第9話 戻すと言いつつちょっと進む。

 

 

 さて、俺がダラダラと思い出を駄弁ってるだけだとつまらんだろうから、時を元に戻そう。


 東大陸西端の海岸沿い、ロダンテベラ海洋連合国にある地方都市モメント・ウフ。


 その郊外の放棄された集落跡に俺ことリトス・スキモスと、居座り嫁のナムことナムサフュノジャエリクルトゥンエラフスの拠点 (という名のボロ家屋) が有った訳だが。


 現在そこには直径五百メル程の森と、その中心地に訪問者を出迎える為の住居群 (に紛れ込ませた防衛機構も) が建ててある。


 こじんまりとした一軒家と併設された事務所兼作業場兼倉庫に見えるそれらは俺達二人と子供六人が暮らすには多少手狭に感じるが、実際には秘密基地よろしく地下に広大な区画が確保されており、各自が自由に使える領域を設けている。これは俺、ナム、子供達とで一切の差は無く完全に均等な割り当てだ。


 この区画は神殿のように無数の柱が天井を支えていて、数十メル級の隕石の直撃をも耐えられる仕様になっている。一応魔術的な原理で幾重にも防護・強化されてはいるが、万が一そいつらが効力を失った場合にも退避するまでの猶予を得られるようにする為だ、と設計したナムが魔術の練習がてらに建設の手伝いをする子供達へ説明していた。


 元々この世界には魔法めいた『術』というものが存在していたが、そこへナムが持ち込んだ魔術の概念を融合させ、エーテルに対応させた独自のエーテル魔術、略して魔術を俺達家族の間では使っている。


 こいつはコツさえ掴めれば誰でも扱えるものの、制御を誤ると最悪都市一つを更地にするようなシロモノと化している為、将来俺達が更に頑張るか子供達が独立し家族が増えた時以外での継承は現状考えていない。


 流石にまだ長女世代にもその影は無い……と思いたいが、各地を飛び回っている俺達家族の事だから、大して遠くない未来にひょっこり男を連れて来たりすんだろうなぁ。取り敢えずそいつには俺直々にウチのを叩き込むだけだがな。精々覚悟して来やがれ。




 季節は夏真っ盛り、そして海洋連合国なんて名前が付いている土地柄となれば、当然海に行きたくなるのがこの地域周辺住民の特徴だ。


 ナムを見りゃあ分かるが、ウチの娘達は年齢の割に発育がとても良い。それを勘違いした変態野郎が近付いて来られても面倒なんで、俺達家族はとある辺鄙な海岸を改造して専用の遊泳場を設けている。


 一応所在地的にはロダンテベラ海洋連合国とされている地域で、当然ながら周辺の土地を含めた諸々の権利は取得済みだ。何せ此処では軍事演習紛いの事もやるんでね。


 誰かの迷惑にならないように、ありとあらゆる防護と隠蔽措置を専用の設備でコレでもかと施しているらしい。俺はナムや長女達と比べれば雑魚みたいなモンだから、その装置が作動するような事態までには決してならんからな。


 鉱物系に先鋭化してる属性の性質上、俺は直接戦闘よりも生産向きなんだよ。此処で稼働している設備にも、俺が生成したエーテル貯蓄結晶を使ってるんだ。


 詳細な仕様を決めているナムや彼女に直接指導されている娘達だけでも生成は可能だが、同じ大きさの結晶なら俺の作ったヤツの方がエーテル充填可能容量や瞬間最大出力が倍以上も違ってくる。過負荷時の耐久性に至っては実に数倍は違うらしい。


 キミが作ると結晶内の配列が芸術的な均一さで、密度も段違いに高くなるんだよねぇと恍惚とした表情かおで生成した結晶片手に言われた日にゃあ、もうコイツをどうしてやろうかと夜の想像が……あ、違う? 普通は引く所だろって? ウチはほら、その嫁からして普通じゃねぇかんな。俺も大概毒されてんだよ。

 

 

 

 

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