08 追放されたポーター、宿屋「希望の小鳥亭」での初仕事 その1

主人公:ヒロ    運搬者ポーター。念願の運搬者ポーターギルドに所属する

宿屋 :ケント…ダスティーの宿屋「希望の小鳥亭」の主人。厨房で料理人をしている

 関連:ケイ …ケントの娘。受付と女給を兼ねている。母親は居るが劇中では未出場

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- 氷を造ろう! -


取り敢えず保管庫と呼ばれた倉庫(結構大きい。具体的には宿屋の半分くらいはあった…目測で20m×10mくらいだから30㎡くらい?)に入り嘆息するヒロ。


「1階の半分とか…どんくらい食料突っ込むつもりだよ?」


恐らくは町の食糧庫の一部を兼ねてるんじゃないかと推測。厨房の裏手にあった倉庫は、入り口の横にある搬入路も兼ねているのだろう通路を進むとそのまま外に通じていた…まぁ、距離にして2mとないんだけれど。


「水は?」


「井戸ならそっから出て奥にいけばあるぞ?」


いわれる儘に搬入路兼用の通路を出て、左右を見回すと左の奥に井戸があった。すぐ近くなのでこれなら水瓶に溜めるには都合がいい。だが…俺には水瓶も水桶も必要ない!


「じゃあ、水を運びますんで…」


「おう」


取り敢えず厨房を出て井戸へと歩く。


(宿に泊まってる人は別の井戸を使うのかな?)


その通りだった。少し歩き、宿の建物に沿って歩くと反対側にも井戸があったのだ。無論、外から見られないようにと少々高めの塀がぐるっと建物に沿って建てられている。


(水質はどんなもんかな?)


じっと見てみる…が、鑑定師ではないので見ただけではわからない。


「取り敢えず収納してみるか…」


ヒロは井戸水を亜空間収納アイテムボックスに水桶1杯分だけ収納して比較してみることにした…



「うーん…どっちも同じくらいか?」


アイテムボックスに収納すると、鑑定程ではないが大雑把な情報がわかるようになる。所謂、



◎井戸水…少し温い水。そのまま飲んでもいいが煮沸することを推奨する。水浴びに使用するくらいなら問題はない


◎井戸水…温いか冷たいか微妙な水。そのまま飲んでも構わないが可能であれば煮沸を推奨



という、水に詳しい人間が見たのと似たような情報が得られる。が、流石に飲めるかどうかは口に入れてみるか簡易鑑定しないとわからないのでその点は優秀だといえよう。


「…取り敢えず厨房傍の井戸を使うか…」


アイテムボックスにずんどこ収納し、アイテムボックス内で結界を使用した滅菌を用いて少しだけ冷やしておいた。後、水瓶には少し冷えた水をプレゼント…と思ったのだが。


「あれ?…これって料理に使う水ですよね?」


まだ1/5くらい残っている水瓶を見て問うと、


「あぁ…その中にも補充してくれるのか?」


と聞かれたので


「あーうん。その前にこの水瓶も綺麗にした方がいいよな?」


よく見ると内側には水垢が付着しており、余り衛生状態がいいとは思えないのだ。


「あー、すまんな…ついでにやってくれるか?…明日の朝飯も豪華にすっからよ!」


という訳で…いや、豪華も何も、まだ夕飯が2食分ストックが余ってるんですが…とはいえないので、


「有難う御座います!…期待してますね?」


と笑って返しておく…食料のストックは多い方が何かと助かるからな!



取り敢えず水瓶を収納。井戸脇で洗う…と装いながらアイテムボックス内で結界を使ってキレイキレイする(こすってキュキュッと音がすれば完成だ)…結界はアイテムボックスの外でも行使できるが、できれば埃の少ないというか存在しないアイテムボックスの方が綺麗になるのだ。


「水瓶はこれで良しっと…」


後は別に収納していた井戸水を水瓶に充填し、アイテムボックス内でキレイキレイして水温を下げる…余り低いと料理で困るかもだから…


(水温は10℃くらいでいっか?)


