第6話 廃屋を甦らせる
箒の杖を振り回し廃屋を甦らせる魔法を振りまく。リデルの魔法は、領主であるレヴィンの希望を反映し広範囲に作用した。
大量の魔気が廃屋を甦らせる魔法に転換され、綺麗な光の筋を幾つも造りだしている。それらは、遠く百軒くらいの廃屋へとそれぞれ注がれて行った。
「そんなに一気に甦らせる気か?」
「はいぃ? レヴィンさまのご希望なのでは……?」
リデルはまず十軒くらいのつもりだったのだが、魔法は遠くまで飛んで行った。それは、レヴィンの希望だとリデルは考えていたのだが、レヴィンにそのつもりはなかったようだ。
「いや、可能ならいいんだ、別に」
目前の廃屋が、見る間に復元され真新しい家として甦って行く。レヴィンは、半ば呆れた様子で眺めていた。
「はぁ、なんだか、とても上手くいったみたいですぅ」
リデルはホッと息をつく。
「一軒ずつ、確認してみるか」
レヴィンは告げながら、目前の綺麗に甦った家の扉を開けた。と、扉の向こうに何かもふもふしたものが詰まっている。
「わっ、わあああっ!」
リデルは慌ててながら、無意識にその物体を城へと転移で送っていた。
「なんだったんだ? 今の……」
レヴィンは少し眉根を寄せている。
幽霊でも出たかと思ったのだろうか?
ひゃああ、魔法は上手くいったけど、でも、なんだか変な物ができてる場所もあるみたい?
「なんだか、余分な物ができてしまった家がありますぅぅ!」
他のいくつかの甦った家屋も遠視でコッソリ確認するが、どの家にもなんらかの余分がある。
「余分? 幽霊じゃないだろうな?」
レヴィンは思い切り嫌そうな表情だ。幽霊的なものは、やはり苦手なのだろう。
「あ……、城に戻ったらお見せします……」
慌ててしまい、よく確認せずに転移させたが、別に隠し立てをするような品ではない。はず。
「ああ、なんだ。見せられる物なのか」
レヴィンは一気にホッとした表情だ。
リデルはコクコク頷き、レヴィンを連れ次々に転移して各家を確認する。
ああっ!
だが扉を開ける都度、リデルは思いがけないものを見つける。慌てて品を城に転移させる羽目になっていた。
後で見ることができると分かったレヴィンは、そんなリデルの慌てた行動を咎めはしない。出来上がった真新しい家々を珍しそうに眺めていた。
「調度類も、ちゃんと戻ってますね! すぐ生活できそうですよぉ」
家の復元の際に、関係ない品も甦ったり、造ってしまったりしている。だが、その余分を除けてみれば、住みやすそうな家ばかりだ。色々揃い何気に便利そうな優良物件だと思う。寝台やら、テーブルやら、生活に必要そうなものは、どの家にも全て整っていた。
まあ、生活していた最盛期に戻しているので当然ではあるのだが。リデルは魔法が上手く行きすぎて怖いくらいだった。
価値がありそうなものや、家には邪魔なものは、とにかく城へと送った。
「お前、そんなに凄い実力なのに、壺一つ再生できなかったのか?」
やがてレヴィンは、そっちを不審そうに蒸し返し訊いてくる。
「今はレヴィンさまが終身雇用にしてくださったから、使えるようになったんですぅぅ。今なら壺、直せます!」
ずっとポンコツな状態の魔女で、まともに雇ってくれるところなどなかった。まして終身雇用なんて夢のまた夢だったのだ。
「今更、壺を直しても調停屋の札は取れないよな?」
リデルは頷く。
今から壺を再生できたとしても、徴収用の札は付けられてしまったから、設定された金額が全て納められるまでは決してはずれない。
「壺が戻った上で天引きされ続けるなんて、酷すぎますよぉ」
リデルは元々修復は得意なはずだ。終身雇用されずに、ほとんどの魔法が使えないときでもそれなり修復はできていた。
なのに、あの壺ときたら!
