第5話

 押し黙っていたかなえが、力なく笑った。


「負け犬、か」

 自嘲気味に呟いたかなえは、すっかり冷めたコーヒーに砂糖を1つ追加した。

「私が晴子さんと知り合いだったことは、どこで知ったのかな?」

 知り合い、なんて生易しい関係じゃないことは彼が一番よく知っているだろう。ここで突っ込むのは無粋だ。

「……母の、遺品整理のときに」


 俺の母は、父が処刑された数日後、後を追うように亡くなった。元々体が弱かったが、父が亡くなったのは彼女にとってはそれでも耐え難い苦痛だったのだろう。

 父の隠れ家の捜索が終わった後、王都から退去命令が出された俺と兄は、住み慣れた母のアパートの一室で遺品整理を行っていた。


 母の仕事机の鍵付きの引き出しを開けると、毎月の生活費が振り込まれた通帳と、一通の手紙が仕舞われていた。


 当時未成年のクソガキだった俺は、見ていいものかと迷ったものの、結局は好奇心に負けて手紙を開封してしまったのだった。

 手紙には、何の面白みもない時候の挨拶と、俺たち兄弟が元気にしているかと気遣う内容だった。

 しかし、この手紙を書いた奴はこれ以外に本題があったらしい。俺たち兄弟の様子など、こいつには本題に入る前の前座でしかなかった。

 手紙には、「これで最後だから」という前置きのあと、今までの母への恋慕の情が綴られていた。

「学生時代からずっと君のことが好きだった。申し訳ないが、清一君を認めることはできない」

 こんな内容が便箋2枚に亘り延々と続いていた。


 便箋の最後には、几帳面な字で「日下部かなえ」と書かれていた。

 母がたまに「あしながおじさん」と呼んでいたのはこいつの事だったのかと、どこか腑に落ちた。


 だからこそ、俺は危険を冒してまで王都に来たのだ。

 10年、亡くなった最愛の女を美化するには充分な時間じゃないか。

 日下部かなえが母のことをまだ想っているかは確信がなかった。しかし、これは賭けだ。

 それでもこの賭けに勝つ自信があった。あんな重苦しい手紙を書ける男は、たった10年で最愛の人を忘れることなどできるはずがない。


「……ははっ」

 乾いた笑いが部屋に響いた。

「負け犬、そうだね。私は負け犬だ」

 かなえは、穏やかな顔で俺をみた。決してビジネスライクな笑顔ではなく、慈愛に満ちた、どこか息子を見つめる父の顔を彷彿とさせる表情だった。


「君の勝ちだよ。真昼君」


 俺は、賭けに勝ったのだ。


「ご主人様、よく協力の約束を取り付けましたね」

「相手が持っていないものを提示する、交渉の基本だ」

 まあ今回はかなり無理やりというか、危ない橋を渡った自覚はある。なんせかなえの母を想う気持ちに賭けるしかなかったのだから。

「もう筆談はいいのか?」

「ここは日下部様のプライベートジェットです。周囲に私たちの存在が感づかれることはありません」

 そう、俺たちが今いるのは王都でもリニアでも普通電車でもなく、プライベートジェットであった。

 まさかの飛行機。

 さすが金持ち、やることが違う。


 結果として、俺たちはかなえの協力をもぎ取ることができた。

「君たちが望む『空飛ぶ宮殿』の奪取にどこまで協力できるかはわからないが、衣食住は保障しよう。空飛ぶ宮殿――いや、月の舟の奪取をどうするかは、彼が決めることだからね」

