第8話 風邪の間の子供

 一通りの家事が終わった頃。


「あぁぁぁうぅぅぅ」


 再び泣き始めたレアン。

 慌てて抱っこしてあやすが、中々泣き止まない。

 オムツを確認する。


 泣いている原因はオムツのようだ。

 布を交換して落ち着いた。とおもった。


「えっいっ!」


 まだ何かあるようだ。

 自分のお腹の具合から察したことがあった。


「そうか。昼ご飯だよな」


 最近ちょっとした言葉を訴えてくるようになったレアン。この成長速度は異常な気がする。

 どういう事なんだろうかと胸が波打つ。

 今はそんな事を考えている場合じゃない。


 今日朝から準備していた野菜スープを温めるだけだ。レアンを抱っこしながら、魔力コンロに火をつけて少し温める。


 器を出して予想と冷暗所からパンを一つとる。

 このパンは少し固めな物なので、スープにヒタヒタにして食べるのだ。


 椅子に座ると膝にレアンを座らせてスープをフーフーと冷まして口に運ぶ。

 大きな口でスプーンを迎え入れ、目を垂らして次を強請った。


「美味しかったか? よかった!」


 次々と口に運ぶとパクパクと食べる。

 ニンズンというオレンジの野菜とトモネギという二つの球がくっついているそのまま食べると辛いのだが、煮ると甘くなるという野菜のスープだ。


 これは最初の離乳食の時も作って平らげたので、また使ってみたが。好きみたいでよかった。嫌いにならないようにご飯を作らないと大きくなれないからな。


 野菜ってのは栄養がいっぱいあるらしい。ソニアが言っていた。俺には栄養と言われてもピンと来なかった。


 身体を大きくするために必要とか。病気にならないために食べた方がいいとか、そう言ういいかたなら納得する。


「ほれ! だい!」


 レアンが何かを訴えてくる。

 スプーンをよこせという意味だろうか?

 流石に熱があるときはやめた方がいいと思う。


「レアン、俺が食べさせるから食べてくれよ? 今は熱があっていつものように身体が動かないんだ。零したら熱いからよ。これで我慢してくれ」


 そうお願いすると少し考えたように宙を見上げて頷いた。


「あい!」


「良い子だなぁ。レアンは!」


 本当に言葉がわかっているみたいだ。

 ソニアいわく、これは異常なことらしい。

 でも、俺達の子だ。異常だろうがなんだろうが、育てることには代わりはない。


 それに、それを言いふらすつもりも無い。

 ジェイさんの忠告は俺の胸に刻まれていて。

 国に俺の子供を売り渡す気は無い。


 口に運んだ野菜スープとパンを美味しそうに頬張る姿は子供なんだけどな。たまに子供じゃない雰囲気を出す時があるんだよな。


「ほら、あーん」


「あーん。パクッ」


 こう見ると子供なんだけどな。


「あーん」


「レアン? 飲み込んでから口開けな? あんまり口にものを入れてると喉に詰まるぞ?」


 俺がそう言うとレアンは眉間に皺を寄せて口を閉じモグモグと咀嚼を始めた。

 大人かと思えばこう言う子供みたいな所もあるし不思議な子だ。


「あーん!」


「はいよ。パンもヒタヒタにするからこっちも食べろよぉ」


 パンを差し出すとそれもパクリと食べ咀嚼する。食欲があるのはいい事だな。体力をつけるためには食べないとな。


「ゲフッ」


「はははっ。お腹いっぱいか?」


「あい。ゲフッ」


 忘れないようにソニアが持ってきた薬をテーブルに持ってくる。

 紙に包まれているそれをジィッと見るレアン。

 また眉間に皺を寄せて見ている。


「レアン、もしかしてこれが何かわかるのか? はははっ。そんな訳ないよな。これを飲むんだ。いいか?」


 そう言って紙を開くとサラリとした白い粉が少量入っている。

 匂いはしないが、飲んだら苦いだろうなぁと思って俺も顔を歪めてしまう。


 レアンは俺の顔を見て怪訝な顔をした。

 俺がこんな顔しちゃ不安になるよな。

 目一杯の笑顔で安心させようと試みる。


「大丈夫だ。レアン。スープに溶かしてやるからな」


 小さい器に薬を入れてスープを入れる。

 そして、よく溶かすんだが、ただの苦汁になっているかもしれないと思うといたたまれない気持ちになる。


 胸が痛い。レアン、頑張れ。


「うーーー」


 嫌そうに器を見つめる。


「レアン。一気に行くか?」


「あぃ」


 意を決して口に器を持っていく。

 口を開けるレアン。


「いくぞ」


 器を一気に傾ける。

 

 ────ゴクッ


「ぶぇぇぇげぇぇぇ」


 急いでスープをレアンの口に運ぶ。

 直ぐに飲み干すとまた口を開けている。


「あぁ!」


「わかったわかった!」


 再びスプーンで救い、口に運ぶ。

 すると、俺の持っていたスープの入っている器をぶんどった。


「おい!」


 ────ゴクッゴクッゴクッ


「はぁぁ。げぇぇふっ」


「そんなにまずかったのか? けどな、これで少しは具合が良くなるはずだ」


「あー。あい」


 項垂れているレアン。

 抱き上げてまた背中の辺りをトントンとノックする。

 目をつぶり寝そうなレアン。


「げぇふっ」


「よーしよしっ」


 お腹いっぱいになったからか、スヤスヤと寝始めた。

 このくらいぐっすり寝ればどう寝かせようと関係ないのだ。


 ベッドにそっと寝かせて布団をかける。

 食器を片付けて俺も一休みだ。


 俺の意識は暗転した。


「ダン!? 大丈夫!?」


 ハッとして目を覚ます。

 知らない間に寝てしまっていたようだ。


「あぁ。すまん。寝てたみたいだ」


 外は薄暗くなっている。

 仕事を終わってソニアが帰ってきたようだ。

 レアンの元へ行き、容態を確認する。


「熱下がったわね。ありがとう。ダン」


 肩の力が抜けるのがわかった。

 よかった。

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