第35話 狂気の森の追放

(完了です!)

 

 匡正きょうせいの魔石の晴れ晴れとした声が、リデルの脳裡に響き渡った。

 いよいよ、希望の魔道具が出来上がった。それはリデルが想像していたものより格段に兇悪な形と能力を備えているようだ。

 

「レヴィンさま! 改良できましたぁぁぁ!」

 

 魔道具を駆使して攻撃し続けている、レヴィンへとリデルは告げた。

 リデルの魔法の杖へと合体された。一体化された魔道具たちのお陰で、極上に立派は杖となっている。

 

「お、すごい魔法の杖になったな! 強そうだぜ!」

「はい! 強烈に強いですぅぅ!」

「よせ、やめろ! それを使うなぁぁぁぁ!」

 

 悪魔らしきを召喚途中の司祭ザクタートは、焦燥にかられた表情で絶叫した。

 

「よし、とっとと済ませようぜ! 今だ! 力を降り注げ!」

「畏まりましたぁぁぁ!」

「や、止めろおおおお!」

 

 司祭ザクタートには、多分、杖に合体した魔道具から発動する力の把握はできない。殺されると、考えているだろう。

 だが、殺すことはしない。人間であれば。師匠と約束しているから。

 レヴィンの命令であっても人間は殺すことはできない。

 だが、もしも、何らかの契約上、司祭が人間ではない存在に変わっていたら消滅する可能性はある。

 

「止めろ、止めるんだ! あ、あ、霊草が!」

 

 司祭は、霊草の心配をしている。

 

「ご心配には及びませんん! 行きますよぉぉぉ!」

 

 リデルは、派手に魔法の杖を振り回す。改良の魔法で合体された魔道具たちが融合され、とても美しく兇悪で、強そうな杖だ。次元の異なるような空間が杖の先で超豪華な飾りとなり、光の魔法陣が複雑に揺れ重なる。魔法の力が渦巻いていた。

 

「止めてくれぇぇぇぇ!」

 

 断末魔めく司祭の声は、直ぐに聞こえなくなった。森が轟音を立てている。

 リデルは、レヴィンを連れて上空へと舞い上がった。ふたりで宙に浮き、下方の森だけでなく、領地外へと続く森を眺めた。

 

「すげぇ! ザクだけを交換するんじゃなかったのか?」

 

 レヴィンが驚きと共に、爽快そうに訊く。

 

「はぁ。その予定だったのですが、関連で失敗し続けた司祭さん対応の魔道具が、全部合体しましてぇぇ」

「それで、狂気の森ごと、霊草ごと、根こそぎ交換か!」

 

 司祭ザクタートは狂気の森ごと、領地外の土地と交換された。もはや司祭は、レヴィンの領地の外だ。

 リデルの自爆魔道具で燃えていた狂気の森は、焦げた霊草ごと、要は地面ごと、丸々領地外の森と交換された。焼け崩れた礼拝堂も領地の外だ。

 

 狂気の森の存在した場所は、領地外にあった清浄な場所と交換されている。違和感なく、領地の森の一部となった。ざっくりと深い根の張った土地ごとの交換だ。

 

「ぁぁ! なんて、凄まじい魔道具でしょう! でも、司祭さんにしか、効かないかもですねぇ?」

 

 司祭ザクタートへの対策として造られた大量の魔道具の合体品だ。他に用途があるとはリデルには思えなかった。

 

「そんなことないぞ! 悪魔の術と、司祭の術を、魔女の力で凌駕できる!」

 

 レヴィンは、確信したように言う。

 

「レヴィンさま、何か特殊な魔道具が足されましたかぁ?」

 

 リデルは瞠目どうもくしながら訊く。レヴィンは魔道具を使いこなすことで立派な魔法使いの一種と化していた。

 

「そのようだ。たくさん過ぎて、少し把握に時間がかかりそうで、楽しいぜ!」

 

