第10話 キセツハ・ナツ・デ・アル。

 

 

 溢れる陽光、押し寄せては引いていく波の音、美しい白砂の浜辺。そして煌めく青い海の上で響き渡る、無数の衝撃音と不可視の衝撃波共の多さたるや。


 紫黒のエーテルを薄い膜のように纏わせているのがナム、その相手は……やっぱり長女のファスか。


 齢十にして最早ナムの小さい分身かと思うぐらいに雰囲気がソックリになりつつあるが、ナムの研究を手伝っている時は物静かでとにかく目立たない。


 普段は大人しくしてるかと思えば、こういう時は率先してナムと組み手をしたがるんだよ。そんでもって総合的な実力も頭一つ抜けてる感じだな。


 ナム直伝の魔術、異世界から持ち込まれた知識の上に、この世界で学問と呼ばれている全ての分野に可能な限り目を通しているらしい。そこにあの戦闘力と来たもんだ。


 俺如きじゃ手に負えたもんじゃ無ぇから、必然的にナムが相手になる。益々向上する技のキレ、魔術の練度、増え続ける経験値。そら誰も追いつけんよ。


 ナム曰く『ファスは私の研究成果全てを注ぎ込んだ、史上最高傑作に仕上げて見せるよ。ふふっ、実に楽しみだねぇ♪』だと。我が愛娘ながら、末恐ろしいこったぜ……。



 ……で、ちょいと離れた海域から上がる巨大な水飛沫は、長男セカ (十歳) を八歳の三女フォウと四女フィフの双子で追い詰める、超高速海上追いかけっこという名の低空飛行訓練だ。


 何でも海面や地面ギリギリを飛ぶと少ない消費で効率良く移動が可能になり、その上で敵にも発見され難いとかで、奇襲なんかには持って来いだから必ず会得しろ、というナムの指示らしい。


 いや、一体どんな組織と戦わす気だよ。それにそんな目的だったらデカい水飛沫立てたらダメだろ。


 一応補足しとくが、デカい水飛沫はセカが急転回して振り切ろうとするついでに衝撃波で水の壁を発生させて、フォウとフィフの双子に対する一時的な撹乱を狙ったモンだろう。


 ただそれをやるなら、もっと気配を消せと言いたい。此処からでも気配がダダ漏れで、俺ですらセカの位置が丸分かりだ。あれ程ナムに力任せに頼り過ぎるなと注意されてんのに。後で地獄の砂浜走りだぞ、アイツ。


 波打ち際から少し離れた場所にある涼み小屋で海の幸食い放題をやってる俺達を尻目に、独り灼熱の砂浜を使という、素の身体能力と精神的我慢強さを要求される文字通りの地獄だ。


 勿論、規定の距離を走り終えたらちゃんと食わせるからな (ナムだと余裕、上の子供達だとギリギリな程度の距離と言っておく)。


「……アホだな~。お前は兄貴みたいになるなよ?」


「……分かってるよ。兄さんのオツムは今更だから、早い所手綱を握ってくれる優れた相手を探した方が良いんじゃないかな?」



 おいおい、お前本当にまだ三歳かよ。中身だけオッサンとかじゃねぇだろうな……?

 

 

 

 

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