第19話 城に在った街
レヴィンの城の敷地は、荒れ放題で広大だ。そこに、街の痕跡がある。リデルは城にばかり意識を集中していたし、街の住居や農地を整えることで頭が一杯だっので最初は気づかなかった。
「城郭都市って感じだったのか?」
レヴィンが訊いてくる。
「いえ、都市というほどに広くはないですよぉ。ただ、城の他にも、お屋敷のような建物がたくさんあって、城門近くには誰でも出入り可能な商店街が在ったようですねぇ」
「この広大な荒れ地が街に甦ったら、すげぇぞ!」
レヴィンは高揚した声で言う。
「大半の空き地は城前の広場ですから、街は城門の内側近くですぅ。ちょっとした街並みですかねぇ……」
魔女の眼で眺めながらリデルは呟いた。かつての賑わい、その痕跡を残す瓦礫があるから大半は戻せるだろう。
「よし! じゃあ、城門内に存在した街を復活させろ! 全て元通りに!」
レヴィンは、良い感じで命令してくれる。
これで、リデルの魔法は完璧だ!
「畏まりましたぁぁ!」
歓喜めく声で応えながら、リデルは箒型の杖を大きく振るう。レヴィンの命令に従い、リデルのなかから凄まじい量の魔法の光があふれ出す。城壁内のあらゆる箇所に在ったであろう建物の場所に、光はどんどん蓄積されて行く。光がそれぞれの建物の形を成して行く。
城壁にも、光は降り注いだ。
パアアアアッっと、全体の光が更に
「おおおっ! これは、想像していた以上に街だ!」
レヴィンは驚きにはしゃぐ声をたてている。
後でなんとかしようと思っていた城壁も、美しく甦って立派になった。
「ああ、なんとか甦りましたねぇ! ただ、また、家とか店舗のなかに、ヘンなものが出来上がっているかもしれないですぅ」
もう、レヴィンには前回、余分なものができたのはバレているし、それは叱られる対象ではなく、褒められる対象だ。なので、慌てて消す必要はない。
確認が済むまで、新たに甦った街の家屋は、他の者には入れないようになっている。それは、リデルの魔法の力というよりは、レヴィンの領主権限によるものに起因しているようだった。
「よ~し、建物のなかを確認しようぜ! これだけあると、かなり手間は掛かりそうだな」
手間が掛かるといいながら、レヴィンは楽しそうだ。
「街の家より、高級な邸や店舗が多いですぅ。最盛期の感じですかねぇ」
家屋のなかには、住人たちの財産も残っているだろう。もう、ずっと古い時代に亡くなっている者たちの持ち物だから、所有者はレヴィンということになる。
幽霊が苦手らしきレヴィンも、リデルの魔法では住人的なものは甦らないことは実体験済みだから安心しているようだった。
「確認しながらでいいから、財産的なものは全部、城に移してくれ」
「はいっ! 資金が増えるの良いですね~!」
「衣装も良いのがありそうじゃねぇか!」
街の家屋と違い、貴族たちの仮住まいや高級な店舗物件が多い。店舗物件では、売り物も甦る。食材的なものは無いが、家具類や食器や小物類、財産、宝石、衣装、ざくざく戻っている。
「凄いですねぇ~! かなり、皆、裕福だったようです」
「どのくらい古いんだろうな」
レヴィンは首を傾げる。確かに、瓦礫としてしか残っていないほどに荒れ果てていた。何があったやら。そしていつ頃のことやら。
「かなり古いってことしか、わからないですぅ。前の領主さんも、もしかしたら……あの契約書も、随分と古い品である可能性がありますねぇ」
レヴィンに呪いをもたらした契約書。呪いと共に、テシエンの街は城ごとレヴィンの所有物だ。
甦った城郭街の探索。何か、良いものが見つかると良い。
「あ、武器や防具があるぞ」
武器や防具が、店舗物件の扉前で多数見つかった。一旦、武器と防具の部屋を決めて見つけるたびに全部、転移で送る。
「これらに魔法の効果をつけたりできるといいのに。さすがに高望みかぁ?」
レヴィンの独り言を、リデルは聞き逃さなかった。
「レヴィンさまが、命じてくだされば、かなりの確率で魔法効果をつけられますよぉ! ただ、希望の魔法かは謎です。それでも、防具には防具に良い、武器には武器に良い魔法が付与されるはず!」
「できるんだな?」
リデルの言葉の途中で、琥珀の眼をきらきら輝かせはじめたレヴィンの表情の魅力に、ずきん、と、心が跳ねる。
「はいぃ! やります! 全部ですかぁ?!
魔石を使うわけではないので、一気に、が可能だ。
「そうだ! 全部になんらかの魔法を付けて、価値を上げて、強化しろ!」
「畏まりましたぁぁ!」
ああ、愉悦の瞬間!
まず、武器と防具を集めた部屋へと、ふたりで転移。
そして、リデルはうっとりと、レヴィンの命令による魔法を炸裂させる。なんて、心地好い!
凄まじい光の
「すごいな! 魔法の力はわからんが、見た目だけでも、立派で強そうだぜ?」
まさか、見掛け倒しではないよな? と、レヴィンは念を押す。
「勿論、レヴィンさまの命令ですから、完璧ですよぉ!」
リデルは、満足感に浸りながら応える。実際、レヴィンの命令効果のお陰であっても、魔法が完璧に成功するのは嬉しい。
「造る魔法には、何故、オレの命令があまり効かないんだ?」
目の前の極上の品々を眺めながら、レヴィンは不思議そうに首を傾げた。
「はゎゎゎゎッっ!」
本当に、なんででしょうねぇ、と、リデルは焦りまくる。理由なんて全く分からないし、レヴィンの命令があれば確実に魔法が成功、だなんていうのも、経験的に分かってきただけだ。最初から分かっていたのと、ちょっと違う。
「まぁ、お前の場合、魔法の失敗が必要なんだったな。品は、魔石で本来の品に改良されるし、別に失敗でも構わねぇか」
レヴィンは何もかも命令すれば良いとは、考えていないようだ。魔石のことを考えれば、それはありがたい。全部の魔法が成功するようになってしまったら、逆に魔石が進化しなくなってしまう。
「そう言ってくださると、嬉しいですぅぅ!」
うきうきしながら、レヴィンと一緒に、また甦った街の新たな屋敷を見て回る。
すぐにでも生活が始められる状態に整えつつ、不要というか高価すぎるものや衣装類、金銭的なものや、宝飾品類、調度類の備え付けでないものなどは、城の別室へと送った。
確認が終わる端から、執事のベビットへと知らせる。さまざまな手続きが必要だろう。城の敷地内だから住まわせるのに審査もしてもらう必要がある。
そして、店の準備も!
何もかも順調すぎて怖いほど。しかし、リデルはレヴィンが頼もしく、命令がとても魔法に効果的だと分かり、とても安堵した気分になっていた。
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