第12話 想定ガイもオドロキの出来事。

 

 

 そりゃあ表立って言える訳無いだろう? お前は予定外でデキちまったんだよ、とかな。


 だからって愛情が湧かないだとか、んな事は断じて無い。ナムとはキッチリ盛り上がった上で全員生まれてる。そこに愛がある限り、育てられる環境が持てているからこその結果だ。流石にいい加減、そこへの覚悟ぐらいは出来ているつもりだ。


 誰しも子育てに完全なる正解を得られたなんて言いやしないと思う。俺の親父からだって、俺のヤンチャしてる頃に正直な気持ちをブチ撒けられた事だってある。そん時は殴り合いになってたけどな。


 結果は俺の一方的な負けだ。ボコボコだったなありゃ。親父の腕っぷしだけは昔から凄かったんだよ。


 今ではナムによる地力の引き上げで単純な戦力差だけなら余裕かも知れんが、気分的なモンで未だに勝てる気がしねぇ。


 親ってのは何時でも子供にとっての大きな壁なのさ。乗り越えるんだか踏み倒すんだか避けて通るんだかはソイツ次第だろうが。



「……父さん、余り気にしない方が上手く行くって事もあるからね?」


 相変わらず左から右へ受け流すように鉱石を処理していたロクスが、手を止めないままに呟く。大して張っても無ぇのに一々良く届く声だな、ったく。


「一応聞いとくが、そりゃどういう意味だ?」


「言葉通りだよ。子供っていうのは親の背中を見てある程度は勝手に育つんだ。大事なのは、ここぞって時に如何にして親の声を子に伝えられるか――その環境作りだと思うよ?」


「……お前は育ち過ぎじゃねぇか? よっぽど俺よか中身上だろ?」


「それは、ノーコメントで」


 をいをい、どっからその言葉仕入れた? ナムからある程度知識を植え付けられてっから俺は理解出来わかるけどよ……。


あるじ様!!!』


 鋭く響く短い警告。猶予は一瞬。それで十分だ。



 ズガンッッ!!!



 ド派手な音が浜辺に突き刺さる。俺とロクスの正面に瞬間で現れた巨大な氷砂糖の氷山みたいなモンに、たま遊び用の金属球が高速回転しながら煙を出して埋まっている。


あるじ様、御無事ですか?」


 音も無く俺達親子の傍らに跪いた一体の魔術人形、β13-7号 (通称:イサナ)。


 苦労して生み出した完成版記憶核の第一号を搭載した個体で、あの凶悪な耐久試験を無傷で乗り越えたせいなのかは知らんが、設計製作者のナムを余所に俺への絶対的忠信を得てしまった謎の曰く付きだ。


 結局それを面白がったナムが勝手に俺の秘書兼世話係という事にして、更に対外的な魔術人形達の統括役も担ってもらっている。


 その姿は精緻な造形で作られた女性型。透き通るような銀髪を適度に束ね、如何にも使用人と言った風情であくまでも目立たないように振舞う……んだが。


 今は砂浜での機動性と風景に馴染むという名目で、部分的に使用人要素を感じさせる意匠の混ざった水着を着ている。コイツは勿論ナムと長女連中が生み出した、夏用の自信作らしい。


「問題無い。それよか……」


「ゴメンゴメ~ン。ちょ~っと加減が狂っちゃったぁ♪」


 浜辺の砂から生成した衝撃吸収層を無数に重ねた半透明結晶の向こうからひょっこりと犯人、もとい次女シルが悪びれた様子も無く現れる。


 こっちは十歳が着るには大胆過ぎなビキニという形の水着だ。男親としては露出過多だろと言いたいが、ナムがそれ以上のを平然と着てる所為で黙る一択なんである。



 愛する嫁のソソる恰好を止める野暮な男なんざ、居ねえよな……?

 

 

 

 

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