第7話 奇妙な壺

 隣街で食事を済ませ、調理不要で食べられる当面の食材も買い込んで城へと転移で戻った。

 リデルは廃屋を甦らせるときに隠すように転移させた品々を収めた部屋へと、レヴィンを案内する。ひとつの広い部屋に、送り込んだ品々があふれていた。

 

 叱られるのは覚悟していた。リデルは家屋を甦らせるついでに、ヘンな品ばかり造ってしまったようだ。

 だが、品の説明を始めるとレヴィンは大喜びだった。

 

 最初の家に詰まっていたのは、ふわふわのクッションだ。かなり巨大で仮眠に良さそうだ。大きめな魔道具のたぐいというか、魔道具的な家具が多い。どれも、分かりやすいように、甦った家屋の扉を開けた場所にあった。

 

「甦った家からも、結構資金を足せたけど、ここに在るのも売れそうじゃないか!」

「はぁ。でも、どうやって? というかに運んで売りましょう? 大きいものもありますし、骨董市……では、無理がありますよぉ」

 

 持って行くのは転移を使えばいいので構わないが、購入者が運ぶ方法が難しく感じられた。

 

「まぁ、急がなくていいさ。ただ、客の手元に運ぶなら、お前の転移だな」

 

 領地の住人なら、多少、面倒見てやろうぜ、と、言葉が足された。人が増えてきたらテシエンの街で売ろうという感じらしい。

 

 

 

「ん? その壺、何か湧いてきてるぞ?」

 

 部屋の片隅に、ひっそりと置かれた壺を見てレヴィンが首を傾げる。

 

「は? 壺からですかぁ?」

 

 みれば確かに、小振りの壺から白いものがあふれている。

 何の変哲もなさそうな、しかし魔法が強そうな壺だったので、咄嗟とっさに城に送った品だ。

 

「これ、塩か! どんどん増えてるな。売れるんじゃないか?」

「塩……?」

 

 塩がでてきている?

 扉の前に在ったから、家屋を甦らせる魔法の影響で偶然造れてしまった壺だろう。

 舐めてみるまでもなく、確かに塩だと分かった。しかも良質で美味しい塩だ。

 

「おい。湧きだす勢いが増してないか?」

「あ、わっ! 確かに、だんだん勢いが!」

 

 確認しに近づくと塩の湧きだす勢いが更に増した。

 

「袋詰めして売ろうぜ」

 

 レヴィンが提案とも命令ともつかないような響きで呟く。

 リデルは、慌てて空き部屋に魔法の布地を敷いて壺を送ると、湧いた塩を自動で袋詰めして積み上げるように魔法を掛けた。

 首尾良くいったところをみると、レヴィンの命令的なものか、強い希望だったようだ。

 

 リデルは、壺を転移させた部屋へとレヴィンを案内する。

 

「ああっ、思ったよりたくさん出てますよぉ。部屋、狭かったですかね?」

 

 広めの部屋を選んだが、塩を小分けした形の小袋は、どんどん積み上がって行く。 

 

「そのうち、商人を呼びつけようぜ」

 

 レヴィンの提案にリデルは頷いた。

 

「いつまで出続けてくれますかね?」

 

 塩部屋になって袋の積み上がる様子を眺めながら、ちょっと心配そうにリデルは呟く。すぐに打ち止めでは、ちょっと悲しい。袋詰めされているのは、質の良い美味しい塩だ。レヴィンの領地であるテシエンの街は比較的内陸だから、きっと貴重されるだろう。

 

 

 

「骨董市といえば、売る品もできてきましたが、何か良い品がみつかるかもです!」

 

 案外価値に気づかず売られている値打ちの高いものが骨董市には多い。安く買い取り別の場で本来の価値で売れば、かなりの収入が見込めるはず。

 

「鑑定、できるのか?」

 

 レヴィンはやはり少し疑わしそうな視線で訊いてくる。

 

「はい! 得意です!」

 

 多分。と、小さく言葉を足す。

 今は、甦らせた品の魔法効能の強い品は鑑定できている。いや、鑑定は、かなり真面目に習得したはず。

 

「じゃあ、明日は近場の骨董市、行ってみようぜ。転売できそうな物を探すか」

「店主が気づいていない高級品、きっと、見つけられますよぉ!」

「お前、そんなことができるのに、なんで飢えてたんだ?」

 

 レヴィンは呆れ顔だ。

 

「あわゎっ、だって、レヴィンさまが終身雇用して下さったから、使えるようになったんですよぉぉ」

 

 必要な魔法を持っているのに、使えないもどかしさときたら!

 それに、どんなに価値のあるものを見つけて転売しても、お金を手にした瞬間に八割なくなる。

 

「まぁ、いい考えだな」

 

 思案しながらも、レヴィンは現状で小銭を稼ぐには良い方法だと思ってくれたようだ。

 ほこほこと、嬉しい気持ちがリデルの心に満ちる。

 

「見つけたら、心に声をかけて良いでしょうか?」

 

 リデルは確認するように訊いた。

 まさか、店主が気づいていない価値ある品の話を、目の前で声に出すわけにはいかない。

 

「お、お前、そ、そんなことができるのか? オレの心の中、勝手にみたりしてないだろうな?」

 

 軽く確認しただけのはずなのに、レヴィンは少し赤くなりながら吃驚びっくりした表情で慌てている。

 

「そんなぁ。レヴィンさまが、望まないことはできませんよぉ」

 

 言葉に明らかにレヴィンはホッとした様子だが、リデルは特に気にはしなかった。

 誰だって秘密のひとつやふたつや三つや四つ……。ありますよ、と、ボソボソ。

 

 

 

 リデルの終身雇用の縛りは、魔女見習い中の失敗による呪いの一種だった。

 調停屋の札は、ネルタック男爵家に手伝いの仕事に入った際に壺を割ってしまった。魔法も効かないくらい粉々に!

 

 どちらも、時折、記憶のなかをグルグル回るが、レヴィンに詳細を話すのは躊躇ためらわれた。秘密というほどではないが、できれば隠しておきたい。もっとも壺を割って札付きになったのはバラしてしまったが。

 

「魔法で何か品を造れば、骨董市で売れるかも……ですよね?」

 

 リデルは、レヴィンへと恐る恐る確認するように訊いた。

 せっかく骨董市に行くなら、もう少し持っていかれる品を増やして置きたい。今ある売れそうな品は、ちょっと大きすぎるものが多い。だが、小物なら自分で店を開かなくても、その場で買い取りをしてくれる者も居る。

 

「何が造れるんだ?」

 

 速効、言葉が返される。

 

「さあ?」

 

 しかし、提案しておいてリデルは首を傾げて言葉に詰まった。造ろうとすれば、失敗するし。他の別のことをしようとすれば、何か高価そうなものができたりする。

 

「わからないのに、何か造れるんだな? よし。じゃあ、どんどん造れ! 失敗してもいいから、空き部屋を埋め尽くすほど造ってみろ」

 

 リデルの魔法が、レヴィンの明確な指示があれば確実で、そうでない場合には三度に一度しか成功しないことはバレている。ほとんどがガラクタかもしれないが、確かに大量に造れば、いくつかは使える品ができてくるかもしれない。

 

「はいぃ! 畏まりましたぁ~!」

 

 レヴィンは、ある意味、リデルの魔法を信頼してくれているのかもしれない。

 少なくとも、たまに魔法が大成功するかもしれないことは、信じてくれている。

 リデルはドキドキしながらも、魔法がタップリ使えることを密かに喜んでいた。

 

 

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