第16話 本音と建前ってヤツですかね? (違う)

 

 

「……イサナ、事前に通達は有ったか?」


「御座いません。別働隊が準備をしようとした時点で既に御二人が居られたという報告が上がっております」


「だろうな……。お二人さん、此処は場末の安宿じゃねぇぞ~。俺達家族がメシ喰う処なんで、おっ始めんならでヤッてくれ!」


 ウチの子供らに教育すんには早ぇっての。まだ昼時だぞ? ったく……。




 この世界に於ける女神オルタネッタというのは、慈愛の女神として多くの国で敬虔な信徒の居る最大宗派だ。


 歴史の表舞台に降臨したとされている回数も多く、単純に目立つから当然のように認知度も上がる。これは自然の成り行きだろう。


 その状況によって姿は様々に変わるものだが、多くの場合では長身で金髪か銀髪、この世のものとは思えぬ美貌にメリハリのある身体、服装は後光のせいか余りハッキリとはせず、宗教画家の理想とされる簡素かつ荘厳さを感じさせる意匠が競うようにして描かれている。


 実際は……見ての通り、完全なる幼女神だ。ちっこいし、髪色も桃色だから各国の宗教画や立像なんかと比べて全っ然違う。


 最初に会った時は相当な下っ端が来たモンだな~と思ったが、あの女神オルタネッタ本人だと言われた時は『おいおい、娼館の詐欺絵じゃねぇか!』と思わず叫んじまったよ。


 安さを売りにするような所じゃあ表に陣取って手招きするなんてご立派なモンは無く、受付の胡散臭いオヤジか兄ちゃんが出してくるデカい冊子のような在籍表にズラッと見栄えの良い上半身姿が並んでいる。


 悪質な店だとその絵自体も記念切手並みかと思うような小ささで、更に盛りに盛っているのが見え見えだ。


 何でんなコト知ってるかって? 聞かんでも分かるだろ、若かったんだよそん時は。大抵は酒の勢いとかで、酔いが冷めたら損したって気付くんだ。


 俺は特に女神信仰とかには興味が無いんで、つい正直にポロッと出ちまったのさ。そん時女神の隣に居たカールスの目付きが瞬時に変わったのがまあ、怖えのなんの。


 こりゃ失敗したなと思う間も無く俺の隣に居るナムからは殺気が漏れ出てくるし、そんな場の空気も無視してオルタネッタは、


『あれは営業用なのー! 分かりやすくご立派にしとかないと、そもそもこっちが言うことすらマトモに聞いてくんないんだもん!』


 とプンスコしていらっしゃる。そらそうだろうよ、人ってのは何時だって都合の良い方ばっかり信じたがるからな。


 真実を知ったからどうという事も無く、最初っからこの世界の女神に対する俺の態度は今と大して変わらんね。精々ナムの叔父さんの嫁、って程度だ。そこには上も下も左も右も、これっぽっちも存在しない。


 ……あ~、ナムを通じて一応関係者ではあるから、直接手を下せない立場の二人から世界で起きてる困り事に対してはされるがな。


 最初に女神オルタネッタに対して発したあの不用意な言葉を人質に、旦那のカールスから上手いコト使われてるって言やぁそうなんだが、嫌な時はハッキリ断るし、向こうも無理を通しては来ない。


 カールスがあんな立場になってるように、ナムも元の世界では亜神と呼ばれても不思議じゃないような存在だった。向こうの主神に言い寄られてたぐらいだしな。


 それはこの世界に来ても変わらんが、アイツは俺の嫁であるという事以外にはあまり執着が無いらしい。


 寧ろ敢えて神々の序列に加わらない事で余計な制約を取っ払い、何者にも邪魔されない環境を作り出しているのかも知れんが……。


「カールス叔父様、オルタネッタ様、お久しぶりです」


「おお、ファスちゃんか! 益々ナムちゃんに似て美人になったねぇ」


「おっすおっす~! お邪魔しちゃったー!」


 挨拶軽っ。……がこの世界の命運を握る女神かと思うと、気が抜けてそら対応もテキトーになるわ。



 ただ、こんなんだからこそ憎めないし、無邪気なだけに見えてもしっかり仕事はしてるからな。それが遍く人々に愛される秘訣なのかも……いや、違うか?

 

 

 

 

 

 

  ✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿

 

 

   ~とある日の管理人室 (的な場所) での会話~

 

 

オルタネッタ (以下:オルタネ)「ど、どうしよ~カーくん! なんかヤバそうなのが来ちゃってるよー!」


カールス (以下:カーくん)「どうしたのそんなに慌てて? ………あ~、これは」


オルタネ「うわ~ん、せっかくここまで育ててきたのにぃ。もう一度やり直しはめんどくさーい!」


カーくん「まあまあ落ち着いて。もしかすると大丈夫かも知れないから」


オルタネ「え~? でもこれ、すっごい凶悪そうなオーラバリバリだよー?」


カーくん「それを言ったら僕も同じだと思うんだけどね……」


オルタネ「全然違うよー! カーくんは超絶バリバリのイケメンだもーん!」


カーくん「まあ否定はしないけど……。とにかく一度、会ってみようか。僕が付いていれば多分話は聞いてくれるんじゃないかな?」


オルタネ「やったー! カーくんと久しぶりのデートだ~!」


カーくん「一応仕事だからね? それは忘れちゃダメだよ?」



  ~ちょっとした時間の経過後~



オルタネ「カーくん楽しかったね~! たまにはお外でするのもサイコーだったかもー!」


カーくん「……あ~、オルタネッタさん? ヨソ様のいる所でその話はちょっと……」


オルタネ「えー? ここの子たちはそんなのみんな知ってるんだしー、下界にいたら全部筒抜けなんだから今さらだよ~?」


カーくん「だとしても上に立つ者として最低限の威厳は……先にしちゃった僕が言えたことじゃ無いか」


オルタネ「そーだそーだ~! もっと愛されちゃってー、いっぱい子供をつくっちゃおー!」


カーくん「なんか本来の趣旨とはズレちゃってるけど……一応事態の解決はしてるし、いいのかな……?」

 

 

            -劇終-

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る