第17話 いわゆるひとつの、一方その頃。

 

 

 どうも、スキモス家次男のロクス (3歳) です。今日は家族所有の遊泳場で海水浴という名の総合訓練……というのが表向きの予定で、実は父さんと兄さんとシル姉さんには敢えて伝えていない本来の目的があるんですよ。それが――


「ええっと、これはどういう……?」


 困惑気味に僕達家族を見ている、黄褐色の肌に赤紫マゼンタの髪、頭に生えた一対の角が特徴的な水着姿の素敵なお嬢さん。


 彼女の名はアンペラルア。名前のみで名字は元々無いね。あの女神オルタネッタとカールス大叔父さんの娘さんで、年齢はファス姉さん達と同じく10歳になるよ。



 ここは砂浜の後方にある、父さんの隣で僕が淡々と作業をしていた一時休憩所……の場所に設置した箱型簡易施設。亜空間収納から魔術人形の使用人がポンと出してパッと設置でハイ完了。複数並べれば、とても簡単に仮設陣地が組めるんだ。これは脅威だね?


 今はその室内にある長方形の一枚板に座面が付いているような長椅子と簡素な机を挟んで、向こうにアンペラルア、背後に護衛兼側近の名付き天使ネームド。こちらには母さん、僕、フォウ姉さんとフィフ姉さん (双子で共に8歳) の四人と、壁際に無手で立って控える映像音声その他諸々記録担当の魔術人形が一体。


「そう不安にならずとも大丈夫ですよ。これは我々とそちら側にとって双方利益のある提案だと思いますからね」


 てっきり母さんが話すものと思っていたのか、アンペラルアに正対していた僕が喋り出した事に多少面食らったような表情をしたものの、直ぐに思い至る所があったようでスッと冷静な目付きで僕を見てくれたね。初手はクリアだ。


「前提として、お互いが少なからず縁故関係にあるからという考えは一先ず捨てて下さい。 ―― 率直に聞きましょう。貴女は現在の立場を捨てる事に躊躇いはありますか?」


「……それは女神の娘として? 条件にもよるけど、特に執着があるという程では無いわね」


 うんうん。彼女はどうやらこちらの言わんとしている事を判っている様子。これはほぼ決まりかな?


「そうですか。……母さん、これはもう進めても良いですよね?」


「そうだね。私は元々それが最適解だと思っていたから、後は彼女次第だと思うよ?」


 母さんがゆったりと彼女を見据えて言うと、ぴくっと僅かに反応した後に姿勢を正して畏まる。どうやら相当嬉しかったみたい。よっしゃお母様のお墨付き貰ったー! って感じだね。


「だそうです。……では、これからの貴女の戦略をお聞かせ下さい」


「そうね……。それは、を含めても良い?」


「残念ですがもう予約が入ってまして。暫く空きは無いですかね」


「それは残念。……もうこっちに気が向いてるとは思うから、色々と仕掛けてみてあと三年ぐらいでガッチリ引き寄せていこうかと思ってるんだけど。少なくとも14の間までには決めるつもりよ」


「差し支えなければ手の内の一つを教えて頂けると助かります」


「……そりゃまあ、は基本じゃない?」


 座った自分を指差すアンペラルア。彼女は着ている水着から覗く胸元へ指先を向けている。


「そっちに比べれば大したモンにならないのはウチの母様を見れば分かるけど、逆にそこを利用してやろうかなって。多分ご立派なのは身近過ぎて見慣れちゃうと思うし」


「それは直接的な手段で?」


「アタシはそれでも構わないけど、多分向こうが嫁だなんだと意識して腹を括んない限りは一切手を出してこないんじゃない? 男らしさってのを変な風に履き違えちゃってるからね、アイツ」


 まあ欲に負けて求めてきたらこっちのモンだけど、と小さく呟いたのは聞かなかった事にしましょう。複雑に絡み合った様々な事情ってヤツがありますんでね (ニッコリ)。


「恐らくそうなるでしょうね。兄さんはその方が潔くてより好意を持たれると信じているようですから。 ……最後に、ある程度は何もしなくても得られる地位を離れてまでこちら側を選ぼうとする理由をお聞かせ下さい」


「そこは単純よ。そんなのに縋って得られるものなんてつまらないじゃない? そっちに居ると飽きなさそうだし。何よりアタシが入っていく事によって神側はより意志を伝えやすくなるし、そちら側としては神との綱引き材料にアタシを使えるから便利ね」


「そうなると神側の影響力が増して、こちらの自由度が減らされませんか?」


「アタシの立場が神族であり続ける限りはね。になる時には、天龍族とでも名乗って表向きの縁を切るわ」


 成程、これは本気みたいです。神の関係者というのは基本不干渉の原理に則って、管理する地へ一時的に降り立つ事は出来ても、定住するのは許されません。


 通い妻気分で今の神族の立場を維持するのではなく、正式に宣言をして神への所属から抜ける――制約のある特別扱いから制約は無いけれど保護もされないこの地の住人へと宗旨変えをする、という事です。


 彼女は何人か居る女神オルタネッタの子供達の中でもまだ知られていない存在です。どうせ抜けてしまうならと表立って動かなかったのだとしたら、前々からこうなるように計画していたのかも知れませんね。


「そこまでして一緒になる程、兄さんには価値があると?」


「ええ、そこまでよ。まずこの家の一員になれるというメリットがあるし、それにアイツって危なっかしくて放っておけないから、なんかアタシの庇護欲が疼いちゃってたまんないのよね……」


 あ~、特定の人物へ世話を焼く事に悦楽を覚える系女子って感じですかね? ちょっと目付きがうっとりしちゃってますよ。


 少しの不安材料が出てきましたが、それを補って余りある能力が彼女にはあると期待しましょう。


「では決まりですね。……そちらの方もその様に上へ報告して頂けると助かります。つきましてはこちらの書類に目を通して頂き……」


 先方にも事前に確認して許可を得ていましたので、この世界で使われる『術』を用いた誓約書を使って確約を取り、無事この場はお開きとなりました。


 さて、時間稼ぎの為だけにこの世界の女神様と大叔父さんを使ってしまいましたし、足止めをしてもらっているファス姉さんの所へと向かいましょうかね。


「めでたいね~、フォウ」


「そうだね、フィフ。……新しい義姉様ねえさまの誕生を祝して」


「「わ~~~~~~パチパチパチ」」



 あ、フォウ姉さん達これがしたかったから付いてきてたんだ……。やっぱり独特だな~。

 

 

 

 

 

 

  ※作者より:前回の与太コーナーはこの話の前フリでした。監視してたら釣られて現地で盛り上がった結果出来ちゃったのがアンペラルアです。

 

 

 

 

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ブラドラのナムさんと。 ~なんか唐突に嫁が空から降ってきたんだが?~ くらげロック @Quallen_Rock

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