第34話 匡正の魔石が武器を生成

 リデルは、魔石による改良の魔法を使い続ける。もう、当分、失敗魔法は不要だ。少なくとも、狂気の森での司祭ザクタートとの戦いでは、もう失敗している余裕はない。

 

 焦燥を隠したような微妙な表情で司祭ザクタートは、レヴィンが焼いていた大穴の消火をしようとしていた。だが、腐食をともなう蝕火の魔法は、水系の魔法で消すことはできず手間取っている。

 

「改良できるもの、どんどん行きますぅぅぅ」

 

 元より自爆する魔道具は改良できていたので、リデルは集中的に改良し続けた。何しろ、ふしだらな礼拝堂の周囲にも、中にもたくさん仕掛けてある。

 

 轟音が響き続けた。礼拝堂は外からの攻撃には強いが、中での爆発には弱いようだ。

 

「いつの間に仕掛けたのです?」 

 

 司祭ザクタートは余りの自爆魔道具の多さに呆れた様子だが、リデルは失敗数を稼ぐのに必死だった。それに、司祭は、礼拝堂に大穴があいているのに不用心にも放置して消火に行ったのだ。

 仕掛け放題に決まっている。

 

「とっととオレの領地外へ出て行け」

 

 狂気の森の霊草畑でも、更に爆発が起こった。水浸しにされたくらいでは、リデルの自爆魔道具の発動は止められなかったようだ。とはいえ延焼は食い止められるだろう。

 

「私を城へと招きなさい。そしてふたり共、私の下僕となるのです」

 

 まだまだ余裕な気配をさせながら、司祭ザクタートはレヴィンへと暗示を含む術で囁いた。

 レヴィンは、衣装の全て飾りの全てが魔道具になっている。暗示の術は、簡単に弾かれた。

 

「相変わらず、自分の状況把握は甘いようだな。ザク、お前に、どんな手が残っているっていうんだ?」

 

 レヴィンは挑発するように言う。改良魔法が順番に処理するための刻を稼いでくれている。

 リデルは、匡正の魔石に頼んで、順番に最速で改良の魔法を掛けさせていた。

 

「レヴィンさま、これをお使いくださいぃぃ」

 

 リデルは、レヴィンに使いやすそうな司祭ザクタート向けの攻撃魔道具を手のなかへと送り込んだ。

 たくさんの武器が、防具が、改良の魔法で仕上がって積み上がっている。

 司祭ザクタートの魔法では、消去することも、移動させることも、触れることもできない。

 

「おっ、良さそうな武器だな! これは、ザク、お前に効くぜ!」

 

 蝕火の魔法を上位版にしたものだ。水では消せない火。腐食を伴う火は、悪魔の術と、司祭の術、両方を相殺できる可能性が高い。司祭ザクタートは、ギョッとした表情を浮かべた。盾のように、悪魔の魔法陣めいた闇を張りめぐらせるが、たぶん、腐食を含む炎弾として打ち込まれるから、悪魔の盾も突き抜ける。

 

 盾が突き破られた瞬間に、司祭ザクタートはレヴィンの背後へと転移していたが表情は苦々しそうだ。

 

「さすがは、『蹉跌の知識』の賜物のようです。ぜひとも欲しい……」

 

 命を奪えないのが残念です、と、余裕を感じさせるような呟きをしている。レヴィンは、すかさず背後へと腐食を含む炎弾を放つ。炎弾は好きな方向へと打ち出すことが可能だ。レヴィンは防御と攻撃を同時にしているような状態になってきていた。

 

 リデルは、改良して出来上がる武器を、どんどんレヴィンの武器としての魔道具に追加して行った。進化した魔石による改良では、司祭対策として造った魔道具たちは合体可能になっている。

 

「すげぇな、リデル! この魔道具、足せるのか! どんどん格好良くなってくぜ!」

 

