第6話 発熱

「あー! うあーーー!」


 けたたましい声に目が覚める。

 ソニアも起きたが、手で制して俺がレアンを抱っこする。


「あーーーー! うあーーー!」


 もう生れてから半年が経とうとしていた。

 今までこんなのなかったのにどうしたんだろうか? 今日したことといったら……。あぁ。ガージさんが遊びに来たな。


 ジェイさんに聞いたことがある。知らない人にたくさん会うとその日は夜泣きが酷いんだってボヤいてたっけ。


 それで、一時は娘が知らない人に会わせるのをやめたんだそうだ。それで少し収まったとか。


 レアンがその程度で……って言ったら他の人を下に見ているようになってしまうな。でも、ガージさんに会ったくらいでそんなに泣いたりするかな?


 もしかして、前世の誰かに似てたとか?

 だから、怖くて泣いてるのか?


「よーしよし。レアン。大丈夫だぞ。怖くないぞぉ。父さんが居るんだ。何も怖いものなんて無いぞぉ」


 左右に揺れながらも縦にも揺れる。

 そうする事でいつもは寝るんだが。

 この夜泣きのときは違った。


「あーー! あうあーー!」


 一体どうしたというのか。

 レアン。

 前世で何があったんだ?


「レアン。大丈夫だぞぉ。何にも怖くない」


 そうは言うものの怖くて泣いているのかは果たして分からない。

 あれ?


 あぁ。匂いがしてたのに気が付かなかった。

 小さいベッドに寝かせると布のおしめを取るとベットりとついていた。


「気持ち悪かったんだな。すまん。気づくのが遅れた。いつもしないのにな?」


 そう話しかけながら新しい布とお湯を持ってきて全て拭き取る。なかなか赤ん坊の足を上げてると難しいんだが、股の色々な隙間に入り込んでいたりするもんだから大変だ。


 丁寧に拭いているとブルブルっと震え出した。


「あぁ。寒かったか? すま────」


 その時だ。暖かい液体が腹にかかる。

 シャーーーっと噴水のように放物線を描いて、俺の腹の辺りの布が黄色くなる。


「あうぅぅぅ」


「はっはっはっ! 気持ちがいいか? 良かったなぁ。そうだ。交換する時は上に布をかけておいた方が良いってニーナが言ってたな。こういう意味だったのか」


 新しい布を持ってきて再び下に巻く。この時は布をかけておくのは忘れなかった。


「よーしっ。いいぞぉ」


 また抱っこすると揺れて動いた。

 少しするとスヤスヤと眠りについた様だ。


「はははっ。可愛い寝顔だな」


 小さいベッドに寝かせて俺も着替えて眠りについたのであった。

 そうそう。寝間着を水につけるのは忘れていないのは我ながら偉かった。




「あぁうぅ。はぁはぁはぁ」


 異変を感じたのは夜が明けようとしているあたりの時間帯だった。

 レアンの方をむくと何やら息を荒くしている。


「レアン? レアン、大丈夫か!?」


 慌ててレアンを抱き抱えるとなんだかいつもより熱を感じる。額をつけると熱い。


「ソニア! レアンが熱いんだ! どうすればいい!?」


「あらあら?」


 ソニアは慣れたような手つきでレアンの額に手を持っていく。


「熱があるわね。この者を癒す。ヒール」


 光がレアンを包み込む。

 そして、少し呼吸が落ち着いたみたいだ。


「これで少し様子を見ましょう。こうなるとヒールだけじゃ無理なのよね。ジルさんに薬を作ってもらわないといけないわね。ダン、少し寝たら?」


「しかし……」


「私が治療院に連れていくわ。でも、今日は服屋さんの奥さんが出産しそうなの。たぶん抜けられないわ」


「わかった。なら、レアンを連れて治療院に行ってる間に詰所に交代をお願いしに行ってくる」


「わかったわ」


 寝間着から普段着に着替える。

 俺の普段着はそんなにいい服ではない。

 少しみすぼらしいかもしれないが、贅沢をできる身分ではない。


 慌てるな。

 ソニアはあんなに落ち着いてたから大丈夫なんだろう。


 家を出ると早足で詰所に向かった。

 早く戻ってレアンを見る準備をしないと。

 お湯を作っておいて、ミルクは飲むだろう。


 離乳食はパンを浸した物を食べさせれば良いだろうか。それだけで少しは回復するといいんだが……。


 詰所には上司のオルグさんがいた。


「お疲れ様です! すみません! 今日子供が熱を出してしまいまして、どなたかに見張りを代わって頂けないかと思い、ご報告に来ました!」


「おう。ダンか。まだ生まれたばっかりだから大変だろ? 休め休め! どうせ平和だ。俺が出るから大丈夫!」


 にこやかに言ってくれるオルグさん。

 こういう上司でホントに有難いな。

 敬礼をする。


「感謝致します! 自分は戻ります!」


「おう。戻れ。息子を大事にな?」


「はっ!」


 オルグさんは実は二年前に魔物に襲われて子供が一人亡くなっている。兄弟を守ったんだとか。


 誇らしく思っていると夜勤の時に星空を眺めながらそう呟いていた。

「人は死んだら星になるんだろう?」

 オルグさんはそう言って何時までも星を眺めていたんだ。


 その顔を思い出すと今でも胸が苦しくなる。

 俺の息子もそういう誇り高き戦士になって欲しい。死ねという意味ではないが、強く生きて欲しい。


 そのためなら。ソニアとレアンのためなら。なんだってやるさ。

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