戻ってきた彼女

三鹿ショート

戻ってきた彼女

 私と縒りを戻したいと頭を下げてきた彼女に言うことは、決まっていた。

「止めておけと言った理由をようやく理解したというわけか」

 溜息を吐く私を見ながら、彼女は苦笑を浮かべた。

 彼女は、かつて私の恋人だった。

 互いを尊重し、私は彼女の願いを叶え、彼女は私の望みを聞き入れてくれていた。

 良い恋人同士だと周囲の人々は評価してくれていたが、実際のところ、彼女は私に対して好意を抱いていなかった。

 厳密に言えば、私は二番目の人間だった。

 彼女が心から愛していた人間が私の兄であり、その兄に近付くために、彼女は私を利用していたのである。

 私を利用していたことに対する罪悪感を抱いていたゆえに、彼女は私を尊重してくれていたのだろう。

 兄と彼女が身体を重ねている姿を見たとき、あまりの衝撃に、私は気を失ってしまった。

 目覚めた私に、兄と彼女は正直に事情を説明してくれた。

 二人に対する怒りは抱いていたものの、彼女を心配する己もまた存在していた。

 何故なら、私の兄は、多くの女性と同時に関係を持っていたからだ。

 兄にとって、彼女は遊び相手の一人でしかなかった。

 ゆえに、彼女が心から愛されることは無いのである。

 兄の姿が無いところで、私は彼女にそれを伝えたが、彼女はそれを私の嫉妬による虚言だと考えたらしく、私の言葉を聞こうとしなかった。

 だが、こうして戻ってきたことを考えると、私の言葉を裏付けるような出来事が起きたに違いない。

 彼女は心を入れ替えると頭を下げたが、即座に許すことなど出来るわけがなかった。

 しかし、それからの彼女の言動を考慮すると、どうやら本当に私を愛そうと努力しているらしかった。

 裏切られたとはいえ、今でも私が彼女を愛していることには変わりはないために、私は彼女を許すことを決めた。


***


 彼女と心から愛し合うことができるようになったにも関わらず、私は物足りなさを感じていた。

 彼女の笑顔やその豊満な肉体を独占することが出来ているのだが、私が満たされることはなかった。

 何故このような感覚に陥っているのだろうかと考えたとき、私は、自分で自分を疑った。

 もしかすると、私の眼前で彼女が他の男性に愛されている光景を眺めたいと望んでいるのではないか。

 兄と彼女が身体を重ねているところを見た私は、あまりの衝撃に気を失ったものの、自身の下着に大量の精液を放出していた。

 彼女の裏切りに対する怒りを優先させていたために、気が付いていない振りをしていたが、実際のところ、私は彼女の裏切りに興奮を覚えていたのではないのだろうか。

 まさかとは思いながらも、私は実験をすることにした。

 彼女に目隠しを施した状態で身体を重ねたいと告げ、その通りに準備をしたが、実際は私の友人に彼女の肉体を味わわせた。

 彼女は私と繋がっていると信じ、私の名前を呼びながら快楽に溺れ、私の友人は言葉を発することなく、腰を激しく打ち付けていた。

 その光景を見た私は、己の股間が熱を帯びていることに気付き、新たな扉が開かれたのだと確信した。


***


 それから私は、幾人もの男性に彼女を抱かせた。

 私以外の男性と身体を重ね続ける彼女の行為は、私に対する裏切り以外の何物でもないが、私が公認しているのならば、それは完全なる裏切りというわけではない。

 やがて、彼女はその身に新たな生命を宿した。

 当然といえば当然の結果だが、誕生した子どもは、私とはまるで似ていなかった。

 おそらく、私以外の男性との間に出来た子どもなのだろう。

 念のために調べたが、やはり私と子どもとの間に、血のつながりは無かった。

 だが、私がそのことを嘆くことはない。

 彼女は私の欲望を叶えてくれただけであり、それを恨むことは、筋違いだからだ。


***


 どうやら私の症状は、悪化の一途をたどっているらしい。

 愛する彼女と子どもを見ながら、この二人が奪われた場合にどのような気分と化すのだろうかと考え始めたからだ。

 自分の大切な存在を奪われることを望むなど、私は碌でもない人間である。

 しかし、その感覚を味わってみたいと望む人間こそが、私なのだ。

 私は治安の悪い地域へと向かい、其処で屯していた性質の悪い人間たちに金銭を支払い、彼女と子どもを襲ってほしいと頭を下げた。

 彼らは奇妙な依頼をする私を訝しんでいたが、彼女と子どもの美しさを知ると、下卑た笑みを浮かべた。


***


 手足を縛られた私の眼前で、愛する彼女と子どもが陵辱されている。

 涙を流し、助けを求めながらも、身体は快楽を感じてしまい、嫌悪と悦楽が混在した表情を浮かべる二人を見ていると、私の呼吸は自然と荒くなっていた。

 やがて、彼らが行為を終えたときには、彼女と娘は床に転がったまま動かなくなっていた。

 拘束を解いてもらった私は二人を見下ろしていたが、やがて我慢することができなくなり、二人の肉体を味わうことにした。

 私は、既に壊れている。

 ゆえに、何をしたところで、問題は無かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

戻ってきた彼女 三鹿ショート @mijikashort

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