 たくさんの刃がついた巨大槍めいた杖的なものが基礎となり、魔道具が足されるたびに飾りが増える感じだ。青竜が巻き付いたり、金細工風や、宝石が足されて行く。武器のように見えるが、あくまで魔道具であり魔法の杖のようなものだ。魔法が飛び出す。

 

 重くはない。その上で、見た目の巨大さというか派手さが増している。

 今は、その武器で時間を稼いでほしい。

 順番に改良して行く中には、城に置き去りの魔道具も含まれている。距離感は関係ないので、どんどん改良した。改良された魔道具たちは、鑑定の後、売りに出すに充分な品になっているはずだ。

 

「はい! まだまだ足しますですぅぅぅ!」

 

 もう少し。もう少しで、肝心な、司祭ザクタートを領地外の樹木と交換する魔道具の順番が来る。

 その前に、レヴィンの武器は、益々派手になった。

 

 そして、リデルの魔法の杖たる箒にも、司祭ザクタートを領地から追い出すための魔法に付随する魔道具が足されていた。

 

「おっ、凄い効果だぜ? ザク、早い所、領地外に逃げたほうがいいんじゃねぇか?」

 

 挑発しつつ、レヴィンは遠慮なく司祭ザクタートへと新たに加わった魔道具からの魔法を放つ。

 蝕火の魔法を巨大炎弾にまとめ、火炎風と共に巻き込んだ。

 司祭ザクタートを包み込んだ火炎風の内側で、蝕火の炎弾が炸裂する。

 

「ふっ、そんな程度か?」

 

 逃れようもないはずなのだが、司祭ザクタートは炎から抜け出し不敵にわらう。だが、司祭服の裾が蝕火により腐食して少しずつ削れている。

 

「レヴィンさま、すごいです!」

 

 感動の声をあげるリデルの手にする箒は、合体してくる魔道具の影響で箒の形を保っていられず、本来の魔法の杖の形を剥き出しにしつつある。

 

「なんだ、その杖は?」

 

 司祭ザクタートは、上空へと逃れながら瞠目どうもくし声を上げている。

 改良された魔道具たちは、次々にレヴィンの武器と、リデルの杖へと合流して行く。リデルの杖は、その度に巨大さを増し、美しさも増して行く。

 

「ああ、お師匠さまの杖――なんて、立派なお姿なんでしょうぅぅ!」

 

 ずっと箒のまま変えられなかったし、リデルは師匠から贈られた杖の本当の形を見たことはなかった。

 だが、たぶん、今は加えられてくる魔道具のお陰で成長し続けている。

 司祭ザクタートを打倒するための魔法が、どんどん蓄積されて行くのが分かった。

 

 まあ、兇悪そのものの魔女の杖になっているが、それでも人の命を奪うことはない。

 

「すばらしい杖だな! リデル、お前にピッタリだ!」

 

 自分の武器にも悦に入った表情のレヴィンだが、リデルの杖には完全にれてくれている。

 

(もうすぐです! もうすぐ、例の魔道具の順番が来ますよ!)

 

 魔石の声が、リデルの頭のなかに響き渡った。

 

(急いで、残りを改良しましょうぅぅ!)

(了解です! 速度を上げます!)

 

 魔石の改良速度があがり、レヴィンの武器と、リデル杖は見る間に豪華さを増して行く。その武器で、レヴィンは司祭ザクタートを攻撃し続けていた。

 

 司祭ザクタートは、どうにかしてリデルを生け捕りにしようと、悪魔の力を駆使しているのだが、ことごとくレヴィンの火炎に弾かれている。

 

「こうなれば、仕方がありませんね」

 

 司祭ザクタートが呟くと、ゴゴゴゴッと地面の底からの音が響いてくる。

 

「まさか……っ! ダメですぅぅ、そんなこと、しちゃあああっ」

 

 リデルは、悲鳴めいて叫んだ。悪魔を召喚するつもりらしい。

 

 

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