水平思考ゲーム☆ライト味
雪子
作者はどうしても七夕企画としてあげたかった、と供述しており……
出題者
解答者
楽しい♡水平思考ゲーム、はじまるよ~☆
──とある探偵事務所。
と、いっても、今日は事務所の大人たちは依頼のため外出済み。
合鍵を持つ現役女子中学生・唯愛は、丁度いいと清掃活動という名の、事務所のソファに寝っ転がって本を読むという、贅沢な時間を過ごしていた。
「はぁ~。相変わらず、本のチョイスが神がかっているわぁ~」
唯愛が読んでいる本の表紙には、水平思考ゲームという文字が印字されている。
水平思考ゲームとは、ざっくりと説明すると……。
・問題は簡単に解けないようになっている。
・解答者が出題者に質問して、それに出題者が『はい』か『いいえ』で答える。
・それを繰り返して、答えを導き出すゲーム。
質問の数を限定することや、出題者がヒントを出すときもあるが、そこら辺はとくに言及しない。
プレイ方法は人それぞれ。
これは競技じゃない。遊戯なのですよ!
細かいことはいいんだよ精神に則り、面白ければ、それでよし! なのである。
……ただし、このゲーム、日本では『ウミガメのスープ』が有名なためか、一見理不尽そうに見える結末が用意されている、ブラックでオカルトな出題が多い。
内容によっては、お子様、泣くぞ。
ちなみに、番外として……出題を出し逃げされると、悲嘆にくれるしかないので、切実にやめて欲しい……。
解説(オチ)がない水平思考ゲームは、理不尽しかないのである。
「ライトな解答が多いのは珍しいけど、悪くないね」
ここは探偵事務所であるが、地域ボランティアとして、おもちゃの修理を承っているため、小学生も結構来ている。
放課後クラブとか、学童保育とか、秘密基地のような感覚で入り浸っている、お子様も多いからか、青少年の心理的な影響も考慮して、事務所に備え付けられている本棚の低い段にあるものは、簡単な文章で読みやすく、わかりやすく、面白いものが揃えられている。
唯愛が丁度パラパラめくっている本も、その例にもれず、頭を少しひねれば答えが導き出せる上に、ちょっとためになる雑学が付与された、お子様に読ませても安心安全な内容である。
「むしろ、誰かにこのゲームの達成感を共にしたいくらいだね。ああ、誰か来ないかなぁ~」
普通なら、そんな都合よく解答者が来るわけがないのだが……ここは、ほら、面白そうなことに敏感な年頃は、誰か遊んで~電波を発信しやすいもので。
誰かと遊びた~い子はその電波を受信しやすいもので。
「こんにちは。誰かいませんか」
黒いランドセルを背負った小生意気な男子小学生がノコノコとチャイムを鳴らしてきた。
……まさに、カモネギ。
「ふ~ん。水平思考ゲームか……面白そうだな」
ありきたりな挨拶は文章上では省略。
カモネギ……もとい、近所に住む小学生・路敏君が、唯愛による第一回水平思考ゲームの解答者としてやってきてくれました。
「うんうん。路敏君ならノッてくれると信じていたよ。と、いうことで……出題するね☆」
☆出題
日めくりカレンダーには、七月七日とデカデカに書かれている。
仲のいい男女がカレンダーを見て、こう言った。
「もうすぐ七夕、だね、A子」
「ええ。来月、楽しみね、B太」
この会話は問題なく、キチンと成立している。
なぜだろう?
「……一応確認も兼ねて聞くけど、カレンダーが間違っていないか?」
早速、質問を投げかける、路敏。
「いいえ。カレンダーに間違いはないよ」
積極的な解答者に、出題者の唯愛は微笑む。
水平思考ゲームは、解答者が自発的にものを考え、言葉に表すかがネックになる。
推理力を引き出すには、解答者の積極的な姿勢が必要不可欠なのである。
「……カレンダーには、か……。なら、日めくりカレンダーを破いた時ミスを起こしたか?」
日めくりカレンダーを『ゴッソリ一か月分破いてしまっていた』という可能性がある。
この場合、ファンブルを引いたのか、かなりのドジなのか、としか言いようがないが、あり得ないとは言い切れない。
「いいえ。この日は七月七日だよ。カレンダーの通り。カレンダーはA子とB太の会話が『いつだったのか』を表すためのもので、それ以外の意図はないよ、路敏君」
出題者はカレンダーでなくても、デジタル時計でも、なんならスマホでも、日付が表記されているものなら何でもよかったと、自供しており……。
「会話が成立しているから……精神病とか、そういう……心の病が関係あるか?」
妙に発想が恐ろしいよ、この小学生。
「いいえ。なんで、解答がホラー寄りになるの、路敏君!」
※今回は日常色を強めるため、ライトな感覚の出題です。
ここでは、ウソつかない。
「ちっ。ブラックでオカルトなものじゃないのか……」
「今の小学生ってそんなに血に飢えているの……穏やかな気持ちでゲームをしようよ。せっかくつつがない問題なのに……」
熱中するのはいいけれど、不穏な空気を不用意にばら撒かないように。
ゲームはルールを守って、楽しくするものデース☆
「ん。ということは……これって、日常なのか?」
おおっと、ここで解答者、頭を切り替えてきた。
今まで、思い違いをしていたのに気がついたようです。
「はい。確実に日常だよ、路敏君」
ありきたりな、ごく普通の光景である。
「これって一部の訓練されている人とか、地域ルールに関するのか?」
出題のキャラクターA子、B太が特殊なのか? それとも、状況・場面が特殊なのか?