 そう言って俺にコーヒーのおかわりを注ぐと、かなえは如月を呼んだ。

「革命軍への紹介状を書いてあげよう。如月、彼らをプライベートジェットまで案内してくれ」

「おっけー、かなえさん」

 いつの間にか控えていた如月がニコリと笑って俺たちを誘導する。

「かなえさんに気に入ってもらえてよかったね。まひるん」

 いつの間にか不名誉な渾名もつけられていた。

「なんで俺の名前知ってんだお前」

「受付の子に教えてもらったんだ。あの子、おれ推しなんだって」

 数時間前に見たあの受付嬢の顔を思い出す。あのお姉さん、こういうのがタイプなのか。

 世の中は理不尽である。


「なあヤヨイ、かなえさんの言ってた『彼』って誰なんだろうな」

「着いたらわかるよ。見た目ほど悪い奴じゃないからさ。安心しなよ」

「俺はお前じゃなくてヤヨイに話しかけたんだ如月。つかなんでいるんだお前」

 俺たちがジェットに乗り込むと、なぜか如月も同乗してきたのだ。


「まひるんはお堅いなあ。そんなんじゃモテないよ?」

「まひるんやめろ」

 如月は困り顔で肩をすくめると、「かなえさんに言われたんだよ」と答えた。

「案内役も必要でしょ? 革命軍本拠地の場所なんてパッと見じゃわからないし」

「それにさ」と彼は続ける。

「革命軍に裏切り者がいないか見張るのも、おれの仕事だし?」

「裏切り?」

「おれだって仲間を疑うような真似はしたくないし、実際まだそんなこと起こってないんだけど。かなえさん、用心深い人だから」

 まあ確かに、用心深い、と言えばそうなのかもしれない。俺にはむしろ好奇心旺盛な人にも思えたが。

 とはいえ少なくとも仲間を裏切るような奴がいる組織に世話になりに行くのか……。

 不安になってきた。


「ご安心くださいご主人様。いざとなれば噓発見器としての役割もこなしますので」

「それな! おれたち玉兎がいる限り、嘘なんてつけないって」

 あ、そうだ。

「なあ、如月。聞いていいか」

「お! なになに? まひるんの質問なら何でも聞いちゃうよ?」

「まひるんやめろ。……お前、ほんとに玉兎なんだよな? ヤヨイとはかなりタイプが違うと思って」

 如月は大きな目をさらに丸くしながら、きょとん、と首を傾げた。


「そりゃ、おれは『新型』だからさ。そこにいるヤヨイちゃん……だっけ? その子は80年前に作られた『旧型』の子でしょ? おれはその子より50年も後輩なんだから、多少進化はしてるって」

「そう……か」


 いたってシンプルな答えだった。

 ヤヨイより新型だから。


 つまり如月は今から30年前に開発され、運用された玉兎って事だ。確かに50年もあれば月の技術力を考えるとかなり進化する、か。

 如月はヤヨイとは違い、非常に表情豊かで、声も若々しい青年そのものだった。決して機械的な話し方ではなく口調もかなり砕けている。それが若干腹立つ要素でもあるが。


「かなえさんから、お前が『月の舟』じゃなくてその護衛艦の玉兎だったって聞いたんだが、他にもそんな奴がいるのか」

「いるよ。他にもっていうか、大半の玉兎は『月の舟』じゃなくてその護衛艦に乗るからさ。『月の舟』本艦に乗るのは、よっぽど性能の良い奴じゃないと」

 ヤヨイが心なしかドヤ顔かましながらこちらを見て親指を立てている。旧型のくせに生意気だ。


「まあおれ以外の護衛艦の玉兎は無事に月に帰れたんだけどね。運が悪かったなあ、あはは……」

 ああ、そうか。こいつは。

「なあ、その」

「ああ、かなえさんから聞いた感じ? いいよ。隠してることじゃないし。むしろあの時月に帰れてたら、こんな面白い人生なかったしさ。ん? あれ? でも、おれの場合『人生』っていうのかなあ……?」