厨房に戻り、水瓶をそっと出して置く。


「ケントさん」


料理の仕込みをしていた宿屋の主人を呼ぶ。


「おう…ちこっと待ってな?」


暫くしてケントさんがやってくる。


「どれ…」


と、コップを取り出していきなり掬って飲む…いやまぁ、いいんだけどさ。普通、匂いを嗅ぐとか流してみて色合いとか見ねーか?


「…うむ、美味いな。有難うな!」


と、再び仕込みに戻るケント。明日の料理には更に期待を寄せても大丈夫そうだ。そして…アインが現れる。


「ちょっと、いいか?」


「え?…あぁいいけど…」


余り長く時間が掛かるなら断ろう…と思いつつ、アインに付いて行くヒロ。



「すまん…まず謝っておく」


「え?何で??」


「いや…うちらのメンバーが戻って来ない為に面倒を押し付けたようなもんだろう?」


歩きながらアインが謝罪する。確かに仲間の氷魔法を扱えるメンバーが戻って来ないからだろうが…別にできないことを押し付けられた訳ではないので戸惑うヒロ。


「いや、まぁ…できることを頼まれた訳だし」


「そうか…まぁ、今回だけだろうし、気にせず報酬は受け取って欲しい」


「あぁ…何かすまんな」


「いや…どーせあいつだけ報酬独り占めしてたからな…気にすんな」


ニヨニヨと笑いながらアインと自己紹介した彼は更に歩を進める…何処に行くのだろう?…と思っていたのだが、そこは彼らのパーティが泊っている1室だった。



「おお、すまないな」


「え…と?」


中には3人の男たちが椅子に座ったりベッドに腰掛けたりとしており、4人目であるアインがドアを開けた状態で「どうぞ?」と中に入るよう勧めているのだが…


「あ~…取り敢えずお邪魔します?…えと、余り時間掛かるようなら用件だけ聞いて、後で…でもいいか?」


そりゃそうかと、快く了承を得るヒロだった。



「…で、何処まで話した?」


「え?…あぁ、あいつが戻って来れないから氷作り置きの役目を押し付けてゴメン…までかな?」


あいつ…というのが此処に泊まるとなると、野郎4人で一杯の部屋はさぞ窮屈だろうな…と考えていたヒロだが、実は4人部屋を2つ取っているらしい。


「…で、俺に頼みたいこととは?」


「あぁ、そうだった。余り時間無いんだよな?」


「えぇ…時間掛かりそうなら宿の用事を先にしたいんだが…保管庫の食糧とか腐ったら嫌だろ?」


「そうだな…全員腹下して寝込むとか勘弁だわw」


ぐははは…と一通り笑った後、用件を伝えられる。ようやくか…と思いつつ、聞いた内容は以下の通りだ。



◎氷を50kg程作って欲しい

◎飲料水を40リッター程作って欲しい

◎どちらも可能な方法で構わない



「…それって此処じゃなければダメか?」


「いや構わんよ。但し、申し訳ないが…」


「監視、ですか?」


「あぁ…それで構わなければ、だが。こちらから依頼しておいて申し訳ないが…」


「いえ、構いませんよ。口にする物ですしね…」


という訳で、アインさんが監視役で俺たちは保管庫へ逆戻りするのだった…。ちなみにリーダーっぽいのはブロンゴさん。挨拶だけ交わしたのがセッチュさんとトルンさん。みんな見た目と違い、20代後半のお兄さんを卒業したおっさんだ。リーダーのブロンゴさんだけは30代でまだアラフォーではないらしい。アインさんは21歳と俺より1歳年上だが見た目は…まぁ然して変わりはなかった(イケメンだけどなっ!)


