感じで威勢のいいこと言うて、みんなでうまくやってきたやないですか!」
「そうやけど……。でも今回はあいつらだけじゃなくて文香にもちゃうって言われてさ。なんていうかあんまし自信ないんや……」
流石にこんなに弱気な先輩は初めてかも?
確かに今までは他のメンバーが先輩の作戦にノー言うても私が「確かに先輩の言い方アレですけど、ああ見えてあなたのこと必要としてるんやと思いますよ。やから……もちろん無理に賛成してとは言わへんけど、その気持ちを受け入れてくれたら嬉しいかな」なんて言うて、先輩の作戦を受け入れてもらったりしてた。
でも今回の作戦は私もちょっとおかしいなって思って、あんまりそういうこともできひんかったんよね……。だからみんな先輩のこと聞いてくれなくて、不安になって……。
あ、そっか。
じゃあ今からでも遅くない。
「大丈夫ですよ先輩! ちょっと今回の作戦違うなーって思っただけで、私は……私は先輩のこと嫌いになったりしーひんから!」
「……そっか。ありがと」
ちょっとは落ち着いてくれたんかな?
それやったら嬉しいんやけど。
「先輩のことですから、きっとなんか作戦とか立ててるんやろうけど……ちゃいます?」
「いや、まあそうやけど……」
「言いづらい?
「でも……」
「ほら、私がみんなの間に立ちますから。安心していいんよ?」
「……うん。そっか。えっとな――」
私――
そしたら八金先輩たち4人が優しく迎え入れてくれてね。色々VRゲームとかさせてもらえて、めっちゃ楽しかったんよ!
やからすぐ入部するって決めてんけど、そっからはみんな素が出てきたんか、雰囲気がガラッと変わったんよね。
一回、チームで戦うMOBAってジャンルのゲームしてるとこ見せてもらってんけど、もうあん時はやばかったんよ!
例えば八金先輩が怒ってはった時とかは
「ちょ、集団戦やっていうのになんでタンク間に合ってへんの!?」
「いや、あっちのタワーやばかったからつい……」
「そんなん集団戦勝てばどうにでもなるんやから、ほっといたらええやん!」
「ごめんて」
「あーもうこれも勝てへんなってもうたやんかぁ」
その時は用語とかようわからんかったけど、勝てへんのを全部味方のせいにしてたのは雰囲気でわかった。
もうちょっと柔らかい言葉遣いしたらええのになー、なんて思ったり。
他にも八金先輩の操作するキャラが負けた時なんかは
「あーもう相手上手すぎやろ! こんなん誰がやっても勝てへんわ」
みたいにイラついとって、「わーこの人ヤバい人やぁ……」なんて思っとったんよ。
でも実際に一緒にそのゲームやってみたら全然印象変わってなー。
どんなんやったかな。思い出してみよっと。
「文香ちゃんこれ初めてだよね」
「はい、そうなんです」
あの怖い八金先輩と話さなあかんなんて、緊張してしゃーないよぉ。機嫌損ねたら怒られるんやろうなぁ……。
「それやったらサポートのキャラ使うんがええね。ウチはADCっていう後半から高火力出せる種類のを使うから、それまではサポートとして一緒に動いてくれたらええよ」
「一緒!? 一緒に動くんですか!?」
そんな、一番迷惑掛けそうやのに、近くにおるなんて大丈夫やろか……?
「あー確かに初めから一緒に動くんはADCとサポートだけやから、そういう意味では珍しい組み合わせかもね。まあ動くんは一緒やけど、やることは基本、他のキャラでもそう変わらんからそこは気にせんでええよ」
そこちゃうー!
そこちゃうんよ……。
「珍しいねー」ちゃうくて「怖いですー」いうことやってんけどなぁ。
そんな感じに怖いなーって思っとったけど、実際は八金先輩は私に優しく教えてくれてん。
「Q押してみ」
ぽちっ。
ヒューン、ドカン!