 レヴィンはウキウキと、一気に手に入れた大量の魔道具合体からの力を楽しんでいる。

 

「それは、わたしもですぅぅ。何を造っていたやら謎が多いですねぇ。造ったときは失敗ですが、そのとき造ろうとしていた物が完成してますからぁ」

 

 過去の自分が何を思って失敗魔道具を造っていたものか、既に分からない。だが、魔道具をひもとけば分かってくるだろう。

 

 思いがけない魔道具ができているし、全部魔法の杖に合体した。

 ひゅるひゅると、光の渦を巻き付けている杖を、リデルは箒に戻す。司祭と対峙していたときは、箒の形を保てなかったが、戦いは終わった。懐かしくすら感じる箒の杖だ。

 

「ザクの奴、生きてるんだよな?」

 

 少し心配そうにレヴィンは呟く。排除はしたいが殺すことは本意ではないのだろう。

 

「はい。わたしぃ、人は殺せませんですぅ」

 

 リデルの言葉に、レヴィンは安堵した表情だ。

 

「領地の外に追い出してくれりゃあ、それで良い」

 

 レヴィンの言葉にリデルはコクコク頷く。

 

「まぁ、オレは、領地外に出るときは要注意だな」

 

 思案気な表情でレヴィンは呟いた。

 

「司祭さんは、レヴィンさまの領地テシエンの街だけでなく、ハインドの街にも入れないはずですぅ」

 

 狂気の森も、ふしだらな礼拝堂も霊草も、全部レヴィンの領地からは消えた。

 入れ替えた途端、ビンッっと、張りつめた感覚がレヴィンの領地の森を隔てている。その気配はテシエンとハインドの街を含んでいた。

 

「へぇ、それは助かるぜ。ハインドには出かけられないと不自由だ」

「狂気の森は、かなり焼きましたし、煙に巻かれて霊草は全滅ですよぉ。領地外では、霊草が育ちそうな場所はなさそうですねぇぇ」 

 

 ふと、リデルは力の波動を感じた。

 宙に浮かんだまま会話をしていたふたりは、森の一点からきらきらと光が宙へと舞い上がり広範囲へと拡がって行くのを目の当たりにしている。

 司祭ザクタートを追い出したところで、すかさず精霊の力が領地の森を、街を、都を、包み込んで行ったようだ。

 

「あ、精霊さまが、結界を! これで司祭さんは二重の護りで、レヴィンさまの領地には二度と入れませんですぅ」

「それは、滅茶苦茶ありがたいぜ。今度、礼をしに神殿を訪ねるか」

「はいっ! まず城へ戻って衣装を整えませんとですねぇ」

 

 レヴィンの衣装は魔道具でできているので、基本、身支度は無事だ。だが、司祭の術も、悪魔の術も弾くような衣装では、精霊に逢えない可能性がある。

 リデルも、色々と常には封じておいたほうが良さそうな魔道具などが多い。少し整頓の必要がありそうだった。

 

「ザクが欲しがっていた、お前の『蹉跌の知識』は、すげぇ物なんだな」

 

 レヴィンは感心したように呟く。

 

「はいぃ! 驚きましたぁ。ただ、匡正の魔石がなければ、たいして力を発揮できないかもですぅ」

 

 匡正の魔石は、リデルのなかから取り出せない『蹉跌の知識』を活用している。魔石の進化に取り込んで、信じ難いような効能を持つ魔道具を造り出す。

 

「頼もしいぜ! お前、最強の魔女だ」

「魔法の使い方は、レヴィンさまのほうが上手ですよぉぉぉ」

 

 普段魔法を使わないのが不思議なくらい、レヴィンは巧みに魔道具の魔法を使いこなしていた。

 

「お前の魔道具の出来が良いんだろう? さて。じゃあ城に帰るか」

 

 森は平穏だ。

 

「はいっ! 畏まりましたぁぁ!」

 

 リデルは歓喜と共に箒を振り回し、ふたりを城へと帰還させていた。

 

 

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