 何でもないふうに、さも当たり前だったかのように、如月は話す。


 俺たち地球人の罪を赦すどころか、最初からなにもなかったかのように。


「なあ、あのさ」

 だからこそ、俺は、俺だけは、なんとなく、こいつに言わなければならない気がした。


「すまなかった」


 如月は驚いた顔をして困ったように頭を掻いた。

「急にどうしたのまひるん? 別におれ、なんとも」

「お前の『人生』は、面白いものだったと、思う。思うし、これからも、そうであることを……願うよ」


 空のような碧い目が大きく見開かれた。俺の言葉を、理解できたのかそうでないのかはわからない。

 それでも彼は、快晴のような表情で、笑った。


 中国地方、今の名をスラム街第1区「歳星さいせい」。北海道と呼ばれていた「鎮星ちんせい」を除けば、王都から最も遠い地区である。


 その歳星の境界線付近で、俺たちを乗せたジェット機は着陸した。所要時間約1時間。昼寝でもしてやろうかと目を瞑った瞬間ヤヨイに叩き起こされた。

 俺の眠りを邪魔した張本人はケロッとした顔で如月のあとに続いている。

「ここからちょっと歩くけど、頑張って着いてきてね」

「なあ、ジェット機の中にあったワイン、拝借することって……」

「ご主人様、アルコール依存症は様々な身体機能の低下を招きます。私が許すとでもお思いですか」

「………………チッ」

 俺の舌打ちを聞いて如月が楽しそうにケラケラと笑う。

「あれ、かなえさんの秘蔵ワインだからさあ。勝手に持っていったらおれクビになるかも」

 たぶんそんなことはないと思うが、悪事はなるべく働かないほうがいい。お天道様が見ている、なんて母によく言われたものだ。

 …………それはそれとしてお高いワインは飲みたいが。


「なあ、革命軍の本拠地って、どんなところにあるんだ?」

歳星ここもかなり田舎だけど、本部の拠点はもっと奥の方。ああ、歩いていける距離だから心配しないでね」

 歳星は他の地区と比べてのどかだ。例によって不毛の地ではあるが、俺たちの国の昔の風景を思い起こさせる和風建築の建物が小さいながらも建っており「スラム街第1区」というには少し牧歌的な印象を受ける。

