第7話 子供の寝かしつけ

 俺は詰所に行った帰りに氷を買いに行っていた。

 氷は魔法で氷を生み出すのが一般的でそれを袋に入れて売ってくれるのだ。


「おっちゃん。一袋ちょうだい!」


「あいよ。汝の願いに答え凍てつく氷を生み出せ。アイス」


 ジャラジャラと袋の中に氷が入っていく。

 先端を軽く結ぶと渡してくれた。

 銅貨一枚を渡すと家に急いだんだ。


 まだレアンは帰ってきていなかった。

 氷を冷暗所に置いてベッドの布団を少し多めに用意する。

 これはソニアに言われていた。


 そのときレクチャーを受けたのが、熱が上がるうちは布団を少し厚めにかけておく。だが、上がりきったあとは少し薄めにした方がいいんだとか。


「あっ、交代できた?」


「あぁ、オルグさんに代わってもらったよ。大丈夫だ」


「良かった。これが薬よ。じゃあ、レアンをお願いね?」


「あぁ。任せてくれ。いってらっしゃい」


 レアンを受け取るとグズグズしているレアンを少し上下に揺れながらあやす。

 ソニアはいそいそと準備して出かけて行った。


 この街では昔から出産に立ち会うのは治癒院のもの達で、ソニアは物心着いた頃から手伝いをしているのだ。

 今はもう中堅の治癒士である。

 新しい命と向き合う妻、誇らしいものだ。


「レアンのママは凄いよなぁ。赤ん坊を産むお手伝いをしてるんだぞぉ?」


「あうー」


「そうだろう? すごいよなぁ」


 話していると口をパクパクしだしたレアン。

 お腹がすいたんだろうか?

 水分取らないとな。


 一回温めたお湯を水差しに入れて水を張った桶に入れて冷ます。そしたら、布を水差しの出口に当ててレアンの口へと運ぶ。


 水差しに手を当てながらちょっとずつ喉を動かして水を体内に入れていく。背中を指先で軽く叩くと胃に溜まっていた空気を出すのだ。


「げーっふっ」


「おーっし。出たな。いい子だぞぉ」


 少し息が荒いが目をつぶって一定のリズムで呼吸をし始めた。

 ベッドに寝かせるか。ここからが勝負だ。


 覆い被さるようにベッドにのり、まず肘を置く。

 衝撃を緩和させるんだ。

 これは俺が編み出した技だ。


 レアンはまだ目をつぶって一定のリズムで呼吸をしている。

 ゆっくりゆっくりベッドに下ろしていく。

 足をベッドにつける。


 ここまではオーケーだ。

 ゆっくりと足の下の手を抜いていく。

 いぃぞ。いい調子だ。


 レアンは起きる気配はない。

 ここからが最難関だ。

 体をベッドにつける。


「ふぇぇ」


 慌てるな。落ち着け。

 レアンの背中を指で優しくノックしてあげる。

 先程の泣きそうな表情はなくなり、また一定の呼吸にもどった。


 腕を下ろし、背中をおろす。

 最後に頭だ。もう少し。

 油断するな。


 手をなるべく薄くするように意識するんだ。

 布のようにゆっくりと滑らかに引いていくぞ。


 レアンは完全にベッドに身を沈めた。

 ミッションコンプリート!


「っしっ!」


 思わずガッツポーズしてしまった。

 静かに布団をかけていく。


「ふー。なんとか寝てくれたな。さてと」


 室内を見渡すと朝から慌てていたので俺の着替えやらソニアの着替えがそこらに散乱している。

 それに加えてテーブルは食べ散らかして食器はそのままだし、中には食べ残しがあるものもある。


 衣類を静かに拾い上げ洗い場に持っていくと先程温めたお湯の残りと水を桶に入れてその中に衣類を入れてつける。


 水分を十分に含ませた後に洗った方が汚れが落ちるらしい。これはソニアが言っていたから正しいかは怪しい。


 なぜ怪しいのかと言うと、信ぴょう性の無い奥様方の口コミを信じてやっている事が多々あったりするからだ。


 まぁ、そういうものだと割り切ってやっている。汚れが落ちている気になればそれでいいのだ。


 つけてる間に食器の片付けに入る。

 中には食器同士がぶつかると音がうるさいものがある。それに気をつけて一つ一つ運んで洗い場で洗っていく。


 食器を洗う時は少し街から外れたところに自生するソープハーブというものを使っている。

 これがいい香りがして水に濡らして擦ると泡立つのだ。

 最初にソニアにこれを使うといいと言われた時は目を細くして訝しんだものだが、使ってみると香りが良いい。


 俺は今この洗い物が一番好きだ。


 ヘツマという植物を乾燥させたものに泡立たせて食器を洗うと凄くよく汚れが落ちるのだ。

 この汚れが落ちている感覚が楽しい。


 衣類の洗濯はと言うと同じソープハーブを使うのだが、こちらはヘツマは使わない。滑らかな波なみの形状の板に衣類を擦り付けるのだ。


 そうして汚れをとる。

 少し使い古されている衣類はくたびれている。

 ソニアには悪いな。


 俺は冒険者として活動していた頃は金は装備につぎ込んでいたから貯蓄なんてものは無い。

 貯蓄をしてから冒険者を辞めりゃ良かったが、子供とソニアとの時間を大切にしたかったんだ。


 俺が選んだ道だ。

 苦労させないように今の兵士でも昇格すれば給金は上がる。

 頑張って街のために働くんだ!


 といいながらやっているのは子育てと食器洗いと選択。週一回は鍛錬しているのだが、それだと足りないかもしれない。


 レアンが体調が落ち着いたら少し鍛え直そう。

 そうだ。暗くなっちゃいかんな。

 今はレアンの熱が下がることを祈るんだ。


 あっ、薬飲ませるの忘れた。

 ヤバい。

 飲ませないと修羅と化すソニアが見える。


 ひ、昼に飲ませよう。

 必ず。

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