カレンダーと日付が白なら、黒はこの二つのうちのどれかと考えたほうがいい。
現役小学生にしてはかなり冴えているっ!
「う~ん……これは答えにくいなぁ……」
「おい、唯愛姉さん」
出題者、ここでまさかの手詰まりか?
「質問を一つに絞ってないからでしょうが」
確かに『はい』か『いいえ』が基本なら、二つ同時処理は厳しい!
「んっ。訓練か、地域ルールかってところか……」
黒は、その中のどれかだ!
「そうだよ……訓練なら、いいえ。地域ルールなら、はい、に限りなく近いね」
持ち直した、出題者・唯愛。
どうせこの後、一つ一つ質問されるのならばと、一つ一つ対応すればいいと思い至ったようです。
「ネックなのは、地域ルールのほうか……。と、いっても、はいに限りなく近いというだけで、はいと言いきれないのか、唯愛姉さん」
「独自ルールってところじゃぁないからね」
独自ではない。
やや一般的なものから離れているが、広く根付いていると考えるのが自然か……。
路敏はここまで頭を回転させたが……どんな質問を投げかければいいか、悩みだす。
積極的に質問することが、この水平思考ゲームならではの遊び方だが、わからないことがわからない状態ではいい質問文が頭から出ないものである。
「文章をよく読んでほしいなぁ~」
……このままだんまりが続くのは、面白くないと思った唯愛はヒントを出すことにした。
水平思考ゲームの基本中の基本。答えの『結果』は出題の中にちゃんと書いてある。
「……そういえば、B太のセリフは『七夕、だね』だな。『七夕だね』じゃないのが……もしかして、ヒントか」
水平思考ゲームの質問はね、答えの中に省略されている状況をあぶりだすためにあるんだ!
「ねぇ、唯愛姉さん。一か月後は八月七日でいいんだよな……」
「はい。八月七日だよ」
カレンダーは事実。
一か月後は八月七日であることは確定だ。
そして、一般的なものから離れているが……地域で根付いている文化であることも確実。
それも、広範囲。
「これは……旧歴に関わるものなのか?」
ならば……かつては一般的であったものならば。
路敏の頭から豆電球が飛び出した。
「はい。旧暦が関係あるよ、路敏君」
☆解答
A子とB太が楽しみにしている七夕とは、八月七日に行われる『七夕まつり』である。
日本の七夕祭りは、新暦七月七日や月遅れ……旧暦を意識した八月七日あたりに開催されている。
七夕を八月旧暦で行う地域は、有名どころでは……北は北海道、秋田や宮城、福島、群馬、埼玉。西は山口、香川、大分とある。
その他にも行っている県や地域もあるので、一概には言えない。
そういうところもあって、七夕祭りが八月に行なわていること自体は、特殊とは言い切れないのである。
「という、わけで。『二人の七夕』なぞ解き、上手くいったね、路敏君」
「へ~、そういう問題だったのか」
「……お題は私が適当に今つけたけどね」
「唯愛姉さん……」
「だって、名前がないと不便じゃん。この本によると、出題番号七七としか書かれていないし」
「あ~、こう繋がるのか」
七七番だから、七月七日に関わる出題になったわけで。
それ以上深い意味はなさそうだ。
「楽しかったよ、唯愛姉さん。特に解けたときの高揚感は癖になるな……」
「なぞ解きの醍醐味だよね。まぁ、出題者の私も、解答者の路敏君が悩むところ、面白かったし」
ゲームはなんだかんだ言って、ウィンウィンな関係なのである。
愉悦、愉悦と、唯愛がニヤリを笑ったところで、第一回水平思考ゲームはこれにて閉幕。
ご愛読ありがとうございました♪
お・ま・け
ちなみにA子とB太は仙台市在住をイメージしています。
仙台七夕まつりは、その近辺でも、結構話題になる、東北三大祭りの一つです。
まつりとしては静かですが、あのインパクトが強いアーケード内の巨大飾り付け……見ていて楽しいです。
でっかいことはいいことです(`・ω・´)((キリッ
なお、今年(2023)は第54回仙台七夕花火祭り(前夜祭)は八月五日。
仙台七夕まつりは、八月六日~八日の三日間だそうです。ホームページに載ってました(^^♪
水平思考ゲーム☆ライト味 雪子 @akuta4
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