弟
口羽龍
弟
和徳(かずのり)は85歳。1年ぐらい前にがんが見つかって、余命1年を宣告された。今、和徳はベッドに横になっている。衰弱して、もう何日もこんな状態だ。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
そこに、和徳の弟、和重(かずしげ)がやって来た。和重は和徳の1つ下の弟だ。だが、そうとは思えないほど若々しい体をしている。実は和重は、一度死んでロボットとして生き返ったのだ。
「大丈夫だよ」
和徳は弱々しく答えた。明らかに死期が迫っている。和重は泣きそうだが、ぐっとこらえている。
「おじいちゃん、死んじゃやだ!」
その横にいた和徳の孫、俊太(しゅんた)は生きてほしいと願っている。やっとおじいちゃんと言う事ができたのに、それから間もなくして死んでしまうなんて。
「わかってるよ。だけど、これからおじいちゃんは、空から見守るよ」
その時、和重は泣き出した。和徳との別れが辛いのだ。一度死んだとはいえ、一緒に生きてきたのに。
「どうしたんだい、和重」
「何でもないよ」
その時、和徳は和重の方を見た。何か言いたいことがあるようだ。
「お前は辛かったな。あんなに若くして交通事故で死んだんだもん。だけど、ロボットとして生き返った」
「僕はそれで、よかったのかな?」
和重は悩んでいた。どうして自分は年を取らないんだろう。和徳ばかり病で苦しまなければならないんだろう。和徳ばかり痛い目に遭わなければならないんだろう。そして、どれだけ身内の死を看取らなければならないんだろう。
「えっ、どうしたの?」
それを聞いて、和徳の息子、和也(かずや)は振り向いた。どうして和重がそんな事を考えたんだろう。
「いや、何でもないよ」
「ふーん」
その時、和徳の目が閉じた。そして、脈が止まったのを知らせるアラームが鳴った。みんな焦った。死んだんだろうか?
「和徳、和徳」
和重はゆすった。だが、和徳は起きない。
「ご臨終です・・・」
医者は寂しそうに告げた。それと共に、そこにいた家族はみんな涙を流した。
「そんな・・・」
和也は和重の肩を叩いた。慰めようとしているようだ。
「和重おじさん、辛いよな」
「うん」
和重は泣き崩れた。どうして僕は年を取らないのか? こうして年老いて死んでいく和徳の姿を見なければならないんだろう。
「俺、どうして一緒に年を取らないのかな?」
「わかる。その気持ち、わかる」
そして、和重はロボットとなって和徳と再会した時の事を思い出した。
和徳は泣いていた。世界でたった1人の弟、和重を亡くしたのだ。一緒に生きようと思っていたのに。こんなにも突然に奪われてしまうなんて。どうか悪夢であってほしい。だが、これは現実だ。神様はどうしてこんなむごい事をするんだろう。
「和重、俺、辛いよ・・・」
そこに、1人のロボットがやって来た。ロボットとしてよみがえった和重だ。寂しい思いをしている和徳のために、一緒に暮らそうとやって来たのだ。
「大丈夫?」
和徳は顔を上げた。そこには死んだはずの和重がいる。まさか、ロボットとしてよみがえったんだろうか?
「和重?」
「うん。僕、ロボットとして帰ってきたんだ。一緒に暮らそ?」
和徳は驚いた。ロボットとして和重が復活したとは。和徳は顔を上げ、笑みを浮かべた。
「い、いいよ」
和徳は承諾した。それから、和徳は和重と一緒に暮らした。そして和徳は、結婚し、子供に恵まれ、孫にも恵まれた。幸せな家庭を築く事ができたのだ。
病院の帰り道、和重と和也は一緒に歩いていた。和重は肩を落としている。和徳を失った事をまだ受け入れられないようだ。
「こうして生活していて、僕は思うんだ。どうして俺は和徳とは違って、年を取らないのかなって」
「その気持ち、わかるよ。和重おじさんはロボットだもんな」
和也は知っている。和重は和徳が若い頃に交通事故で死んで、寂しい思いをしないためにロボットになったんだと。
「どうして俺、子供ができないんだろう。パパになれないんだろう」
和重は落ち込んでいる。僕はロボットだ。和徳とは違い、いつまでも独身だ。子供が欲しいと言ったら、作ってくれる。だけど、博士が作ったのだから、子供と言えるんだろうか?
「わかったわかった。もう泣くなよ・・・」
「今度生まれる時は、人間でありたいな。年を取り、幸せに看取られたいもん」
和重は願っていた。機能を停止して、生まれ変わるとしたら、人間がいいな。そして、多くの子供に囲まれて幸せに暮らし、人生を全うしたいな。
「きっとなれたらいいね」
和也はそんな和重の気持ちがわかった。だけど、それはいつ訪れるんだろう。それはわからない。
弟 口羽龍 @ryo_kuchiba
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