第4話 本を読む

 レアンが産まれて四ヶ月程が経った。

 俺は兵士の仕事で見張りをしていた。

 仕事が始まってからは、昼に家に戻って飯を作るようにしている。

 

 見張りは基本的にツーマンセル。二人でやるのが基本となっている。


 そうなると、見張りをしている時は大抵雑談に興じるものなんだ。


「まだ肌寒いな? お前は暑そうだけど」


 そう話しかけてきたのは一個上の歳のジェイさんだ。ジェイさんは三年前に子供が生まれて私生活でも俺の先輩だ。

 俺に暑そうだと言ったのは俺が暑がりで肌寒い時でも半袖で居るからだろう。


「そうですか? 俺はそんなに寒くないですよ?」


「そりゃ、そんなに筋肉ついてりゃ、そうだろうよ。はははっ!」


 ジェイさんは俺と比べると筋肉は少ないが、細マッチョってやつだ。戦ったら勝つ自信はあるが、どうなるかは分からない。


 ジェイさんはあらゆる武器に精通しているんだ。槍、斧、剣、ナイフ。その時にある武器を何でも使えるように鍛えたんだとか。


 しかも、素手でも強いと聞いた。


「ジェイさんのとこのお子さんは何歳になりますっけ?」


「三歳だよ。かわいぃぜぇ? カミさんに似て目がくりくりしてんだ! それは、前に言ったか……」


 ジェイさんとの会話はいつも子供の自慢から入る。


「でな、この前俺の顔だって言って顔を描いてくれたんだよ! それがうめえのなんのってさぁ」


「へぇ。凄いですね! うちはまだハイハイ位ですが、もう立とうとしてるんですよ。立ち方を知ってるみたいに……筋肉が足りてないだけの気がするんですよね」


 それには顔のパーツを中心に集めて何やらすごい顔で見てくる。


「なんすか? 変なこと言いました?」


「ダンのとこの子供ってさぁ、なんか成長を急いでないか? もう立とうとするなんておかしいぞ?」


 手を広げて何やら訴えかけている。


「まぁ、うちのレアンからしたら、それが当たり前なんでしょう」


「まぁ、成長は確かに人それぞれだって言うからなぁ。最近は一人でご飯食えるんだぜ? 器用にスプーンとフォーク使ってよぉ」


「それは……凄いですね」


「ん? 反応があれだな。もしかしてあんまり凄くないのか?」


「いや、分かりません。妻に聞けば何か分かるんでしょうが、俺はレオンしか知らないので、その……」


「もしかして、一人でミルクでも飲むのか?」


「……実は……そうなんです。はははっ」


 それには目を見開いて口を開けて固まっている。

 あれはやっぱり普通じゃないんだなぁとこういう時に実感させられる。この先輩との会話も、結構勉強になるんだよなぁ。


 レアンと他の子との違いを分かることで自分の中で子供について言っていい事と悪いことの判断材料にしたい。


 風の噂で聞いたことがあるんだ。あまりに優秀は子供は国の役人に連れていかれて養子にされ、金だけ置いていくという。そんなのは絶対に嫌だから、そうならないように対策を取らなきゃならん。


 ジェイさんは口が堅いから信用できる。この人とはそこまでの話をするが、他の人とは当たり障りのない話しかしないようにしている。


「すげぇな。まぁ、気をつけろよ? その事はあんまり言いふらさない方がいいぜ? これで、魔力を操ったとかなったら、お前、完全に国に盗られるぜ?」


「い、いやぁ、流石にそれは無いっすよ。うん。ははははっ」


 なんだか目を細くして見られたが、何とか誤魔化せただろうか。

 そんな雑談をしながら交代時間が来るのを待つのであった。



 交代すると、日誌を書いて終わりだ。今日あった出来事を書く。

 今日はブラウンウルフが壁の辺りまで来てこちらを眺めて帰っていった。


 特に問題は無かったと記載したのだ。大抵はこんなもんである。なにか有事の時には真っ先に出動しなければならないが、平和なものだ。


 家に帰る最中に朝食べるパンを買い、晩飯用に野菜とレッドバードの肉を買って帰る。

 今日の飯はミルク煮を作ろうとしている。

 そろそろいいかもしれないとの事なので、初めての離乳食を作ろうということとなった。


 家に帰ってみるとソニアとレアンはスヤスヤと寝ていた。レアンは本当に泣かなくて手がかからない。

 

 不思議な子だ。

 先輩の話を聞いていると全然違うのだ。

 よく食べたくないとタダをこねるらしいが、うちのレアンからは想像もできない。


 目を覚ます前に飯を作ろうと思い、野菜や肉を切り分けてミルクを薄めた汁に投入して火にかける。

 少し魔力を弱くして煮込む。


「あー!」


 ん? レアンが起きたか?

 様子を見に行くとソニアはまだ寝ていた。

 抱き抱えてみると、ソニアが見ていた本が気になるらしい。


「これが気になるのか?」


「あう! あーあー!」


「もしかして、読んで欲しいのか?」


「あう!」


 その本は女性が好んで読むお話の本だった。王子様がお忍びで街に出かけて町娘と恋に落ちてしまう。身分の違いからなかなか結婚はできない。

 みたいな話のやつ。


 椅子に座って少し読むことにした。


「ある日、暇を持て余している王子様がいました。王子様は暇つぶしにと、家来の目を盗んで街に遊びに行きました。そこで────」


 十分ぐらいで読み終わった。

 そろそろ飯にしようか。


「よし。終わりな。飯にしよう」


「あうぅ。あー! あー!」


 また本を指さしている。

 そんなに気に入ったのか?


 その声でソニアが目を覚ました。


「あら。お帰りなさい。いい匂いね。もうご飯できたの?」


「あぁ。煮込んでる間、レアンが本を読みたいって言うから読み聞かせてたんだ。この本気に入ってるんだな?」


「それは、あたしが読んでただけで、レアンには読んでないわよ? 読みたいって言ったの?」


「あぁ。俺にはそう見えた。そして、もう一度読みたいらしい」


「あー!」


 ソニアは優しい目をしてニコッと笑うとレアンを抱き抱えた。


「いい子ねぇ。でも、まずご飯食べましょ?」


 こんなに子供って本を読みたいもんなのか?

 俺はそんなに本が好きじゃないから凄いもんだな。

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