 住人も見ず知らずの俺たちに「こんにちは」と穏やかな挨拶をしてくれる。こんなスーツ着て包帯巻いた男がいる一行に、だ。


 如月は勝手知ったる我が家のようにズンズンと進んでいく。どうやら森の奥の山道を歩いているようで、上り坂がかなりしんどい。

「だいじょぶ? 休憩する?」

「ご主人様、私たち玉兎はこの程度では疲れを感じません。ですが、ご主人様は違います。休憩なさる事を強く推奨致します」

 そうか。考えてみればこの中で生身の人間は俺だけだったな。違和感がなさすぎて忘れていた。特に如月は馴染み過ぎなんだよ。

「いい。まだ歩ける」

「しかしご主人様」

「いいっつってんだろ」

 微妙な空気が流れる。

「……辛くなったら言う。そん時はお姫様抱っこでも俵担ぎでもどっちでもいいから、やってくれ」

「……! かしこまりました」

 俺たちのやり取りをなぜか微笑まし気に見ていた如月が、水筒を取り出した。

「はい。とりあえず水は飲みなよ。人間は俺たちと違って水分補給が必要、なんでしょ?」

 俺がありがたく水筒を受け取ると、如月が興味津々といったふうに聞いてきた。

「お姫様抱っこって、どういうこと?」

「黙秘を実行する」

「黙秘致します」

「ざーんねん」と如月は口を尖らせた。


 30分くらい歩いただろうか。

 俺が案の定体力が持たなくなり、無事にお姫様抱っこされていると、前方で急に如月が立ち止まった。

 ヤヨイもそれに合わせて歩みを止める。薄暗い山道から急に視界が開けた。あまりの明るさに俺は思わず目を細める。

「着いたよ。ここが、革命軍『天つ日あまつび』の本部」


 俺がヤヨイに姫抱きにされながら見たもの、それは。

 鳥居だった。


「……あ! えっと、あ……あの! こっちです!」

 放心状態で鳥居を眺めていると、境内で掃除をしていた長身の男がこちらに手を振りながら駆け寄ってきた。

「あ、きさらぎ……くん。ひ、久しぶり、ですね」

ほたるくんも久しぶり! この子たちがかなえさんが言ってた『例の』だよ。もう連絡来てるよね?」

「は、はい。もちろん。こ、こうしてお待ち、しておりましたので。え、えへへ」

 長身の男はこちらを見ると、目をきょろきょろとさせながら挨拶してきた。自分の指を絡めながら、どこか自信なさげだ。


「か、革命軍本部所属の……いやぼくなんかが本部っていうのもおこがましいけど、えっと、ここで情報伝達を主にやっています、蛍っていいます。よろしくです」

「は、はあ……そうすか」

 長身の男―—蛍を眺める。ほんとにでかい。猫背をまっすぐに伸ばしたら190センチ近くあるんじゃなかろうか。

 羨ましい限りである。

「ご主人様、統計学上身長が低い男性が好みという女性も多くいらっしゃいます。気を落とされる必要はないかと」

「うるさい。俺はそんなこと全く、一つも、ミリも気にしてない」


「あ、あの……歩いて来られたんですか……?」

 おどおどとした様子で蛍が聞く。

「? ああ、そうだけど」

 俺が答えると蛍は驚いて「え? ほんとに?」と小声で言った。

「ぼくらは、村に降りるときはバイクか日和ひよりさんの車で行くんですが……」

「…………」

 無言で如月を見る。

 如月は焦った様子でいい訳を口にした。

「い、いやあ。その、ね? 普段はおれ一人で歩いてきてるからさあ……まひるんも、いけるかな? って……」

 地球に降りた玉兎に「どうとく」を学ばせる法律はできないものだろうかと、本気で考えた。

 こっちは生身の人間なんだぞ。俺に関してはその生身の人間より体力ないんだぞ。

 なんでヤヨイは止めてくれなかったんだ。

「いざとなれば担げばいけると思いましたので」

 玉兎に思いやりを期待した俺が馬鹿だった。


「あ! おれ、他のとこで用事あるから! じゃ、あとはそういうことで!」

 こいつ、逃げるつもりだな。

 如月はそう言うとそそくさと去っていたが、途中で何かを思い出しかのように振り返った。


「せいぜい頑張ってね。愚かな地球人ども!」


 台詞のわりには、太陽のようにカラッとした笑顔で、今度こそ去っていった。


「えと、みんなに会う前に、拠点の案内を……してしまいますね」

 如月とは対照的に、蛍がぎこちない笑みを浮かべて話しかけてきた。

「ああ、よろしく頼む」

 俺が返すと蛍はペコリと小さくお辞儀をして俺たちの前を歩き始めた。

「今歩いているのが境内です。さっきぼくらがいた鳥居が拠点の入り口になります」

 セミの五月蠅い鳴き声と、風鈴の微かな音が境内に響いている。四方を山に囲われたこの神社……もとい拠点は周りより少し気温が低い気がした。

 じゃりじゃりと音の鳴る地面を踏みしめながら、蛍のあとをついていく。


「聞きたいことはいっぱいあるんだが、まず革命軍の本拠地がなんで神社なんだ」

「あ、それはですね……ここはまず王都から離れた歳星であること、その歳星の中でもかなり奥まったところにあるので……敵から見つかりにくいから、ですかね」

 蛍は自信なさげにこちらをちらちらと窺っている。

「そ、それに、ここはもう参拝者が誰もいなくて……広い土地と大きな建物だけが残っている状態だったんです……なので、住居としても活用できる、と」

 確かに一反乱軍にしては立派過ぎる社だ。昔は結構な規模の神社だったんじゃないだろうか。

「も、もちろん願掛け的な意味もありますがね……えへへ、ふへ」

「……建物は大きいが、人は少ないな。何人くらい住んでんだ?」

「6人ですね」

「え?」

「へ?」


 6人? 少なくないか?