水のような、爆弾のようなもんが私の操作するキャラクターから放たれた。
なるほど、こうやって攻撃するんや。
「そうそうそんな感じやで。ちなみに今の攻撃が当たったら相手は移動速度がめっちゃ遅なるんよ。んで、止まったも同然の相手をウチが仕留めるんや! かっこええやろー!」
なるほど。確かにそれはかっこええかもしれへん……。
私が敵さんめがけてヒューンやって、遅なったとこを八金先輩がドドドドドって銃みたいなんをぶっ放して倒しちゃうんや……。
え、それめっちゃ楽しそうやない?
「かっこええと思います!」
「やろー? そのためにも覚えとかなあかんこといっぱいあるから説明してくなー」
「はいっ!」
そんな感じで、段々このゲームのことがわかるようになってきた。
とにかく私の仕事は八金先輩の動かすキャラをサポートすることや。サポートタイプやから当然かもしれんけど。
雑魚敵相手でもキル取る時にお金入るから、それをちゃんと八金先輩に渡すとか、ふたりともピンチになった時は私が盾になって逃がすとか……。うん、大丈夫。さっき教えてくれたこと覚えとる。これやったらできそう。
「それじゃあ始めんでー」
「はーい!」
私たちふたりで一緒に行動する。
まずは雑魚敵のキルを渡すこと。
通常攻撃で体力削って……。あっ、もう止めな。
ほんで八金先輩が倒して……。
「できてるやん! それでええよー」
「やった~」
次は相手への攻撃。
「敵めっちゃ前来とる! 今やで!」
敵さんめがけて水爆弾を投げる。
ヒューン、ドカン!
きた! 当たったで!
「よっしゃもろたで!」
ドドドドド!
敵さんが倒れた。
やった! やったー!
これは……もしかして私たちふたりの、初めての共同作業なんちゃう!? いや、言葉おかしいんはわかってるんやけど……。
やって、私がおらんかったら今の倒せてへんかったわけやし、八金先輩がおらんくても倒せてへんかったわけで……。
なんていうか、うまく言い表せへんのやけど嬉しい……。
「よっしゃ! 序盤のキルはデカいで。ありがとーな!」
「こちらこそ! 八金先輩、かっこよかった……」
「嬉しいこと言ってくれるやん! まだまだ試合は続くから、こっからもよろしくな」
「はい!」
それから敵さんから八金先輩を守ることも忘れんように。
「ちょ、3人も近くに隠れてるとか聞いてへんって! あかん撤退や!」
撤退って言うけど、八金先輩の方が敵さんのすぐ近くにおって、一緒に逃げとったら私だけが生き残っちゃう。そんなんあかん!
「私、身代わりになります!」
「え、あ、うん。助かる!」
私はQで敵さんの行動を遅くしてから、八金先輩より前に出て身を差し出す。
バサバサバサッ。
ジャキーン!
案の定倒されちゃったけど、八金先輩は何とか逃げられたみたい。ほっ。
「ありがと、また助かったわー。てか文香ちゃんうまくない?」
「いやいやそんなことあらへんよー。八金先輩のこと助けよーって思ってるだけなんよ?」
ほんまにそれだけ。でもその気持ちがあったらこのゲームでも意外と活躍できるかもしれへん。
ちょっとだけそう思う文香さんなのでした。
とにかくそんな感じに八金先輩に対する印象は変わっとって、そのゲームをする時なんかはいっつも一緒にプレイしとってん。確かに怒りっぽいところはあるんやけど、それは勝つことが大事な先輩やからしゃーないな、いつものことやしなーって段々受け入れられるようになってきた。
やって私は、八金先輩がそうやって進んでいくのをサポートするんがめっちゃ楽しいんやもん! うまく歯車が回るようなそんな感じがして……。やっぱりうまく言い表せへんのやけど、そういう気持ちになるから、良いとこも悪いとこも全部含めて八金先輩が好き。いや、変な意味ちゃうんやけどね! そんな変な気持ちになってるわけちゃうくて……! 多分……。
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