第3話 ウチの子天才

 レアンが産まれてからは俺が料理をするように言われた。そこで、今日は初めて料理を作って見たのだが、なかなか上手に出来たと思っている。


 今日は休みだからこうして料理を作れるが、仕事が始まったらどうしようか悩んでいた。

 俺は元はS級の冒険者だったが、子供ができたことを機に引退して今は兵士の仕事に着いている。

 

 仕事は主にこの街の防壁からの監視と入口の検問だ。子供が生まれるからと休みを貰い、五日間は他の仲間に代わってもらっている。


 ソニアは治療院で働いているが、子供がもう少し大きくなったら子供を見てくれる人を探すつもりでいる。


「ソニアー朝飯できたけど、食べるかぁ?」


「うん! 有難う。レアンのは?」


「今用意するー」


 ミルクを用意してからソニアの元へ行くとレアンは気配を察知したのか、目を覚ました。


「レアン、腹減ったか?」


「あー」


「レアンは言葉がもう分かるのか?」


 そう思わざるを得ないくらいにこっちを見て手を伸ばすのだ。

 これが普通なのだろうか?

 世の中の赤ちゃんすげぇ。

 

 布の付いた水差しを渡すと、器用に飲み始めた。


「そんなわけないと思うけど……なんか大人しすぎて不安になるのよね……」


「ん? これが普通じゃないのか?」


「んー。私が見てきた子達は、みんな排泄をしたら泣いて、お腹すいたら泣いてって感じだったの。でもこの子は……」


「全然泣かないよな?」


「そうなのよね……」


 目に少し涙を溜める。


「あのさ、他の子と比べらたら違うかもしれないけど、これがレアンの普通かもしれないだろ? そんなに心配することないんじゃないか? 俺達の子だぞ?」


 どこから来る自信かは全く分からない。

 けど、自分の子供を親が信じなくて誰が信じてあげられるのだろうか。


「ふふふっ。確かにそうね? ねーレアンー?」


「あーあー!」


 力いっぱいに声を出す様は元気出せと言われているような感覚だった。


「これは、ソニアのだ。スープとパンな」


「へぇー! このスープ作ったの?」


「そうだぞ。俺だってやれば出来るんだ!」


「ふふふっ。懐かしいわね。最初に野営に言った時もそんなこと言って私にスープを振舞ってくれたわよね?」


「あぁ。そうだな」


 あれは、俺がソニアと付き合い始めるキッカケになった出来事があった依頼の時だ。

 同じようなことを言ってスープを作りその時組んでいたパーティーの皆で一緒に食べていた時。


 いつも見ている茶色のビッグボアと違い、色違いの赤いビッグボアに襲われたんだよな。

 レアな魔物だったから苦戦したんだ。

 最後は俺がぶった斬ったんだっけな。


 それでソニアが俺に惚れてくれたんだったか。俺は既に惚れていたが、なかなか言い出せなかったんだよな。だから、付き合いたいと言われた時は凄く幸せで嬉しかった覚えがある。


「あら? その指どうしたの?」


「あぁ。ちょっと野菜切ってる時にザックリ切っちまってな。なぁに。大したことないさ」


「もぉ。こっち来て!」


 俺は言われた通り近づく。

 すると、手を翳した。


「この者の傷を癒す。ヒール!」


 手から光が放たれると俺の指へ集まっていき、光が収まると傷が癒えていた。


「あー!」


 レアンが凝視している。

 なにか気になったのだろうか?

 あっ、魔法を初めて見たからか?


「魔法が気になるのか?」


「あうー!」


 俺の問いにそうだと言わんばかりに返事をしたレアン。


「あらぁ? 魔法に興味があるのかしらぁ? 魔力を使えるようになったら教えてあげるねぇ?」


「あうぅ」


 なんだか残念そうだ。

 まだ生まれたばかりだから無理だろう?


 レアンは眉間にシワを寄せると身体に力を入れているようだ。

 なんだ?

 何する気だ?


「あら? この子もしかして……」


「どうした? なにかしたか?」


「僅かにこの子の魔力が揺らいだのよ」


「なに?」


 生まれたばかりなのに魔力を扱おうとしているのか?


「俺達の子って」

「私達の子って」


「「天才!」」


 凄すぎるだろ?

 これで魔力を動かせたら、確実に俺より上に行ける。


 俺は魔力が少なく、扱いも上手くない。

 剣術のみで生きてきた男だ。


 剣に魔法も使えたらどんなに凄い子に育つだろうか。想像もできない。


「あー! あうー! ゲェェェ」


 あっ、ゲップ出た。もう飲んだのか?

 なんて言っているのかは分からない。

 分からないけど、もう一回やってくれってお願いしてるのか?


「なぁ、もう一回、今度はレアンにかけてやったらどうだ?」


「えぇー? レアンにぃ?」


「そうそう。なんかねだってる気がするんだよな」


「ふーん。精神年齢が子供だから子供の気持ちがわかるのね? ふふっ。この者を癒す。ヒール」


 光はレアンに飛んでいき、身体に入っていった。


「これで魔力の感じは分かったんじゃないかしら?」


 そういうので少し様子を見てみると再び眉間に皺を寄せて力んでいるみたいだ。


「レアン? 力を入れる必要は無いわ。リラックスよ。魔力のある部分を意識して、こっちおいでぇってやってごらん?」


 すると、眉間に皺を寄せるのをやめて自然体に寝ている。


「あっ! 凄い!」


「何がだ?」


 俺は魔力を感知するのも出来ないくらい魔力操作が苦手だ。


「この子、動かせたわ。あらっ? 寝ちゃった」


「急に?」


「きっと魔力を動かして疲れたのね。慣れるまでは魔力動かすのはシンドいのよ」


 俺達の息子、凄すぎないか?

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