…ちなみにもう1室は女性メンバーらしい。リーダーの奥さんとアインさん以外のメンツの彼女とか妹とか…アインさんともう1人の方は最近入ったメンバーで、合計8人パーティだとか。


「じゃ行きましょうか」


「あぁ…」


2人揃って保管庫へ歩く。この部屋も1階なのでそのまま廊下を真っ直ぐ戻る形だ。そして…まずは保管庫の氷が殆ど溶けており、室温も少し温かったので先に保管庫の氷を造る所からにした。無論、アインさんに断ってからだが…腰が低く、頭を下げ捲るのでちょっと困ったということだけ…



「さてと…」


先ずは綺麗にしておいた井戸水を四辺の箱へと注いでいく。凍らせると少しだけ膨張するので9割程溜めてからにする。箱は強度を調べてみた所…少し弱くなっていたのでアイテムボックスに入れておいた木を中で加工してから取り出して紐で結わえていく…が、アイテムボックスの中でやっておけば楽だなと途中で気付いて収納した。


「は?…何やってんだ?」


「いや、俺あんま力強くないし…中でやった方が楽だからな」


と答えたが、何いってんだお前?…みたいな顔で見られた。そんなに変なこといったかね?…と思いつつ、アイテムボックス内で加工して設置。残り3つも水を入れる前に収納・加工・設置を繰り返す。


「さて…水を入れてっと」


最初の1つは既に水を注入済みなので残り3つの箱に水を入れる。


「最後…冷やすぞ」


保管庫の4隅の箱の水に集中する。


「…振動数低下」


イメージとしては水は振動数を上げるとお湯に、そして水蒸気に変化する。水蒸気というのは水を沸かしていれば見られるの白っぽいモヤモヤだ。知識人に聞いて知った訳だが…何故そんな名前が付いてるか?…というのはよくわからない。また、逆に下げると水は冷水になり、最終的には氷となる…ということがわかっている。


振動数というのは水を水たらしめている最小構成の水…そいつの状態を変化させているものだ…と聞いた。凍っていると限界はあるが振動数というものが少なく、水蒸気という状態ではかなり高いらしい。水という液体の中でも熱ければ高く、冷水ならば低いと…だから、その


「振動数」


というものを下げて行けば…氷となる。という訳だ…


※流石にこの世界では分子とか原子とかいう言葉は無いので遠回しですがこういう表現を取りました



「…信じられない」


保管庫の中にはうっすらと霧のようなモノが漂い、だが食材などは凍らさずに四隅の氷を入れる空箱の中の…水だけが凍り付いていた。体感温度もすっかり下がっており…吐く息は白い。恐らくは既に氷点下となっているのだろう。取り敢えず…十分、数日はもつんじゃないかと思う。


「じゃ、氷と飲料水ですよね?」


呆けていたアインさんが、今思い出したかのようにこちらを向き…


「あ、あぁ…宜しく頼む」


と、アイテムボックスだろうか?…背負っていたリュック型のアイテムボックスから人数分の水筒と…氷用だろうか?…割と大きめの箱と、恐らくは予備の飲料水用の樽を取り出した。


「じゃ、じゃあ…まずこれに…」


と説明を受け、取り敢えず全てキレイキレイしてから水を満たし、結界に依る水の浄水をし、飲料水はサービスで冷やしつつ美味しい4℃の冷水で満たし、氷用の箱にはさっき作ったのと同じ氷で満たした。


後で聞いた話だが、氷は生ものなドロップ品や獲物を解体したお肉などを冷やす為の物だそうだ…アインさんとリーダーがもっているアイテムボックスは時間経過軽減の機能が無い為、場所に依っては腐らしてしまうそうで…。氷魔法使いの人が今日は戻ってこれないから準備だけはしたかったそうだ。


「そうですか…大変ですね」


「いやまぁ、あはは…リーダーの奥さんだから文句もいえねーし…」


(最後の方で毒吐いたっ!…まぁ、準備できないのってすっげぇ毒吐きたくなるよな…ワカルワカル)


