第5話 転生者?

 本を読んであげたあとは、初の離乳食だ。

 俺が作ったご飯で口に合うかどうか。

 そんな心配をしながらも器によそう。


 ジェイさんにも離乳食の話を聞いたんだが、最初は食べる時に凄く警戒していたらしい。でもよく考えたらそうだよな。


 口に一回も入れたことがなくて、初めて口に入れるものなんだから、どんな味かどんな感触か。上手いのかまずいのか。何もわからずに口に入れるのは怖いものだろう。


 そう思った俺は、レアン用に器にパンを浸して、入れていたスープをすくって食べて見せた。


「うん。美味い」


「あう! あー!」


 テーブルを叩いてくれと言っているようだ。

 もしかして、余計なことをしたかな?

 そう思いながらも口にスプーンでスープを持っていく。このスープはもう冷ましてあるものだ。


 そして食べやすいように細かく肉とかは切ってある。今は俺の膝の上に座っていて、スープの器はレアンの目の前だ。


「あー!」


 俺の持っているスプーンを奪い取ると自分で口に運び始めた。

 はぁ?

 そんな事出来るわけ……できてるもんな。


「んー!」


 時折満足そうにしながら食べている。

 美味しかったみたいでよかった。

 しかし、こんなに小さい子が自分でスプーン持って食べるなんてなぁ。


 あっという間に食べ終わったかと思うとうつらうつらと船を漕ぎ始めた。

 食べたらすぐに眠くなるところは子供そのものだよなぁ。


 俺は自然と顔が綻んでしまった。

 チラッと横を見るとこちらも船を漕いでいる。

 器を見ると食べ終わっているようだ。


「しかたないな……」


 俺はそのままレアンをベッドに寝かせる。

 そして、こちらのお姫様も抱っこしてベッドに連れていく。


 よく寝る二人だな。

 ゆっくり寝て体力つけて貰わないとな。

 倒れられたら一大事だ。


 そんなこんなで後片付けをして、俺は晩酌の準備をする。

 一人で飲むかな。と思っていたが、お姫様が起きてきた。


「おっ? どうしたんだい? お姫様?」


 俺はおチャラけて言うと。

 ニコッと笑ってくれた。


「有難う。運んでくれたのね?」


「あぁ。うたらうつらとしてたからな。レアンもだ。親子だな?」


「ふふっ。実はね、おっぱいが張るのよ。レアンが飲んでくれないから、母乳を出さないといけなくて……」


 俺にあまり見せないようにやっていたのだろうか? なんか気を使わせたか?


「俺知らなかったよ。気を使って俺に見えないところで出てたのか?」


「ううん。レアンに見えないようにしたのよ。あの子、おっぱい見るの嫌がるのよ?」


 それは何故だろう。赤ん坊ってのは本能的に飲むもんだと思っていたが、そういうもんでも無いのか。


「あなたの方が好きよね?」


「おいおい。勘弁してくれよ……」


「ふふふっ。布ちょうだい?」


「これでいいか?」


 近場にあった綺麗な布を渡す。


「えぇ。これにこうして……」


 布に母乳を絞り出した。母親ってのは本当に大変なもんだな。子供がいらないって言っても、母乳は身体が作ってしまう。

 子供は別のご飯で満足して母親はせっかくできた母乳をあげれない。


 可哀想な気はするが、レアンには合わないみたいだから仕方がないよな。しかし、一人で食べるとはなぁ。


「さっきの見た? レアン、一人で食べてたわよね?」


「あぁ。俺は不思議でしょうがない。ジェイさんの話では、三歳の娘さんが一人でご飯を食べているってんで喜んでたんだ。うちのレアンと来たら、まだ半年たってないくらいだろ?」


「うん。四ヶ月くらい。実は離乳食にはまだ早い方なのよ」


「そうなのか? でも……」


 あんなに普通に食べてたら大丈夫じゃないのか?


「普通に食べてたわよね? 本当に不思議だわ。でもね、同じようなことが一度だけあったわ」


「えっ!? そうなのか?」


 俺は思わず大きい声が出てしまい、レアンが起きると諌められて首をすくめた。


「すまん」


「王子のレオン様よ」


「何がだ?」


「だから、レアンと同じようだったのよ? レオン様も。それもあって、天才だって持て囃されて、今もなお最強の座に居座っている」


「たしか……全能のレオン」


「そう。なんでも出来たの。レアンに似てない? 何者なのか知ってる?」


 何を言ってるんだ? ソニアは?


「何者って、王子様だろ?」


「違うわよ! そういう事じゃなくて、レオン様って転生者らしいわよ?」


「んーと? 勇者様みたいなもんか? 何十年か前に魔王を倒してくれた」


「あれは召喚したんでしょ。転生は前世の記憶をもって生を受けるらしいわ」


 転生?

 レアンが?


 まぁ、でもどっちにしても俺達の子供だしなぁ。その事実は変わらないだろ。


「だとしても、俺達はレアンを守る。そうだろ? やる事は何も変わらないじゃないか。違うか?」


「ふふふっ。ダンって、たまにいい事を言うわよね?」


 ソニアがしなだれかかってくる。

 口づけをし、酒を煽る。


「たまには余計だ」


「ふふふっ。これでも、感謝してるのよ? ご飯も片付けも洗濯だってやってくれてる。有難う」


「俺に出来ることはやってるだけだ」


「レアンもいい子だし、そろそろ復帰しようかなって思ってるの」


「子守りは見つかったのか?」


「治療院に連れてきていいって。ニーナの子供と遊ばせておくわ」


「悪いな」


「いいのよ。私も飲もうかな」


「いいのか?」


「だって、レアンが飲まないからいいのよ」


 頬を膨らませて口を尖らせている。


「じゃあ、飲むか」


 たまには、二人で晩酌するのも良いもんだな。

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