「ああいえ! 真昼くんとヤヨイ……さんを含めれば8人ですね! すみません、これから衣食住を共にするというのに、ぼくは……。だからぼくはこんなに駄目なんだ。気が使えなくて、思いやりもないだらしない男で……」

 なんだか明後日の方向に勘違いしていらっしゃるが、俺が言いたいのはそんなことじゃない。


「革命軍の規模……小さくないか?」

 蛍は一瞬固まったが、やがて俺の言わんとしていることを理解したらしく、「あ、ああ、それですか」と呟いた。


「か、革命軍は敵の攻撃を分散するために、それぞれのスラム街の地区で活動しています。ここは本部ですが……実際に住んでいるのは、えっと、幹部っていうと、おこがましいですが、そういう人たちが住んでいます。他のメンバーの方、というか実際に兵士として参加していただいている方は、普段は別の場所のいらっしゃいますよ」


 ということはこいつも幹部ということか。とてもそんなふうには見えないが。

 俺の視線を感じたのか、蛍は情けなく笑うと「靴、脱いでくださいね」と言った。

「驚いた。この現代でまだ土足厳禁の文化残ってたんだな」

「い、一応、神社、ですので」

「……今は住居ですが」と付け加えると、彼は俺とヤヨイが脱いだ靴を揃えた。

月都げっとでも、一応土足厳禁だったはずですよ」と蛍は付け加えた。


 社の中に入ると、木目の床から冷たい感触が足に伝わった。境内も涼しかったが、中に入るとさらに気温が下がったような気がする。

「ご主人様、それはプラシーボかと」

「ひっ…………」

 ヤヨイの声を聞いた蛍がなぜかビクンッと肩を揺らした。

「……どうかしたか?」

 まあ急に機械音声で話す女がいたら誰でも驚くとは思うが。

「あ、いえ……その……」

 蛍は俺の目をちらちらと見ながら不安げに話す。

「女性が……苦手で……すみません」

「まあ……そういう人もいるから。ヤヨイに関してはほんとに誰にでもこんな感じだから気にしなくていいぞ」

「恐れ入ります……」


「改めて、この建物が、本殿になります……。ぼくらは普段ここで生活していますが、神様のいたところですので、け、敬意だけは、忘れないように、お願いします……」

 そう言って、蛍はさっきより慎重に、静かに本殿の中を歩き始めた。俺たちも後に続く。木造建築にはいくつもの襖で仕切られた部屋があり、廊下の奥をみると中庭も見える。

「あ、中庭を横切って、みんながいる部屋に……挨拶にいきます。そんなに怖い人たちじゃないので、緊張しないでくださいね……へへ、えへへ」


 俺たち3人は手入れされた中庭を横切って、本殿の一番奥の部屋の前に辿り着いた。

「革命軍の住居にしてはえらく豪勢だな」

「そ、そうかも知れませんね……庭は、日引ひびきくんが手入れしているみたいで……まあ、生き物は、とてもじゃないけどそんな余裕ないんですが……」

 まあ、革命軍幹部達の生活については後々観察するなり、本人たちに聞くなりすればいいか。


 俺たちは別に革命を起こしたい訳じゃないし。


 本殿の一番奥、鶴が描かれたひと際豪華な襖を見つめ、大きく深呼吸をする。


 舐められないこと、俺がスラムで嫌と言うほど学んだ処世術である。


「……では、開けますね。何度も言うようですが、ぼくたちは仲間……です。どうか緊張なさらず」

 その言葉とは裏腹に自分が一番緊張している様子の蛍がおずおずと襖に手をかける。


 蛍には申し訳ないが、俺はお前たちの「仲間」ではない。

 あくまで「お互いに利用する立場」である。


 蛍が静かに襖を開けると、色あせた畳に座っていた人間の10個の目が、一斉にこちらを向いた。


 楽しそうな者、穏やかな者、緊張の色が窺える者。どれも目は口ほどにものを言う。


 そんな中、たった一人、まっすぐに俺を見つめ、値踏みするような視線があった。


「革命軍『天つ日《あまつび》』総司令官、あおいだ」


 鴉の羽のような黒い髪を短く切り揃えた体格の良い男は、黒曜石のような瞳をぎらつかせて、こちらを睨みつけた。


「よろしく頼む。『協力者』」


 

 


 

 















 

 









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