「やっぱり、はめられたんだろうなぁ。お前に修復出来なかったって、怪しすぎるぞ」
「あわわっ、でも、あの頃は魔法に制限かかってました」
「いま、制限がなくて、これか?」
レヴィンは微笑う。各家に何やら余分があるらしいことを暗に指摘しているのだろう。半分くらいは、頼もしく思ってくれているらしい。
とはいえレヴィンの命令がなければ、たぶん三回に一度くらいしか、思い通りの魔法にならないような予感はしていた。
「あゎっ、でも、修復だけは、わりとできたんですよね」
色々誤魔化すようにリデルは呟いた。
レヴィンの希望どおり、領地中の廃屋を小さな痕跡から全部復元した。どの家も、ちゃんと住める。
甦った家のなかから、古い蓄えが出てきたりした。
金銭的なものや高価な品は家屋に残しておくわけにいかないので、すべて回収した。
各家でちょこちょこと、整えるための魔法を使う必要はあった。
そのため定期的に奇妙なものが出来上ってしまう。そして慌てて城へ送って隠す、の連続だった。
だが、古い家の持ち主が隠していた秘蔵の品や、貯蓄的な壺が良くでてくる。金銭的なものや高価そうなものは、既に持ち主がいないので全部回収して問題なかった。
家は、繁栄していた頃の状態だから直ぐに住めるし人を入れる予定だ。そんな場所に、金目のものを残して置くわけにはいかなかった。
「良くやったな! 今日は、ご馳走にしようか」
手持ちの金は復活させた家から回収できたことでそれなり増えた。一食を豪華にすることは可能だろう。
秋には大収獲が得られると分かっているが、それまでの繋ぎは必要だ。せめて何か日々の食事に事欠かないくらいには稼ぐ手立てを考えねば。
隣街の食堂では、リデルは魔法をレヴィンへと浴びせた。万が一にも、店員や、他の客がレヴィンへと触れないように守る。でないと、毎回、雷の衝撃を喰らってしまう。触れたほうには影響ないから、レヴィンが不審な客になってしまいかねない。
「魔法、使わせっぱなしで済まないな」
レヴィンは魔法を使わないから、リデルの魔法の消費がどのくらいの規模かは分からないはずだ。だが、労ってくれる言葉に、リデルはじんわりと嬉しくなった。
「いえいえ~、魔法使えて嬉しいですぅ~!」
実際、レヴィンのために使う魔法は、あまり負担がない。魔気の消費も意外に少なかった。それに、魔気の回復もとても早い。終身雇用による効果は、リデルにとって絶大なものに感じられていた。
「まぁ、三回に一回の成功率じゃ、数こなすしかないからな」
レヴィンは笑み含みに呟いた。
あれ? バレてる? なぜ?
家の復元は問題なくこなしたし、派生する問題でも、失敗は誤魔化したはず……。
レヴィンは魔法の使い手じゃないのに、なんでバレてるのおおおっ!
リデルのそんな心の叫びも、バレているかもしれない。
「ゎゎ、でも、有益な失敗ばかりですよぅ」
必死で、リデルは説得する口調だ。
次々にレヴィンが注文した料理が運ばれてくる。何気にリデルが好きな料理が並ぶ。
衣付きで揚げられた肉、チーズを巻いた生ハム、薄切り肉と茹で玉子と野菜の挟まったパン。その他にも、見慣れない料理も並んだが、どれも美味しそうだ。
どうして、わたしの好きな食べ物がわかるの?
リデルの好物の揚げ金芋も、タップリ注文されていた。
「まぁな。この、ご馳走様も、そのおかげだ」
レヴィンは、たくさん頼んでリデルへと取り分けてくれながら、どんどん食べている。
何気に大食いだということは、できれば隠しておきたいので、リデルは遠慮がちに食べていた。
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