という訳で、最後の方では割と仲良くなったヒロとアインだった…w



「おお、すまんな」


ということで、宿屋の方は明日報告(既に就寝してたので←深夜まで掛かっちゃったし)するとして、アインさんに頼まれた物を処置して渡し、部屋に戻ってから成果物を見せて報酬を貰うことに…って、幾ら貰えるんだろ?…コレ(何も契約とか交わしてないので最終的にタダ働きの可能性があることに今更気付くアホヒロw)


「リーダー、凄かったぜ…」


と、ぽそぽそと喋るアインさんとブロンゴさんたち。部屋の入口で立って待ってるのでナニ喋ってるかよく聞こえない(4人共部屋のテーブルに水筒とか樽とか氷箱を置いて検証してるせいだw)


そしてうんうんと頷き、ようやく決まったようだ。多分報酬額だと思うけど…


(飲み水と氷だろ?…元は井戸水をろ過して凍らせただけだからなぁ…金貨なんて無理だろうな…せいぜい銀貨1枚貰えればいい所かな?)


…と考えていた所。革袋にチャラチャラと入れ終わったブロンゴさんがアインさんに渡して持っていけと目で語っていた。


(使い易いように銅貨で貰えるのかな?)


確かに銀貨では使い辛いし1枚でこんな革袋に入れるのはおかしい…という訳で、銅貨が100枚入ってるのかなぁ?…と思っていたんだが…


「待たせた。銀貨9枚と銅貨100枚が入っている。確認してくれ」


と、のたまいました…え?


「銅貨100枚じゃなくて?」


「少なかったか?…あぁ、銅貨は余り大きい貨幣だと使い難いだろうと思ってな」


「いやいやいや、十分過ぎるって!…つか、いいのか?…銀貨9枚多くないか?」


「いや…普通に氷をあんだけ作れるのならそんなもんだろ?…うちの姉御なんて4つ氷造るだけで銀貨30枚はせしめてるんだぜ?…まぁ、それでも端数を切り下げて安くしてるんだけどな」


それに…と声を下げてひそひそ声になるアイン。


「あれだけ冷えてる氷、美味い水…それも冷水だ。誰だってもっと高い金を出してでも欲しがると思うぜ?」


自信を持て!…と、胸を叩くアイン。


「あ、あぁ…有難う…御座います?」


「だからさ…まぁいいや。遅いんだし早く寝ろよ?」


と、別れる。あっさりと…ヒロは銀貨9枚と銅貨100枚が詰まった革袋(既にアイテムボックスに突っ込んで確認済み)を持って…ずっしりと心地よい重みを両腕に感じながら自室へと戻るのだった…


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翌朝…

ケント「おう、保管庫のこと、ありがとな!」

と、早朝に押し掛けて来て金の詰まった革袋をドン!と置いて去って行く宿屋の主人に寝ぼけ眼でぼ~っとしているヒロ(昨夜は遅かったので、未だ眠いっていう…w)

そして本格的に目が覚めた後、テーブルの上に放置してた革袋を何気にアイテムボックスへ…そして慌てた様子で厨房へダッシュするヒロw

ケント「どしたぁ?…足りなかったか?」

と笑う宿屋の主人にヒロは耳に顔を寄せて囁く。

ヒロ 「ケントさん!…多過ぎますって!」

ケント「いいからいいから…取っとけって!」

という訳で保管庫の製氷の報酬を押し付けられた訳だが…約束された報酬は「美味い飯が腹一杯」だった筈なのだが…結果的に銀貨30枚が銅貨100枚と共に入っていたのだ!(合計銀貨31枚相当)

そして…当の保管庫は1週間経過しても溶けず…2週間経過してようやく溶け始め、再びヒロに依頼しようとしたのだが、旅立つギリギリで間に合ったが帰って来る予定は当面無いと聞き、床に転がって駄々っ子モードでイヤイヤするケントさんが初めて目にした奥さんに海老反り固めで成敗されるのだった…ナンジャソラw

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