第6話 色々と長~~~~~~い話。

 

 

「――ようやくお目覚めだね、リトス。いや……ここは愛しの旦那様ダーリンって呼んだほうが良いのかな?」


 妖しく煌めく黒金色の瞳が俺を捉え、様々に浮かんでいた思考の渦が一気に掻き消える。……静まれ俺の理性。そいつより今は訊く事だらけなんだよ。


「ダーリンは勘弁してくれ……。リトスで良い。お前は――」


「ナムサフュノジャエリクルトゥンエラフス」


「は? あんだって??」


「ナムサフュノジャエリクルトゥンエラフス。私のしんの名、真名まなだよ。これは特に高位のドラゴンがやる事だけども、真名はつがい以外の者には決して教えない。所謂、ってヤツさ♪」


 ナムサフュ……そんななげえの覚えられっか!


「……今更拒否権なんざ無いんだろうが、一応訊くぞ。何で俺なんだ? 俺は何処にでもいるような人間ヒュマだ。自称ドラゴンのお前とは格ってのが違い過ぎんだろうよ」


「ん~…… これは表現の難しいデリケートなゾーンになっちゃうんだけど。……そもそも、私は最早ドラゴンであって人間ヒュマみたいなモノだし、キミも同じく人間ヒュマで在りながら同時にドラゴンとも呼べちゃうんだよねぇ」


 だから自称ドラゴンってのは言い得て妙なのさ、とか抜かしつつナムサ……もう面倒だから略してナムが、さっきの続きだと言わんばかりに迫って来るのを手で強引に押し返す。


「んん~っ。何すんのさ!」


「そりゃコッチが言いてぇんだよ。……今日は何月何日だ?」


「7月10日だね」


「3日も経ってんのか。どうやって此処まで来た?」


「キミを一時的に掌握して、あのトラックを運転させて来たよ」


「やっぱり乗っ取ってんじゃねぇか。俺の喰った耳はどうした?」


「恐ろしく甘美な味だったね。……そんな怖い顔しないでよ。アレはこの世界のことわりを認識するのに手っ取り早い方法なんだ。私がキミの血肉から得られた生物の組成、遺伝情報、そしてエーテルと魔素の差異とそれらが肉体にどう影響を及ぼすのかの原理なんかを解析して、私の組んだ立体積層魔術で私自身を最適化――この世界に順応する身体へと作り変えたんだ。流石に暫くは無防備にならざるを得ないから、キミを守護者ガーディアンとして外界との接点としつつ、あの隕石というか超高密度に結晶化した魔素のカタマリを私への最適化魔術と、この集落跡を認識不能にする隠蔽魔術のエネルギー源として活用したのさ。勿論、大地への衝突時に生成された大きな凹みクレーターは周囲を魔素で覆って地属性魔法を強引に行使しといたから、綺麗サッパリ痕跡は残しちゃいないさ。そして私の最適化が完了して目覚めたのが7月8日の深夜、9日に日付が変わる直前で、そこからキミの右耳を復元するついでにドラゴン強めな人間ヒュマとして最適化した私との相性を更に高めるべく、私のドラゴン因子を盛り込んだキミへの肉体改変をチャチャッと済ませたのが9日の昼前。私とキミの不具合チェックを昼過ぎまで百万回行って問題無しと判断した後は、外気と大地から軽くエーテルを頂戴して活動分を補給しながら、具合を確かめつつキミの子を孕ませようと夢中になってたらキミの意識を覚醒させるのをウッカリ忘れちゃってたのに気付いて今に至る……って所かな?」


 ……絶対ぜってぇワザとだろ、それ。用意周到に俺の退路を塞ぐような真似しといて、ウッカリなんざするか?


 それがコイツ本来のやり方だってんならまあ良い。そうじゃ無きゃ……。


「……俺にはお前の元居た世界の都合は分からんがな。前までサッパリだった説明が理解出来ちまってる時点で、俺に何かしたってのは確実だ。最低限、お前の持ってる知識のぐらいは植え付けられたかなんかしたんだろう。お前のやってる事は俺からすれば、神業にも等しいシロモノだ。その最適化とやらが本当に上手く行ったんだとしたら、別にこんな場所に拘る必要も無いぐらいにはな。でもお前は俺を巻き込んで、ガキまで仕込んで居座ろうとしてる」


 何か言いたげなナムの視線に構わず続ける。


「生まれてからロクな人生歩んじゃいないが、勘は良いんだ。――無理してんだったら、取り敢えず全部吐き出せ。俺なんかで良いんだったらずっと隣に居るぐらいは出来る。金は無くても暇だけは腐る程あるからな」


「……言ったね? ドラゴンってのは案外執念深いんだ。一度結んだ誓いを反故にするのは、その一族を全て敵に回すに値する愚行となる。キミにその覚悟はあるのかい?」

 

 

 

 

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